1話:終わりと始まり
目を開けると、知らない天井があった
——何が起きた?
記憶が蘇る。
後輩の高橋が死んだ。
俺は気づいていたのに、何もしなかった。
「環境が悪い」—そう言い訳して、見て見ぬふりをした。
後悔した。だから変わろうとした。
データを揃え、結果を出した。
なのに「計画にない」の一言で却下された。
正しいことをしても、通らない。
そう思いながら歩いていたら—轢かれた。
薄暗い部屋。畳っぽいが、畳じゃない。
「お、起きた」
向かいに男が座っていた。
年齢不詳。だらしない姿勢。湯呑みを片手に、こっちを見ている。
「悪いね、死んだわ。トラックに轢かれた」
「……は?」
「転生させるから安心して。別の世界に送る。——拒否権はないけど」
情報が多い。いや、少ないのか。説明が雑すぎて判断できない。
「……お前は」
「神。お前の担当」
神。
見た目は三十代のサラリーマン。湯呑みの茶を啜っている。
「色々聞きたいだろうけど、とりあえず条件だけ話すわ」
「条件?」
「お前、シンラって国の第三王子になる。アレンって名前。16歳。王位継承戦ってのがあって、3年後に次の王が決まる」
「おい、急に始めるな」
「継承戦のルールは、辺境領の経営。成果出した奴が王になる」
なんだこいつ、自分勝手に押し付けてきやがって。
「……俺の領地は」
「北の端。極寒地帯。資源なし、民ほぼなし、価値なし」
「ハズレじゃねえか」
「まあね。兄が二人いて、長男は武人、次男は策士。どっちも優秀。お前は期待されてない。母親は早くに死んでる。父親は興味なし」
詰んでないか、それ。
「あと10年後に魔王軍が来て人類滅ぶ。これを何とかしてほしい」
「何とかしろって、俺一人で?」
「まあ、お前が中心になってもらう感じで」
「無理だろ」
「そうでもない」
神は湯呑みを置いた。
「お前には運命点を1000点渡す」
「運命点?」
「因果を操作できる。消費した分だけ、都合のいいことが起きる。小さい幸運から、まあまあの奇跡まで」
「……普通の人間はどのくらいある?この世界では一般的なのか?」
「10点くらい。自分の意思じゃ使えないから一般的ではないな」
1000点。普通の100倍。
それだけあれば、何とかなるのか?
「全部運命点でゴリ押しするなら、5000点以上は要ると思う。足りない分は実力で補って」
「随分キツい条件だな」
「こっちも色々あるんだよ。——ただ、転生前に初期条件をいじれる。運命点の前払いで」
「……どういうことだ」
「何が欲しい?」
それだけだった。説明する気はないらしい。
俺は考えた。
まず領地。資源なし、民ほぼなし、価値なし。
現代知識があっても、原料がなければ何も作れない。
「資源を埋められるか。俺の知識で使えるやつを。食料と産業、両方欲しい」
「片方100点で出来るよ」
化学、物理、工学。この世界にはまだないであろう技術。
資源があれば、産業を作れる。100点は安い。
「次。味方は老執事一人だったな。人材を付けられるか」
「一人150点で超優秀な人材つけれるよ、それなりで良ければ50点くらいでもつけれるよ」
武官は分かるとして、技術者は必須だ。俺の知識を形にするには、この世界の技術を知ってる人間が要る。ここはケチるとこではない。
「武官と技術者をつけてくれ」
「他には」
「他に何がある」
「色々。何が欲しい?」
こいつ、マジで何も説明する気ないのな。
政治をやるなら——きっと第一印象は重要だ。現世でも見た目がいい奴は得をする。醜男は不利だ。
「人望を上げるようなものはあるか」
「カリスマね。100点で付けられる。同性からも異性からも印象が爆上がりする。これ付けてハーレム作った奴がいるとか聞いたことある」
異性か。
……少し、惹かれた。前世では縁がなかったし。
「ただ、次の器はそんな醜男じゃないよ? 普通」
「……50点でいい」
「りょーかい」
神は指を振った。空中に文字が浮かぶ。
【残運命点:450】
「資源200、人材300、カリスマ50。計450点消費。残り450点でスタート。——悪くないと思うよ」
「……ひとつ聞いていいか」
「どうぞ」
「前の——アレンは、どうなった」
神は湯呑みを手に取った。
「降りた」
それだけだった。
「……降りた?」
「まあ色々あったんでしょ。転生すりゃ分かる」
深追いする気はないらしい。こっちが聞きたくても。
「じゃ、送るわ。——頑張ってね、期待してるから。俺もそろそろ勝ちたいんだよね」
「……勝つ?」
「こっちの話。——じゃ、よろしく」
視界が白く塗り潰された。
***
石造りの天井。
目を開けると、知らない部屋だった。
質素な寝台。窓の外は雪。
体を起こす。手が小さい。
壁の鏡に、知らない顔があった。
黒髪。灰色の瞳。まだ子供に近い顔立ち。
——その瞬間、何かが流れ込んできた。
食卓。椅子が一つだけ。窓の外に笑い声。
広間の隅。誰も俺を見ていない。
廊下。足音が遠ざかる。振り向かない背中。
冷たい石の床。一人で座っている。外は祭りの音。
——16年。
これが、アレンの16年だった。
説明はいらなかった。体が、覚えていた。
こいつは——この体の持ち主は、これに耐えられなかった。
だから、降りた。
扉が開いた。
白髪の老人が入ってくる。背筋が伸びている。
「殿下。お目覚めでございますか」
名前が浮かんだ。セバス。
この男だけが、16年間ずっとここにいた。
「……ああ」
「本日より、アルカス領への旅路でございます。ヴォルフとゲイルも待機しております」
ヴォルフにゲイル、運命点での武官と技官だな。最初から知ってたかのように頭に入ってきた。
窓の外では、まだ雪が降っていた。
運命点が450点ある。
前世の知識がある。
領地には資源がある。仲間も来る。
前世では、正しいデータを揃えても通らなかった。
上が腐っていたからだ。組織が硬直していたからだ。
でも、ここは違う。俺が一から作れる。
――今回は邪魔されない場所がある。
「行くぞ、セバス」
今度こそ——俺のやり方が正しいことを、証明してやる。
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