表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結保証】科学で興す異世界国家~理不尽に死んだ技術者が、科学と運命点で優秀な兄たちを超えて七カ国を統べ、滅びの未来を書き換える建国譚~  作者: Lihito


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

13話:恋愛偏差値

春の足音が、アルカスにも届き始めていた。


雪解け水が小川となって流れ、畑には青々とした芽が顔を出している。アンモニア肥料の効果は絶大で、痩せていた土地が見違えるほど肥沃になっていた。


そして何より——ジャガイモが、収穫の時を迎えていた。


「殿下! 見てくださいこれ!」


ゲイルが興奮気味に木箱を運んできた。中には、拳大のジャガイモがぎっしり詰まっている。


「今年の収穫量、去年の3倍ですぜ! 肥料のおかげで、芋がデカくなってやがる!」


「上出来だ」


俺は芋を一つ手に取り、その重みを確かめた。


これで、フェルゼン侯爵を落とす準備が整った。


***


夜。大食堂。


ミーシャが連れてきた料理人——ジャンが、厨房で腕を振るっていた。


「へいお待ち! 特製『ポテトガレット』だよ!」


テーブルに並べられた皿には、薄切りにしたジャガイモをカリカリに焼き上げ、その上にトロリとチーズがかかった一品。


「おお……」


ガルドが目を見開いた。


「これが、あの芋か? まるで別物だな」


「芋を薄く切って、じっくり焼く。それだけで食感が変わる」


ジャンは腕を組んで胸を張った。


「素材へのこだわりが強すぎてクビになった」とミーシャは言っていたが、その腕は本物だ。


「さあ、遠慮なく食ってくれ」


俺の言葉を合図に、食堂にいた全員が皿に手を伸ばした。


一口食べた瞬間、歓声が上がる。


「美味い!」「外はサクサク、中はホクホクだ!」「チーズがたまらねえ!」


ガルドもヴォルフも、普段の厳つい顔を崩して芋を頬張っている。ゲイルに至っては、すでに3枚目に突入していた。


「おかわりだ! ジャン、もう一枚!」


「はいはい、焼いてるから待ちな」


賑やかな食堂。温かい料理と、満足げな笑顔。


俺もガレットを一切れ口に運んだ。


——美味い。シンプルだが、素材の味が活きている。


(これなら、フェルゼン侯爵の舌も満足させられるかもしれない)


そんなことを考えていると、食堂の隅に見慣れた銀髪が見えた。


リーネだ。


彼女は子供たちにガレットを配っていた。しゃがみ込んで、小さな子供と目線を合わせている。


「はい、熱いから気をつけてね」


柔らかい声。そして、ふわりと綻ぶ笑顔。


——今日も、綺麗だな。


俺は不覚にも見惚れていた。


あの笑顔を、俺にも向けてくれないだろうか。


(……待てよ)


ふと、考えが浮かんだ。


(今の俺は、前世とは違う。顔だって悪くない。領主としての実績もある)


ゼクスという武闘派の大物を同盟に引き込み、バーゴを傘下に収めた。

理屈で説得する力には、それなりに自信がついてきた。


(なら、リーネ相手でも——)


カリスマは効かない。だが、それは「魔法が使えない」というだけの話だ。

実力で勝負すればいい。

理屈で攻めれば、道は開けるはずだ。


(アプローチは……そうだな、まず褒める。女性は褒められると嬉しいはず。自然に会話を始めて、距離を縮める)


……いけるか?

いや、いける。理屈上は正しいはずだ。


俺は意を決して、リーネの方へ歩いていった。


「リーネ」


「……殿下」


彼女が振り返る。子供たちへの柔らかい表情が、一瞬でいつもの無表情に戻った。


(うん、知ってた)


だが、ここで怯んではいけない。


俺は口を開いた。


「その……」


よし、ここで褒める。髪が綺麗だと言えばいい。簡単だ。


「今日も、髪が……」


——声が、上ずった。


なぜだ。ゼクスの前でも、バーゴの前でも、こんなことはなかったのに。


リーネが首を傾げた。


「? 何か付いてますか?」


「いや、違う。綺麗だなと……」


最後の方は、ほとんど聞こえないくらいの声になっていた。


沈黙。


リーネは俺の顔をじっと見つめ——


「……そうですか」


それだけ言って、視線を子供たちに戻した。


困惑。明らかに困惑している。


気まずい空気が流れる。


「あ、あの、それより」


俺は慌てて話題を変えた。


「明日からの出張で、帳簿の引き継ぎを——」


「セバス様に預けてあります」


「そ、そうか。なら良かった」


「他に何か?」


「いや、ない。……すまん、邪魔した」


俺は逃げるように、その場を離れた。


背中に、リーネの視線を感じる。たぶん、「何だったんだ?」という目で見ているのだろう。


食堂の喧騒の中、俺は一人で頭を抱えた。


(……駄目だ)


カリスマが効かない相手には、素の俺で勝負するしかない。


そして素の俺は——恋愛偏差値が壊滅的だった。


前世から何も成長していない。


(政治も経済も軍事も攻略できるのに、なぜ女性一人攻略できないんだ……)


遠くで、ミーシャがこちらを見て肩をすくめているのが見えた。


「何やってんだか」と言いたげな目だ。


……見られていたのか。最悪だ。


***


翌朝。


出発の準備が整った。


馬車には、ジャガイモと調理器具、そして料理人ジャンが乗り込んでいる。


「殿下、準備完了でございます」


セバスが一礼した。


「フェルゼン侯爵の屋敷までは、馬車で3日ほどの道のりです」


「ああ」


俺は馬車に乗り込もうとして——ふと、足を止めた。


見送りの人々の中に、銀髪の姿があった。


リーネは相変わらず無表情で、こちらを見ている。


目が合った。


彼女は小さく会釈だけして、すぐに視線を逸らした。


(……まあ、そうだよな)


昨夜のことを思い出すと、顔が熱くなる。


だが、落ち込んでいる暇はない。今は侯爵攻略が最優先だ。


「行くぞ」


俺は馬車に乗り込んだ。


リーネの件は——帰ってきてから、また考えよう。


馬車が動き出す。


アルカスの街並みが、ゆっくりと後ろに流れていった。


お読みいただきありがとうございます!

もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、

広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、執筆(投稿)の励みになります!

ブックマークもぜひポチッとお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