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81.魔王の庭(三)

 オスヴィドはその答えに満足していた。口頭の誓いに何の効力もないとはいえ、集めた情報と自身の観察を総合する限り、この二人の新たな魔王は軽々しく約束を口にするような不誠実な者ではない。協力を考えられる仲間だった。


 すべては時間が証明するだろう。


「二人とも、加わってくれたことを歓迎する」


 オスヴィドは微笑みながら頷いた。


「わあ! エリちゃん、ようこそ! これからは友達だけじゃなくて、仲間でもあるんだね!」


 興奮したクイナは身を屈めてエリカを抱きしめようとしたが、向けられた鮮紅の冷たい眼差しに動きを止めた。それでも、胸の高鳴りと興奮は少しも収まらない。


「ふっ」


 老竜は意味ありげに笑っただけで、巨大な竜の頭をそっぽへ向け、何も言わなかった。


 岩場全体もかすかに震えた。まるでコアビーストも歓迎の意を示しているかのようだった。


 当初、エリカは死亡峡谷には自分とヴィンセント、せいぜいドロシーを加えた三人しかおらず、三人だけですべての知性種族からの攻撃を迎え撃たなければならないと考えていた。


 だが今では、エルフの助力が得られただけでなく、思いがけない協力相手まで現れた。現時点ではどれほど役に立つのか分からないものの、今回魔王の庭に加わった成果としては悪くない。


 魔王たちからそれぞれ認められ、歓迎されても、エリカは特に表情を変えなかった。軽く頷いて応じるだけで、すぐに要求する。


「死亡峡谷の参加意思も確認できた。先ほどまでの説明も十分だ。そろそろ正式に魔王の庭の議事へ入ってもらえるか」


「死亡峡谷? エリちゃんの迷宮城、すごく強そうな名前! 外では、私たちのことを何とかの魔王って呼んでるでしょ? 私たちはお互いそんな呼び方しないけど、知性種族はみんなそう呼んでるの。だったら、エリちゃんは何の魔王になるの?」


 本題をクイナに遮られたものの、ほかの二人の魔王も急いではいなかった。


 魔王の庭が開かれるようになって、すでに千年以上。毎年のように似た問題を処理し続けてきたところへ、ようやく新しい仲間が現れたのだ。二人も興味を覚えたらしく、エリカへ視線を向ける。


 この「友達」の質問に、エリカは内心かなり面倒に感じていた。ただ、これも一種の儀式のようなものなのかもしれない。あえて拒むこともせず、適当に考えて答えた。


「私とヴィンセントは元々人間だ。どうしても名称が必要なら、私たちを『人の魔王』と呼べばいい」


「うん!!!」


「機会があったら、私がエリちゃんのためにいっぱい広めてあげる! シロ大陸中のみんなに、人の魔王エリカと海の魔王クイナは友達だって知ってもらうの。そうしたら、もう誰も私たちの迷宮城に攻め込もうなんて思わないよ!」


 そんな素敵な未来を想像すればするほど、クイナは興奮していった。頬の鰭をぱたぱたと素早く動かし、幸せの中に浸っているような気分になる。


 その「友達」は彼女の様子に首を振り、どうでもよさそうに冷たくもう一度要求した。


「好きにすればいい。そろそろ『正式な』魔王の庭を始められるか?」


 新しい仲間の視線がこちらへ向く。どうやら彼女も、この場で「まとも」なのは自分だけだと気づいたらしい。オスヴィドは内心で無奈さを感じながらも、結局はまた進行役を続けるしかなかった。


「まずは俺から始めよう。みんな、このいくつかの場所を見てくれ」


 翼で形作られた立体地図がエネルギーの操作に応じて変化し、シロ大陸のいくつかの区域が隆起する。それぞれの地形は異なる色に染まり、目印となった。


 エリカがざっと目を通すと、どこも知性種族がまだ正式には足を踏み入れていない地域だった。


「この辺りに身を隠している悪魔種族から、ここ数年、堕天使族へ何度も報告が入っている。現地の邪悪体や魔獣にかなり大きな異変が起きていて、以前より凶暴になり、力も増しているらしい。しかも、どれも血肉食の習性を持つようになっている。危険性はかなり高い」


