4.少女と盗賊2
ちょっとギャグはいりまーす(笑)。
移動の際には、目隠しをされ、ご丁寧に抱えられるという念のいり様。
歩行での距離を頼りに、アジトを見つけられては困るということか。
一般人には有り得ないことだから、誰かやってのけた人がいるのだろう。
目隠しを外されたリイナは、部屋の中央でぽつんと立っていた。
周囲には金銀財宝、宝石などが乱雑に積まれていた。盗賊達の戦利品なのだろう。
一応、私も戦利品になるのね・・・
高値で取引される魔女の薬を出させるための人質。彼らにとっては金のなる木に写っているに違いない。手は縛られていないので、部屋の扉を探ってみるが案の定、鍵がかかっていた。
ずっと立っているのも疲れるので、リイナは腰を下ろし、部屋を観察してみる。
部屋は黒いむき出しの岩肌だ。窓はひとつもない。
どうやら、ここは自然の洞窟を利用したアジトのようだ。確かにこれはなかなか見つからない。
自然のものだから、騎士団に見つかっても移動すればいいし、元でもかからないし、足もつきにくい。
しかし、惜しむらくは、
「声が響くよね・・・」
リイナはぽつりと呟く。盗賊の首領とその子分との会話がまる聞こえである。
本人達は多少声を抑えているようだが、五感の鋭い彼女には関係がない。
「お頭、帰りやしたぜ」
これはリイナに目隠しをした男。
「おう、首尾はどうだ?」と応じたのが盗賊の首領と思われる。
「馬車を一台」
首領は「うんうん」と頷いている。
「後、魔女の知り合いという・・・」
「ま、魔女だとっ!?」
部下の言葉を首領が遮った。がたんっと音がしたので、座っていた椅子を倒したのだろう。
「魔女と言う言葉は二度と口に出すな!!」
叫んだ首領の声が心なしか震えていた。
「す、すみませんっ・・・!!」
慌てて謝る手下達。
「魔女にどれだけ、えらい目に合わされたか!今でも思い出せるぜ!」
首領は拳を握り締め、わなわなと震えだした。
首領が盗賊のアジトの最初の候補はラグージの森だった。鬱蒼とした広大な森、魔女の伝承が残る森。
人が近付かない森は、盗賊のアジトにはもって来いだった。
彼は最初から魔女の存在は信じていなかったため、ラグージの森に足を踏み入れたわけだが・・・。
「忌々しい森の魔女め!」
興奮してきたのか彼の声が大きくなる。彼が森で蒙ったのは甚大なる恐怖だった。
まず最初に森に閉じ込められ、迷子。疲れたので休んでいたら、巨大な獣に追い掛け回され、命からがら森を脱出。逃げる際、魔女の高笑いを聞いた気がした。
それ以来、彼にとって魔女はトラウマであり、タブーになったのである。
あわわ、マリカらしい・・・
子分と首領の話を聞き、リイナは納得。彼らの話に出てくる魔女は、十中八九マリカだ。
やるなら徹底的にやるというマリカの格言を思い出す。
可愛そうに・・・
彼女は盗賊達が哀れになった。魔女は味方にすれば心強いが、敵に回してはいけない、絶対に。
「人質には絶対手を出すな!後、死なすな!」
首領が力説していた。
「騎士団との取引には使えるかもしれないから!」
「さすが、お頭!」
子分たちの声が嬉しそうだ。それを聞いて、「これは大変」とリイナは眉をひそめた。
「騎士団の取引に使われたら目立ってしまう・・・」
目立つと面倒なことになるのは目に見えている。
これは、自分で脱出するしかないなぁ・・・。
彼女は決心した。幸い、抵抗しなかったため、手は縛られていない。手も足も使える。
「さてどうしようか」と彼女は作戦を練り始めた。
盗賊でも捕まえて、アジトを吐かそうとも思ったが、そううまくいくはずがなく、おあつらえ向きの盗賊は現れなかった。
「魔女の取引ということだから、命の安全は保障されるだろうけど・・・」
それ以外は保障が出来ない。若い女の子だ。飢えた狼の群れに羊を放つようなものである。
「何とか早く救出してやりたいものだなぁ・・・」
ディーノは頭を掻く。最悪な状況を考え、女性隊員を2名随行させていた。
そこに現れたのは、白い犬だった。思わず、その美しさに息を呑む。
厳しくもやさしさを湛えたアイスブルーの瞳、白銀のような毛並み。ディーノにも解った。
これは狼の血を引いている・・・
「シルク!!」
一緒に捜索していたケヴィンが叫ぶ。成程、この白い犬がリイナという女の子の連れなのか。
確かにこれは、ケヴィンが自慢したくもなるだろう。そのシルクは茶色い鞄をさげていた。
「それは、リイナちゃんの鞄!」
シルクのアイスブルーの双眸がじいとディーノを見つめている。彼は膝を落とす。
「主人、いあ、友人のところまで案内できるか?」
何故か、主人と言うのを躊躇い、友人と言いなおした。シルクは、小さく鼻を鳴らし、ゆっくりと歩き出した。
「隊長!!」
信じられないという隊員の声に、彼は一言。
「他に手段があるか?」
隊員達は沈黙した。
「どうせ手がかりもないんだ、ここはシルクの嗅覚に頼ってみるのもありじゃないか?」
やってみて駄目なら、次の手段を考えればいい。
「犬の嗅覚は人の数倍以上らしいぞ」
とディーノは破顔一笑した。
余談ではありますが、浚われて救出された後、自分の足で歩いてアジトを突き止めたのは、ディーノの相方さん。いろんな意味で規格外な方だったりする・・・。