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【第一部完結】科学で興す異世界国家 ~理不尽に殺された技術者は第三王子に転生し、科学で王座に至る~  作者: Lihito


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51話:理情両輪

王都、王城の大広間。


三年ぶりに、この場所に立っている。

最初の報告会から、もう三年が経った。


大広間には貴族たちが居並んでいた。

フェルゼン侯爵、ゼクス辺境伯、カルセン伯爵——俺を支持してくれている者たち。

そして、ヴァリウス兄上やリアン兄上を支持する者たち。


全員の視線が、玉座に向いている。


父王が立ち上がった。


「最後の報告会だ」


低く、重い声が広間に響いた。


「三年間、お前たちはそれぞれの方法でこの国に貢献してきた。今日は最後の報告会であると同時に、次の王を決める場でもある」


父王は俺たち三人を見渡した。


「一人ずつ、語れ。なぜ自分が王にふさわしいのか。どのような国を作っていくのか。貴族たちの前で、己の信念を示せ」


俺は兄二人を見た。

ヴァリウス兄上は腕を組み、堂々と立っている。

リアン兄上は静かに目を閉じていた。


「では、長子から」


父王の言葉に、ヴァリウス兄上が前に出た。


***


ヴァリウス兄上は貴族たちを見渡した。


「俺の三年間を語る前に、一つ問いたい」


堂々とした声だった。


「お前たちは、シンラが弱くなったと思わないか?」


広間がざわめいた。


「かつてシンラは、七カ国の中で最強と呼ばれた。どの国も、シンラに戦いを挑もうとはしなかった。だが今はどうだ。エンヴァのような小国にすら舐められ、魔物を送り込まれる始末だ」