「それだけではなく……正体不明の新たな種族群までいくつも現れた。大半は意思疎通ができず、極めて残虐な生命だ」


 血肉食とは、あらゆる血肉を食料とし、同族すらもその対象に含めることを指す。そして同族同士の共食いは、恐ろしく歪な生命を生み出しやすい。


 悪魔種族にとっても知性種族にとっても、それは決して触れてはならない禁忌だった。


「俺は、これも新たな大変革につながる可能性の一つではないかと考えている。すでに一部の同胞を調査へ向かわせた。この件はまだ知性種族には知らせていない。結果が出たら、まずお前たちに伝える。その時に、どう対処するか一緒に考えよう」


 そう言い終えると、オスヴィドは背の高い深海妖姫を見上げ、話を促した。


「クイナ、お前も何か見つけていたはずだ。新しい仲間にも説明してやったらどうだ?」


「そう! エリちゃん、聞いて。海はね、すごく、すごく広いの。今でも深海妖姫族でさえ、全部を把握できてないくらい。私も若い頃は、一人で世界中を探検したいと思ってたんだけど、でも……」


 また話が逸れそうになるのを見て、エリカは先回りして遮った。


「要点を。私たちに知らせる必要がある異変とは何だ」


「……うん。それなんだけど、最近、私の子たちがシロ大陸の沖合の何か所かで、不自然に海面へ浮かび上がったかなり大きな島々を見つけたの。その上には、人型異種生命体がいる!」


「しかも組織立って行動する能力があるみたいで、船みたいなものを作ろうとしてる。たぶん、ほかの場所へ探検に出ようとしてるんだと思う。シロ大陸まで来る可能性もすごく高いよ」


「人型異種生命体?」


 エリカには、その表現がよく理解できなかった。


 現在使われている野外生命の分類方法は、非常に単純だ。


 言葉で意思疎通ができず、残虐で血を好む種族は、総称して邪悪体と呼ばれる。迷宮城ですら、世界の心を用いてようやく強制的に隷属させることができる存在だ。


 本質的に、彼らの思考は一つしかない。生まれながらに、あらゆる生命を滅ぼし、自らを発展させることを目的としている。


 一方、言葉による意思疎通はできなくても、接触を試みることのできる種族は魔獣と呼ばれる。温厚な魔獣の中には飼い慣らせるものも少なくない。また亜人やエルフなどは、種族天賦によって一部の魔獣と意思を通わせ、互いを理解できることもあり、共存できる可能性が存在していた。


 だからこそ、クイナが「人型異種生命体」という聞き慣れない言葉を持ち出すと、知識の豊富なエリカでさえ疑問を覚えた。


「新しい種族……って言えばいいのかな? 邪悪体みたいに破壊することしか考えてるわけじゃなくて、人間みたいに協力もできる。でも食獣人みたいな感じでもないの。姿も……今まで見たことのない変わった生命で。だから私は人型異種生命体って呼んでるの。そう! それで合ってる!」


 魔王たちにも、クイナが懸命に説明しようとしていることは分かった。その顔には困り果てた表情が浮かび、自分が見たものをうまく言葉にできないらしい。


 その時、セバスティンも頭を上げた。竜の鼻から熱い息を吐き、やや不満げに口を開く。


「前にも話しただろう。問題があるなら、俺が若い竜を連れて行って、その島々を滅ぼしてしまえばいい。なぜいつまでも厄介事になるかと気にする必要がある」


「老竜。異変したものをすべて滅ぼすだけで今ある種族が生き残れるのなら、竜族がいつまでも身を隠している必要などなかったはずだ。竜獣時代、お前たちと超獣種が戦争によってどう衰退していったのか、忘れるな」


