0.
敵は眼前に迫る一人を残すのみとなった。しかしこちらも弾はあと一発。
ここで撃ち外せば、近接戦に切り替え 捨て身の特攻に乗り出たアイツの残光刀が、今に俺の首を掻くだろう。
目の前に飛び出してくるやいなや、大振りの構えに入った奴の周囲からは、既に光の粒子が沸き立っている。もう1秒の猶予もない。
死角から突然現れ、このように高速剣技を打ってくるとは、誰が乱戦の中反応できる?これまでに何度、その戦術で敵を殺してきた?仲間の断末魔がよぎる。
俺も銃を構えていた。忌まわしき仇敵。奴が刀を振り下ろす。その軌道をなぞる一閃が眩しく光る。
あぁやはり避けられない。残った一発にすべてを賭け、撃つしかない。引くに引けない。
…しかしそれは向こうも同じ、ここで決めねば負けるという決死の特攻。その覚悟をはらむ 苦し紛れの表情を、俺は見逃さなかった。
しかと見えた。
見えているのだ。
————スコープの照準線上に。
ダン、と重い発砲音が鳴り響いた。スナイパーライフルのいつもの重低音が より大きく鮮明に聞こえるほど、気付けば戦場は静寂に包まれていた。
かすかなうめき声とともに残光刀が手から流れ落ち、地面に突き刺さる。
発動しかけた技のエフェクトは虚しく消えて、その場に倒れこんだ敵の体も泡のように消滅してしまった。消滅。それはつまり死を意味する。
……これで、みんな死んだ。
辺りを見回しても、もう誰もいない。真空のような静けさだけが残された。
この地に立つのは、ついに…俺だけとなったのだ。
『……き、決まったァーーーーーーっ!!』
静寂を破る地響きのような大声が実況席からあがったかと思えば、画面には大きく勝利の文字。しばらく呆然としていると、そばに座っていた仲間たちが飛び上がり、俺の肩を激しく揺さぶってきた。
お、俺は。
「勝った!勝ったんだよっ、僕たち!!」
仲間の一人がそう涙ながらに叫ぶ。
震える手でヘッドフォンを外すと、それまで静かだった世界に大量の音が流れ込んできた。
ワァ——————————ッ!
その瞬間、張り詰めていた全身の緊張がドッと解ける感覚を覚える。
『…最後はヘッドショットだ!死角からの襲撃に、たった一発の弾で迎え撃ちました、凶蚊氏!!』
『そっ、それも近接戦では圧倒的に不利な狙撃銃で…、スコープ越しに正確なショットとは…!』
喉の異常な渇きや、緊張による浮遊感が襲う。頭もふわふわとして、なかなか言葉が出てこない。それでも、この感情は脳天を貫くほど大きく膨れ上がっていく。
法悦に近い高揚、いや、もっとすごいものだ。
脈打つ鼓動、仲間の激励、実況者の咆哮にそして、会場を包む大歓声————。
勝利。
あぁ!俺、もう死んでもいいや。
もはやそう思った自分に今更、恥じらいの気持ちはなかった。
人前で叫ぶなんて…。そんな躊躇もどうでもいい。
どうでもいいんだ…!
「ぃよっっっしゃぁぁぁあああああああああ!!!!」
『今大会、優勝を勝ち取ったのはチームReticle Dominators!そしてMVPはチームの絶対的エース、凶蚊だァーーーーっ!!』
凶蚊!凶蚊!凶蚊!凶蚊!……
ゲームFOR:WINS、第六回日本大会チャンピオン戦。
俺のプレイヤー名、「凶蚊」の熱狂的なコールを浴び、大喝采に包まれながらの幕引き。
ずっと夢見ていたeスポーツの頂点に立ち、俺は今日、人生最高の日を迎えた。