兄上の声に、怒りがこもっていた。


「俺はこの三年、軍の再編に取り組んできた。古い慣習を廃し、実力主義を導入した。訓練を厳しくし、装備を整えた。その結果、エンヴァを制圧することができた」


貴族たちが頷いている。

エンヴァ制圧は、兄上の功績として広く知られている。


「だが、まだ足りない」


兄上は拳を握りしめた。


「シンラを、かつての最強国に戻す。いや、それ以上の国にする。俺が目指すのは——強兵富国だ」


強兵富国。

軍が強ければ、国は自然と富む。


「強い軍があれば、他国は手を出せない。交易路は守られ、商人は安心して商売ができる。民は安全に暮らせる。全ては、軍の強さから始まるのだ」


兄上は貴族たちを見渡した。


「俺は戦場で先頭に立ってきた。剣を振るい、兵と共に汗を流してきた。机の上で命令を出すだけの王にはならない」


その言葉には、重みがあった。

実際に戦場に立った者だけが持つ、説得力。


「シンラの民よ。俺についてこい。俺がこの国を、誰にも侵されない最強の国にしてみせる」


兄上は一礼して、下がった。


拍手が起きた。

特に武官系の貴族たちからの拍手は、大きかった。


***


次に、リアン兄上が前に出た。


「兄上の言葉、もっともだ」


静かな声だった。ヴァリウス兄上とは対照的な、落ち着いた口調。


「軍は大切だ。国を守る盾であり、矛でもある。だが——盾と矛だけで、国は成り立つだろうか」


リアン兄上は貴族たちを見渡した。


「俺はこの三年、経済の立て直しに取り組んできた。商業振興、税制改革、交易路の整備。地味な仕事だ。戦場で剣を振るうような華やかさはない」


自嘲するような笑みを浮かべた。


「だが、結果は出た。シンラの税収は三年前より二割増えた。商人たちの活動は活発になり、民の暮らしは少しずつ豊かになっている」


数字を挙げる兄上の言葉に、文官系の貴族たちが頷いていた。


「エンヴァの件でも、俺は裏方に徹した。物資の供給、情報の収集、補給路の確保。派手な手柄ではないが、なければ作戦は成り立たなかった」


リアン兄上は一歩前に出た。


「俺が目指すのは——富国強兵だ」


富国強兵。

国が富めば、軍は自然と強くなる。


「金がなければ、兵は雇えない。武器は買えない。訓練もできない。全ての根本は、国の富なのだ」


兄上の目が、鋭く光った。


「俺は知っている。戦の勝敗は、戦場に出る前に決まっていることを。どれだけの兵を養えるか、どれだけの物資を用意できるか——それを決めるのは、経済力だ」


リアン兄上は貴族たちを見渡した。


「華々しい勝利を語ることはできない。だが、俺はこの国を富ませることができる。豊かな国を作り、その富で最強の軍を養う。それが、俺の目指す国だ」


兄上は一礼して、下がった。


拍手が起きた。

文官系の貴族たちからの拍手が、特に大きかった。


***


俺の番だ。


前に出ると、貴族たちの視線が集まった。

三年前、泡沫候補と見られていた第三王子。

今は——どう見られているだろうか。


「兄上たちの言葉を聞いて、思ったことがある」


俺は口を開いた。


「二人とも、正しい」


貴族たちがざわめいた。


「ヴァリウス兄上の言う通り、軍は大切だ。強い軍がなければ、国は守れない。リアン兄上の言う通り、経済も大切だ。金がなければ、軍は維持できない」


俺は一呼吸置いた。


「だが、俺は三年間で学んだことがある。理屈だけでは、人は動かない」


井戸問題のことを思い出した。

合理的なルールを作った。正しいはずだった。

だが、民は従わなかった。


「俺が治めるアルカス領で、水の問題が起きたことがある。俺は合理的なルールを作った。これで解決すると思った」


貴族たちが耳を傾けている。


「だが、うまくいかなかった。ルールは正しかったが、民の心を見ていなかった。古参と新参、それぞれの立場、それぞれの思い——そういうものを無視していた」


リーネの言葉が蘇る。

『なんでも一人で決めすぎ。もっと周りを頼ってもいいのに』


「結局、俺は民と一緒に井戸を掘った。汗を流し、同じ釜の飯を食った。そうして初めて、問題は解決した」


俺は貴族たちを見渡した。


「理屈だけじゃ、ダメなんだ」


次に、北壁砦のことを思い出した。

千を超える魔物の群れ。一酸化炭素で殲滅した、あの夜。


「逆に、情だけでも国は守れない」


声が少し低くなった。


「北壁砦で、魔物の群れと戦ったことがある。俺は——外道と呼ばれる戦法を使った。綺麗事では、兵を守れなかったからだ」


エレオノーラの言葉が蘇る。

『後悔がなくとも、痛みは持ち続けてください』


「情だけで動いていたら、あの時、多くの兵が死んでいた。時には、冷酷な判断も必要なんだ」


俺は深呼吸した。


「理屈と情。どちらも必要だ。どちらが欠けても、国は前に進まない」


俺は一歩前に出た。


「俺が目指すのは——理情両輪だ」


広間が静まり返った。


「理屈と情は、車の両輪だ。片方だけでは、車は真っ直ぐ進まない。ぐるぐると同じ場所を回るだけだ」


俺は貴族たちの目を見た。


「ヴァリウス兄上には、武の力がある。リアン兄上には、経済の知恵がある。俺には——その両方を束ねる覚悟がある」


俺は拳を握りしめた。


「この三年、俺は様々なことを学んできた。一人で抱え込むな。周りを頼れ。だが、最後の決断は自分でしろ。そして、その決断の重さを背負い続けろ」


父王を見た。


「俺を王にしてくれ。俺が、この国を——いや、人間すべてを、守ってみせる」


俺は一礼して、下がった。


沈黙が続いた。


やがて、拍手が起きた。

最初は小さく、次第に大きくなっていった。


——前世の俺に、聞かせてやりたかった。


理屈だけじゃダメなんだ、と。

データが完璧でも、論理が正しくても、それだけじゃ人は動かない。


あの頃の俺は、理屈さえ正しければ通ると思っていた。

通らないのは環境のせいだと思っていた。


違った。

足りなかったのは、俺の方だ。


三年かかって、ようやく分かった。


***


投票が行われた。


貴族たちが一人ずつ、支持する王子の名を告げていく。


俺は静かに、その様子を見ていた。


集計が終わった。


父王が立ち上がった。


「結果を告げる」


広間が静まり返った。


「次期シンラ国王は——アレン・フォン・シンラとする」


一瞬の沈黙。


そして、歓声が上がった。


俺は呆然と立ち尽くしていた。


勝った。

本当に、勝ったのか。


「アレン」


ヴァリウス兄上が近づいてきた。


「兄上——」


「見事だった」


兄上は俺の肩を叩いた。


「正直、悔しい。だが、お前の言葉には負けた」


兄上は膝をついた。


「シンラ第一王子ヴァリウス、次期国王アレンに忠誠を誓う」


その言葉に、広間がどよめいた。


「兄上、そんな——」


「黙って受け取れ。これが、俺の答えだ」


リアン兄上も近づいてきた。


「やられたよ、アレン」


苦笑を浮かべている。


「経済戦でも負け、最後の演説でも負けた。完敗だ」


リアン兄上も膝をついた。


「シンラ第二王子リアン、次期国王アレンに忠誠を誓う」


俺は二人の兄を見下ろしていた。


三年前、泡沫候補だった俺。

今、二人の兄が俺に膝をついている。


「……ありがとう、兄上たち」


俺は二人に手を差し出した。


「これからは、三人で国を作っていこう」


兄二人が、俺の手を取った。


広間に、大きな拍手が響いた。

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