断頭台で笑う悪役令嬢〜体パーツチェンジで最強無双〜
私は婚約パーティーで、婚約者のアロルド第一王子に罵詈雑言を浴びせられていた。
自分で言うのもはばかられるけれど、私ほどの美人でスタイルのいい女はこの国にはいない。ちんちくりんの王子にとっては高嶺の花なのに、どういうわけか政略結婚させられそうになっていた。
このパーティーで王族や高位の貴族たちの前で婚約発表がなされるはずだったが、風向きが変わった。
「シルヴィア、お前はルフィナ嬢と僕の仲を疑い、数々の悪意をルフィナに向けたな! さらに毒殺を企むとは何たることか!」
うむ、毒殺だと?
私は貴族の男に支えられたルフィナを見た。顔面蒼白、髪の毛もざんばら状態。いかにも苦しんだ様子。
「私はシルヴィア様に差し出されたワインを飲んで、喉が焼けそうな痛みを感じました。慌ててバルコニーで吐いたのです。シルヴィア様は以前からも私にさまざまな嫌がらせをしていました。しかし、親愛なる第一王子アロルド様の婚約者であることから我慢していました。でも、もう許せないのです!」
おお、大層な演技よね。
私は苦笑した。
でも周りを見ると、王族や貴族の雰囲気は先ほどまでとは明らかに違っていた。私に対して侮蔑と憎しみの混ざり合った眼差しを向けた。これは以前からルフィナ嬢が根回しをして、私に対する悪い噂を広めた結果よね。
「シルヴィア、婚約は破棄する! お前は投獄だ!」
あっ、そう。
罪状認否もないの?
私は衛兵に両脇を固められて、パーティー会場を後にした。
地下牢に入れられて何日経つか、よく分からなかった。
私はいろいろ考えた。
アロルド第一王子は私に夢中だった。何しろ国宝級の美人でスタイルがいいからだ。自分で言うのはおかしいけれど、私と比べられるほどの美人は、大陸でも指を数えるほどだろう。いわば私はこの国の宝石のような存在だ。
アロルドは伯爵の父に私と結婚したいと懇願していたのだ。私は嫌だった。なんで私より背の低いブサイクな猪首の男と結婚しなくちゃいけないのよ。だから父に断ってもらおうとしたら「結婚しなさい!」の一言だった。
父母は持参金と王族に加われることにテンションが上がっていた。貴族院でうだつの上がらない父に王族の肩書が付くのだ。貴族院での地位も上がって権勢を振るいたいらしい。
あー、そんなのどうでもいいじゃない。私のことはただの貢物としか見てないのね。
そんなわけでアロルド第一王子との婚約が決まった。いやいやながら何度かデートした。アロルドは中身がなかった。私の容姿を褒めるばかりで、将来自分がこの国をどのように運営したいかという展望がなかった。一言でいうと“馬鹿”だった。
二回目のデートで身体をしつこく求められた。当然断った。すると眉間に深い皺ができた。下から見上げる目つきが不気味だった。
「一度目は許す。二度目は……」
「怖い顔ね。大丈夫?」
私の言葉にアロルド第一王子はそっぽを向いた。怒りで肩がワナワナ震えていた。
その後、ルフィナ嬢と頻繁に会っているという噂を聞いた。私は無視した。あの気持ちの悪い男と付き合えるのは大したものだと思ったけれど。
そして今回の婚約発表パーティーで私は、悪役令嬢のそしりを受けて投獄された。
「死刑。断頭台送りにする」
地下牢にやって来たアロルド第一王子が言った。
「シルヴィア、お前は俺に恥をかかせた。そんな奴は生かしておけない」
あら、本音を言っちゃったわね。アロルドの後ろでルフィナがほくそ笑んでいたけれど、勝手にしなさい。
「ところで……お前、なんでそんなに元気そうなんだ? ここ一ヶ月、ろくなものを食っていないはずなのに肌艶はいいし、髪もベトついてなくてサラサラじゃないか」
アロルド第一王子が目を細めた。疑心暗鬼の眼差しだ。
「さー、どうしてでしょうね」
私の返事が馬鹿にされたと思ったのか、アロルド第一王子は奥歯を強く噛みしめた。眉間に皺が刻まれた。
「お前の処分は決まった。明後日に断頭台送りだ。国民の目にその無様な姿をさらすがいい」
「そうよ、私を毒殺しようとした結果を償ってもらうわ」
アロルド第一王子の背後にいたルフィナ嬢が一歩前に出た。
「毒殺? 私はあなたに感謝しているのよ。私にしつこくまとわりつく王子を引き離してくれたから。アロルド第一王子はタイプじゃないの。ずんぐりむっくりの坊ちゃまに関心を持ってくれてありがたかったわ。身を任せるなんて考えただけでも鳥肌が立ったわ」
「なんですって!」