 オスヴィドの精悍で整った顔には、はっきりと反対の色が浮かんでいた。


 同時に岩場全体もかすかに震え、同意を示す。


「……なら、好きに話していろ。俺の番になったら起こせ」


 遠い昔の嫌な記憶を思い出させられたセバスティンは、それだけ言うと興を失い、再びその場に伏せた。


 その様子を見て、オスヴィドもようやく息をつき、どうにか話を元へ戻した。彼はクイナに話へ興味を持たせ、できるだけ発言や交流を増やそうとしている。それが彼女の感情や精神を安定させる助けになるからだ。


 黙って話を聞きながら一部始終を観察していたエリカも、そのことに気づいていた。


 気性の荒い老竜が一頭。


 精神に異常を抱えた深海妖姫が一人。


 意思疎通のできないコアビーストが一体。


 そして、太古の神霊と思しき夢。


 魔王の庭はまさしく名実ともに強大な集まりだったが、進行役を務める側は本当に苦労が絶えない。どうやら千年以上、この役目はずっとオスヴィドが担ってきたらしい。


 それを今まで続けてこられただけでも、十分に大したものだった。


「……それでね。私はそのまま若い子たちに人型異種生命体の様子を監視させて、島から出られないようにしておくつもりだったの」


「でもここ数年、人間の蒼藍帝国がどんどん強くなって、海商騎士団の航路もますます広がって、通る場所もどんどん増えてるでしょ。もうすぐ両方が出会うと思うの。そうなったら、何か問題が起きる気がする」


「どんな問題だ?」


 この会議がどのように進められるのか、おおよそ把握できてきた。エリカは魔王の庭をより効率よく進めるため、自分も役割の一部を引き受けることにして、自ら質問した。


 その様子を見たオスヴィドは、出会って以来もっとも誠意の感じられる笑みを、黙って彼女へ向けた。


「人間じゃ、人型異種生命体には勝てないと思うの。両方の生命の……本質? 根源? それとも別の何かが、たぶん違うの。それに、その違いはシロ大陸にも影響すると思う。うまく説明できないんだけど……うん、とにかく、あの二つが出会ったら、すごく悪いことになる気がする」


「……その人型異種生命体について、もう少し詳しく調べることはできないのか? あるいは、両者が接触するのを阻止する。海は深海妖姫の領域だ。この程度なら難しくないはずだ」


 どうにかクイナの話を理解したエリカが、要点を突いて問いかける。


 だがクイナは首を振った。珍しく友達の提案を拒み、その静かで美しい顔には真剣な表情が浮かんでいた。


「だめ。人型異種生命体は危険なの。あの子たちじゃ対処できないかもしれないから、近づきすぎないように言ってある」


「それに最近、知性種族は遺跡から飛空艇みたいな魔導技術を復興させることに成功したでしょ。深海妖姫だって、海上の空までは封鎖できないよ。人間と人型異種生命体が出会うのは、もう時間の問題なの」


 確かに、禁忌の地の探索と開発が進むにつれ、知性種族の魔導技術は着実に向上している。


 悪魔種族はすでに、この時代に選ばれた種族ではない。知性種族の進出をいつまでも際限なく阻み続けることなどできなかった。


 だが人間は、知性時代に選ばれた種族の一つだ。それにもかかわらず、深海妖姫の王は人間では人型異種生命体に勝てないと判断している。


 ならば相手も、大変革を引き起こす潜在的な要因である可能性が高い。すべてを覆す始まりとなるかもしれず、その時には当然、死亡峡谷も影響を受けることになる。


 エリカが黙って考え込んでいると、オスヴィドが突然提案した。


「こうしよう。人型異種生命体については、確かに正体を突き止める必要がある。ただ、そこまで大きな危険があるかもしれないのなら、不死族である新しい仲間に任せ、クイナが補助につく」


