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剣と華  作者: 風吹流霞
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5.少女と盗賊と騎士

リイナが動き出しました。

どんどんと乱暴に扉が叩かれ、思考に渦にはまっていたリイナははっと我に返った。

「はい・・・」と遠慮がちに応じる。これからの計画を実行するためには大人しい少女を演じておいたほうがいい。


やるからには徹底的に――


彼女はマリカの格言を思い出す。漆黒の魔女の格言は、リイナにも確実に息づいていた。

「お頭に手を出すな、死なすなと言われたわけだが、食事がいるか?」

明らかに面倒くさそうな言い方だ。彼女は少し躊躇った後、

「ここは少し寒いので、毛布をお借りしたいのですが・・・」

少し躊躇ったのも大人しさを演出させる演技である。

「毛布ねー、ちょっと待ってろ、すぐ持ってくる」

男は下卑た笑い声を響かせ、遠ざかっていった。男の下卑た笑い声が何を意味するか、直に理解した。

リイナは世間知らずだが、このあたりの知識はそれなりにある。マリカの教育の賜物であろう。

「男ってのは所詮そんなものよ」

これがマリカの口癖。

魔女であるマリカの年齢は不明だが、永年生きてきた彼女の事だから、経験はあるのだ。

その後で決まって、


「でもね、リイナ、それ以上に女って駄目ね」


どんなに駄目な男でも愛してしまったら、離れられなくなってしまう。

マリカは自嘲めいた笑みを浮かべていた。


「だからね、リイナ、貴方は貴方を本当に愛してくれる人を見つけて幸せになるのよ」


恋愛のれも知らないリイナはその言葉を、今でも理解できないでいる。

彼女は扉の横に張り付く。


さあ、お仕置きの時間ですよ・・・


にやりと彼女は笑みを浮かべた。

「おい、毛布持って来たぞ」

がちゃりと男が扉を開けた。リイナの姿が見当たらずきょろきょろしている。

彼女は無防備な男の首に素早く手刀を落とす。音もなく男は崩れ落ちた。


うう、重い・・・


成人男性の重さに、16歳の少女が耐えられるはずがなく、彼女はずりすりと男を引きずり、部屋の奥へと移動させる。男の服を手早く脱がし、下着一枚にする。


なんか、私のほうが追い剥ぎみたいだ・・・


罪悪感に苛まれつつも、服を回収し、男に毛布をかぶせる。空気は吸える状態にしたから死ぬことはないだろう。

服を剥ぎ取ったのは念のためであるが、


臭い、汗臭いよお・・・


その匂いに彼女はなきそうになった。見つかった場合も考え、男の服を着ることも考えたのだ。

しかし、強烈な匂いに彼女はそれを着ることを拒否した。

それならば、出来るだけ見つからないようにしよう。

彼女はそう決心し、部屋の鍵はきっちりとかけ、廊下へと気配を隠した。

とその前に、誰かに報告しておいたほうが時間が稼げるかな。

男の服を手に、彼女はそろりと声のする方向へ足を向ける。

洞窟内は暗く、姿を隠すのにはもってこいだった。

男の声を真似て、「人質は眠っているから安心しろ」とだけ報告しておく。

男がどれだけ気絶しているか予測がつかないから、迅速に行動しなければならない。

アジトには色んな物が落ちていた。しばらくそれを眺めていて、リイナは閃いた。


罠作ろう!


森育ちの彼女は罠作りの天才である。罠があれば時間も稼げる。

彼女は材料を拾って、せっせと罠作りに励んだ。


くんくんと美しき白犬は、風の匂いを嗅いでいるように見えた。

それは彼女の友人の匂いが空気中に漂っているのからか。

シルクは時々、後ろを振り返る。自分達が付いてきているのか確かめるように。


「俺達は大丈夫だ、伊達に鍛えちゃいない・・・」


だから先に進めとディーノはシルクに話しかける。そうすると、彼女は前を向いて歩みを進める。

まるで、自分達の言葉がわかっているようだ。

村を出て、一日と少々。食事と仮眠を挟みつつ、シルクの後を尾けてきた。

彼らはゆっくりだが、確実に盗賊達の後を追ってきていた。眼前に鈍色の洞窟が見えた。


「自然洞窟か」


シルクは完全に歩みを止めている。

「成程、ここにいるのか・・・」

周囲を探ってみれば、馬車が一台置き去りにされていた。奪われた馬車と見ていいだろう。


「全員、囲め・・・、まだ手は出すなよ」


ディーノは部下達に指示を飛ばす。賊たちを一網打尽に出来る機会を逃すわけにはいかない。

部下達は頷くと、ほうほうに散らばっていく。

しばらく監視していると、賊たちが出たり入ったりしているのを確認できた。


やはり、ここがアジトと見て間違いないか・・・。


アジトではなくても、これだけ賊達が出入りしているということはそれなりに重要な拠点と言うことだ。


全員捕縛するために、どう攻めるか


悩みどころだが、このまま見張るだけでは埒が明かない。近くにいる部下を呼び寄せる。

そこには例の女性隊員が2名、名前をイザベラ、メイアと言った。

「一斉攻撃の間に、お前達はリイナって女の子を救出しろ、いいな」

二人はこくりと頷いた。


ローザンヌ地方でこれまでになかった大規模な捕り物劇が始まる。

後半は次話で。ディーノに見せ場を作ります。

次は少し流血っぽいので注意をば。

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