ルフィナは上品な仮面を外した。猿が興奮したように顔を真っ赤にした。
「……婚約解消して正解だったな。シルヴィア、お前と何度デートしてもその冷たい氷のような心は溶けなかった。その美貌に惹かれて婚約したが間違いだった。ルフィナはお前と違って本当に優しい子だ。俺の望むものを何でもくれる」
「あら、婚約者がいたのにルフィナと寝たのね。どスケベね」
「うぐぐ……」
アロルド第一王子がルフィナに目を向けた。
ルフィナの鼻腔が広がり、鼻息が荒くなっていた。
「そりゃあんたがやらせないからよ。結婚するまでおあずけなんて、今の時代に合わないのよ。指一本触らせてくれないあなたに代わって、私がアロルド第一王子を慰めてあげたのよ。下級貴族の私はあなたのようなプライドは捨てたのよ」
「ルフィナ、感謝感激だわ。おかげでアロルド第一王子のねっとりした変質者の目つきから解放されたからね」
「その憎まれ口が叩けるのも今のうちだ。断頭台で泣き叫ぶお前の姿が見ものだ」
「そうよ。落ちた首を国民にさらされるのが楽しみね、ケケケ」
そう言って二人は地下牢から出て行った。
「俺は夢でも見てるのか?」
消灯前の見回りに来た牢番が、私の牢の前で立ちすくんだ。
地下牢は壁に虫が這う石造りの殺風景な場所。ベッドは板張りで薄汚れた粗布の毛布に、バケツのトイレという最低限の居住空間のはずが……目の前には豪華絢爛な貴族の居間が存在していた。
牢屋の中央には高価そうなテーブルと、その左右にふかふかのソファ。床には異国の絨毯が敷かれ、壁の四方には壁紙と、燭台のローソクの火が灯っていた。
テーブルには紅茶ポットと紅茶カップが置かれている。シルヴィアは紅茶を一口飲むと、牢番に気づいたようだ。
「あら、よかったらケーキでもどうですか?」
「これはいったい!?」
「最後の晩餐をすませて、今はデザートを食べているの。よかったらケーキをおすそ分けしますわ」
牢番は腰のベルトにぶら下げた合鍵を取り出して中に入ろうとした。しかし、躊躇した。
「明日の処刑日まで開けてはならない。これは上司に命令された……」
「あら残念ね。お堅いこと言わなくてもいいのにね」
「あんた魔法使いなのか?」
「いいえ、ただの平凡な伯爵令嬢です」
「でもこの部屋の様子は尋常じゃない」
「朝までこのままにしといてね。最後の夜ぐらいぐっすり眠りたいじゃない」
牢屋の奥には天幕付きの豪奢なベッドがあった。狭い牢屋がなぜかとてつもなく広い部屋になっていた。
「俺はきっと夢を見ているんだ。こっそり呑んだ晩酌のせいだ」
牢番は首を振って出て行った。
私は『チェンジ!』の能力を持っている。
それに気づいたのは五歳のときだ。テーブルに置かれた姉のケーキが私のものより大きかったので文句を言った。姉は無視をしてケーキを口に運んだ。
その瞬間、私は心の中で『チェンジ!』と叫んだ。
すると一瞬で姉と私のケーキが入れ替わったのだ。
私は大きい方のケーキを平然とした顔で食べた。
「あんたはブス! 私の妹とは思えないわね」
姉との喧嘩。確かに姉はすっとした鼻筋で目も綺麗。それに比べて私はだんご鼻で眠たそうな目をしていた。これを何とかしたいなー。
家族四人で王都に出かけたとき、繁華街で道行く同世代の女の子の顔を吟味しながら歩いた。前からぱっちりまなこの女の子が歩いて来た。
『チェンジ!』
一瞬でその子の目と私の目が入れ替わった。
王都から屋敷に戻ると姉が首を捻った。
「お母様、シルヴィーの顔が前より綺麗になってない?」
「何言ってるのよ。シルヴィーはあなたに似て綺麗だったわよ」
と言いながら、母は私を見てびっくりしていた。
「そう言えば背も大きくなったし……顔も成長するのよきっと」
「ほんとかな?」
姉は訝しそうに私を睨んだ。
鼻をチェンジしたのは一ヶ月後。
一気に変えるとさすがに怪しまれるから、時間をかけることにした。
目と鼻の次は顔の輪郭や耳の形。一年ごとに重要なパーツを交換した。顔だけではなく、手足も胴体も、すべてのパーツがチェンジされた。
十八歳になったときには、国中で評判のびっくりするほどの美少女が出来上がった。
それに目をつけたのが、アロルド第一王子だった。ほんと、こればかりは勘弁してほしかった。
◇
──処刑日当日。
昼間、牢屋から出された。
私は顔に布地を被せられ、後ろ手を縄で縛られたまま連れて行かれた。
地下牢の通路の暗い場所から、明るい場所に連れ出された。
「うわー、来たぞ!」
「顔を見せろ!」
広場に集まった民衆の声が聞こえた。
