表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結保証】科学で興す異世界国家~理不尽に死んだ技術者が、科学と運命点で優秀な兄たちを超えて七カ国を統べ、滅びの未来を書き換える建国譚~  作者: Lihito


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/21

7話:赤毛の商人

館を出たその足で、俺たちは街の外れにあるスラムへ向かった。


酷い有様だった。

汚水が垂れ流しになり、腐臭が漂う路地裏。アルカスの寒村よりもさらに劣悪な環境だ。


だが、彼らは皆、アルカスと同じ「北の民」の顔立ちをしていた。


「……殿下、これは酷い」


ヴォルフが顔をしかめる。


俺は頷き、集まった民たちの前に立った。


「ベルン子爵との話はついた! お前たちに借金はない。帰るも残るも自由だ!」


民たちがざわめく。俺は続ける。


「アルカスには今、温かい寝床と美味い飯、そして仕事がある。帰りたい者は、今すぐ荷物をまとめろ!」


一瞬の静寂。

そして、誰かが叫んだ。


「帰れるんだ!」

「借金地獄から解放されるんだ!」


歓声が波紋のように広がり、500人の民が一斉に動き出す。


「セバス、彼らの引率を任せる。俺とヴォルフは市場を見てから戻る」


「承知いたしました」


アルカスには商人が圧倒的に不足している。良い人材がいれば、スカウトしたい。


***


ベルンの中央市場は活気があった。


だが、俺の現代知識からすれば、その質は低く、価格は不当に高い。


小麦は高騰し、燃料の木炭は質が悪い。鉄製品に至っては純度が低く、価格は平民の給料1ヶ月分。


——勝てる。ウチの石炭、ジャガイモ、コークス製農具なら、この市場を席巻できる。


確信を得た。

だが、商品があっても売る人間がいなければ意味がない。


有能な商人が欲しい。……ここは少しだけ、運に頼るか。


俺は意識を集中させた。


【10点消費:有能な商人との出会い】


【消費:10点 残:425点】


直後、市場の一角で人だかりができているのが目に入った。


一人の女性商人が、露店主と激しく言い争っている。


「おい親父! ふざけんのもいい加減にしな! この鉄鍋、継ぎ目から光が漏れてるじゃないか! こんな不良品をセイハ産だって偽って売る気かい!?」


思わず足が止まった。


その女性は20代前半ほど。燃えるような赤毛をポニーテールに束ね、動きやすい商人の服を身に纏っている。


顔立ちは整っている。どこかの貴族令嬢と言われても通用するだろう。

だが、その美貌を台無しにする——いや、むしろ引き立てているのは、彼女の気の強さだった。


「うっせえなこのアマ! 買わねえなら失せろ!」


「ああ買わないね!」


彼女は腰に手を当て、露店主を睨みつける。


「私の目は誤魔化せないよ。アンタみたいな商人がいるから市場の質が落ちるんだ! 恥を知りな!」


啖呵を切る声は凛として通りが良い。周囲の客たちも足を止めて見入っている。


彼女は「ふん」と鼻を鳴らすと、赤毛を翻して立ち去ろうとした。


その鋭い観察眼、品質への妥協なき姿勢、そして度胸。

10点の価値は十分にある。


彼女はこちらへ歩いてくる。

すれ違いざま、その視線が俺の腰——ゲイル作の試作短剣に留まり、ピタリと足を止めた。


「……ん?」


琥珀色の瞳が、一瞬で鋭くなる。


「ちょっとアンタ、その腰の短剣。その鉄の光沢、タダモノじゃないね?」


彼女は顔を近づけてきた。ふわりと、柑橘系の香りが鼻をくすぐる。


俺の顔を見上げ……そして、全くときめかない真顔で言った。


「ねえ、その短剣、ちょっと見せてくんない? アタシはミーシャ。行商をやってる」


異性としての興味ゼロ。純粋な「商品」への興味だけの目だ。


……知ってた。もう慣れた。


俺は短剣を抜いて差し出した。


「お目が高い。今売ることは出来ないが、将来的にこの品質の商品はアルカスの特産品として販売する」


ミーシャは短剣をひったくるように受け取り、太陽の光にかざした。


指で刃を弾き、その澄んだ音色に目を見開く。


「……信じられない。これ、ただの鉄だよね? セイハのドワーフだって、こんな芸当はできやしない」


俺は畳み掛けた。


「ただ、今のアルカスは貧しくて開発が遅れている。もしアルカス人口増員に協力してくれたら、この先1年間はアルカスでの商売で税は取らないと約束しよう」


ミーシャは短剣から顔を上げ、俺の顔をじっと見つめた。


——お?


一瞬、期待した。

この距離、この状況。さすがに何かあるんじゃないか?


しかし、彼女は俺の顔を一瞥し、すぐに興味を失ったように視線を短剣に戻した。


……ないか。ないよな。分かってた。


「顔はいいのに、商売は下手だねえ、アンタ」


彼女はニヤリと笑った。


「こんな『宝の山』を持ってる領地での独占販売権と免税特権? そんなもん、アタシが金払ってでも欲しい権利だよ」


ミーシャは短剣を返した。


「乗った! 契約成立だ」


彼女はポンと俺の肩を叩いた。


「さっきスラムで騒ぎになってた500人の大移動、アタシの荷馬車とコネで効率よく運んでやるよ。ついでに、くすぶってる職人たちにも声をかけてやる」


彼女は赤毛を指で梳きながら、悪戯っぽく笑った。


「アタシはミーシャ。長い付き合いになりそうだね、領主様。善は急げだ、馬車を回してくる」


彼女は足取り軽く、人混みの中へ消えていった。


最高の商人を手に入れた。

俺の「異性としての魅力」は相変わらず通用しなかったが、まあいいか。


***


数時間後。


ミーシャの手配した馬車列と、セバスの引率により、500人の民がアルカスへ向けて出発した。ミーシャがスカウトした職人家族も数組いる。


これで労働力不足は一気に解消へ向かう。


別れ際、俺はセバスを呼び止めた。


「セバス、治安の維持と情報秘匿を頼む。ミーシャには技術の核心を悟られるな」


「御意。あの商魂逞しい小娘に『宝の山』の製法を知られれば、骨の髄までしゃぶられかねませんからな」


「それと、ミーシャに二つ依頼しておけ。一つは情報通の手配。もう一つは腕の良い料理人だ」


セバスが首を傾げる。


「料理人、でございますか?」


「ああ。ジャガイモを使った料理の開発だ。美味い芋料理があれば、移住者を増やす宣伝になる。それに——」


俺は少し声を落とした。


「——中央のフェルゼン侯爵。食欲減退に悩んでいると言っていたな」


セバスの目が鋭く光った。


「……老人の胃袋を掴む、と。承知いたしました」


セバスが一礼し、馬車列と共に去っていく。


残された俺とヴォルフは、馬首を北へ向けた。


「さて、ヴォルフ。辺境伯家に接触しに行くぞ」


「北の防人、ゼクス卿の元へですね」


ベルンでの収穫は大きかった。だが、まだ足りない。


次は、軍事的な後ろ盾だ。


お読みいただきありがとうございます!

もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆(投稿)の励みになります!

ブックマークもぜひポチッとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