「その後に得られた情報は、俺が知性種族との交渉や取引に使う。そこで得た利益は魔王の庭へ還元する。そして、この件に何もしていない老竜とコアビーストは、それぞれ俺たちに一つ借りだ。どうだ?」


「異論はない」


 セバスティンは頭も上げずに答えた。


 岩場全体もわずかに震え、同意を示す。


 クイナは友達と一緒に任務へ行けると聞いただけで、ほかのことなど何も気にせず何度も頷いていた。あと少しで、堕天使の王は頭がいいと褒め出しそうな勢いだった。


 天賦「不死」がある以上、エリカは自分の身の安全をそれほど心配していない。


 ただ、死亡峡谷はようやく立ち上がったばかりで、外には今も虎視眈々と狙う侵略者が大勢いる。まだ処理しなければならないことが多かった。


 少し考えたあと、エリカは条件を出した。


「今、鋼鉄の玉座、人亜連合、蒼藍帝国が手を組んで攻め込む準備をしていることは知っているはずだ。海外へ調査に行くのは構わない。だがその前に、死亡峡谷がこの問題を片づけるのに協力してもらう」


「あんなものは虫けらにすぎん! 滅ぼせば――……いや、いい。竜島に連絡し、今後は竜と飛鳴の地から攻略作戦に加わる者が出ないようにする。それと、死亡峡谷が必要とするなら、若い竜を何頭か防衛に送ってやってもいい。ただし、食料とエネルギーの供給はお前たちが責任を持て」


 セバスティンは途中で言葉を変えた。先ほどオスヴィドに言われたことを思い出したらしい。


 するとオスヴィドも、驚くべきことを口にした。


「俺も同じだ。神々の国とはすでに暫定的な合意に達している。先の蒼藍帝国の進攻の際にも、彼らはすでに自陣営を抑えていた。今後も神官や所属騎士を自ら攻略作戦へ派遣することはないはずだ。必要なら、俺も同胞を死亡峡谷の防衛に回せる」


 その説明で、エリカは先の皇家冒険団に強力な騎士や、何でもこなせる神官が大量に加わっていなかった理由を理解した。


 オスヴィドは一見すると、いつも何か良からぬことを企んでいるように見える。だが実際には、陰でかなり手を貸していたのだ。


 どうやら新しい仲間の誕生を、相当に重く見ているらしい。


「私……」


 クイナも先を争うように好意を示そうとしたが、遠い海の向こうにいる自分ではあまり役に立てないことに気づいた。


 あれこれ考えた末、ようやく口にする。


「死亡峡谷から海へ通じる地下河川が見つかったら、深海妖姫も手伝えるよ!」


 エリカは適当に頷いただけで、特にクイナを相手にしなかった。


 そもそも彼女は自分と一緒に海外の任務へ行くことになっている。死亡峡谷のために別の援助をする必要はない。ただ一緒に話へ加わりたかっただけなのだ。


 するとオスヴィドがさらに付け加えた。


「コアビーストについては、死亡峡谷で天然素材や鉱物資源、それどころか武器や防具が必要なら、生体迷宮にはかなりの備蓄がある。装備は多少傷んでいるものも多いが、もう一度精錬して修理すれば、まだ使えるはずだ。必要なものを言えば、あいつも反対はしないと思う」


 岩場全体が一度震え、ちょうどよくその意思を示した。


「夢は?」


 本当に神霊であったとしても、エリカは何の負担もせず利益だけ得ることを認めるつもりはない。


 だがオスヴィドは首を振った。


「夢については、前にも言ったとおりだ。これは毎年、魔王の庭で話し合われる重要な議題の一つでもある。あとで一度きちんと説明する。今はただ、夢は俺たちに何の借りもないが、俺たちは夢に多くを借りている。それだけ分かっていればいい」

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