顔の布地を外された。
見渡すと広場にぎっしりと人々が集まっていた。
私の顔を見てどよめきが起こった。
「すげー美人じゃないか。わが国随一の美人が断頭台で殺されるのは本当なんだ」
「もったいない!」
「なによ、あんなブス死ねばいいのよ」
「おい、俺に当たるなよ」
とざわめきがやまない。
断頭台の向こうに王族が並んでいた。王様に王妃、第一王子と新たな婚約者のルフィナ嬢、そして政権幹部たちがかしこまっていた。
ルフィナの口角が上がったのが見えた。目には狂喜の色が見える。
私が殺されることがそんなにも嬉しいみたい。
アロルド第一王子が断頭台に近づいた。
そして広場に集まった観衆に向かって右手を上げた。
わー! と沸く民衆。
「わが国で随一の美人と謳われた私の前婚約者シルヴィアは、悪女であった。侯爵令嬢ルフィナが目障りであると認識すると、さまざまないじめや過酷な暴言、さらには毒殺しようと計ったのである。私は元婚約者であろうとも正義の裁きを受けさせます。国民よ、悪女の成れの果てを目に焼き付けてくれ!」
広場の民衆を煽るアロルド第一王子。歓声が沸き起こった。
私は感心した。
民衆の気持ちを掴むのがうまい。
ただの無知、無学、無能だと思ってた王子にこんな才能があったとは、人は見かけによらないものなのね。
アロルドが断頭台の執行官にうなずくと、私は目隠しの布を巻かれた。そして断頭台の板に首を挟まれた。
「よし、やれ!」
アロルド第一王子が合図を執行官に送った。
その瞬間、ギロチンの刃が落下した。
(チェンジ!)
ガッシ──ン!
首が落とされた。
桶に転がった。
首の切り口から大量の血が吹き出た。まるで噴水のように勢いよく飛び散った。
断頭台近くの観衆は血のシャワーを浴びてしまった。
うおおお──!
「悪女が死んだ!」
「やったぜ」
アロルド第一王子が断頭台の前の桶に近づいた。
そして布地を外して髪の毛を掴み、民衆にさらした。
生首を見て広場の民衆がざわついた。
「──あれ? シルヴィア嬢の髪の毛は金髪じゃなかったか。なんで茶髪なんだ……」
「顔も違うような……もっと整っていたぞ」
ざわめきに気づいたアロルド第一王子が、持ち上げた首の顔を自分に向けた。
ヒィィィ──!
アロルド第一王子は掴んだ髪の毛を離した。
床にゴロゴロと首が転がって、断頭台の前の観衆の前で止まった。
「ル、ルフィナじゃないか!」
ワナワナ震えたアロルド第一王子の視線が、先ほどまでルフィナがいた場所に向けられた。
そこには王族に混じって、私、シルヴィアが立っていた。もちろん満面の笑顔で。
あーら、見つかっちゃった。
「あいつだ! 衛兵、その槍で始末しろ!」
アロルドの命令に従った衛兵が、私の腹めがけて槍を突き刺した。
その瞬間、私とアロルド第一王子の位置が入れ替わった。
アロルドは腹を槍で突かれて口から血を吐き出した。
──ゲホゲホ!
床に膝をついたアロルドは、そのまま絶命した。
「あの女は魔女だ! 殺せ!!」
王が命令した。
失礼ね、魔女じゃないわよ。
私の周りを囲んだ衛兵たちの槍が一斉に私の身体を貫く、かと見えた。
もちろんチェンジ! そして王と王妃、第二王子、第三王子の体に槍が突き刺さった。
そして気づいた頃には、壇上にいる王族と衛兵はすべて横たわって死んでいた。
唖然とする民衆。
「あいつは魔女だ。捕まえて火あぶりにしろ!」
「そうだ、みんなで襲えば怖くないぞ」
誰かの掛け声で広場の民衆が我先にと壇上に上がろうとした。
まるで押しくら饅頭みたいに次から次へとやって来た。
チェンジ!
壇上と広場の人々が消えてしまった。
そして空から大量の魚が水と共に落ちて来た。
広場には水が溜まって池のようになった。魚たちが跳ねていた。
王族たちと民衆は遠い海の藻屑になったみたい。お魚さんとチェンジしたからね。
「シルヴィア!」
父と母、姉が広場にいた。
さすがに大切な家族は魚とチェンジできなかった。
「よくぞ助かったな……でもこの国はどうなるんだ?」
確かにそうだ。
私は調子に乗って王族どころか宰相や政権幹部、有力貴族たちを魚にしてしまったから、もうこの国もおしまいね。
国家を運営する人材はいないし、どうしようかしら?
まあいいわ。とりあえず私が新王国を建国して、その女王に君臨するのも悪くないわね。
反対勢力? そんなもの、全部海の藻屑にしてしまえばいいもの。
お読みいただきありがとうございます。評価やブックマークをいただけるとうれしいです。




