BL漫画のモブ女に転生したはずなのに、なぜか全矢印が私を向いているせいで逆ハー少女漫画になりつつあるが、私は今日も漫画を描くのが忙しいので関わらないでください!
どうもこんにちは、モブ女です、いや本当に。
前世でもモブ女みたいな人生を送っていたんで今世でもモブ女の人生なのは全然構わないんですけど、私が転生したのがまさかのまさか、BL漫画のモブ女だったんですよ。
私が生前狂ったように読み続けていた『俺の周りにいる男が全員俺のケツ穴を狙っている件』というBL漫画があるんですけど、あ、BL漫画ってのは大体こういう火の玉ストレートのどエロいタイトルの漫画が多いんで気にしないでもらえると嬉しいんですけど、話続けますね?
それでモブ女はモブ女でも、なんと私のポジションが今作の主人公である三条愛翔の姉なんですよ!
BL漫画の大事なストーリーの邪魔をせず、それでいてさりげなく展開を進ませる姉の存在はもちろん熟読者である私も知ってるけど、弟の愛翔からは「お姉ちゃん」で、他の主要キャラからも「愛翔のお姉さん」としか呼ばれてなくて名前がないの!まあモブ女だから当たり前なんだけどね!
私としては最高のポジションをいただけたなと心から感謝しております。といっても主要キャラに必要以上に関わる気はまったくありません、だってここBL漫画の世界だし!
私はただの腐女子として影からこっそり推し達の腐腐腐な展開をたっぷり盗み見できればそれでいいんです。
私は私で今世でもBL漫画を描いて同人誌即売会に参加して同士と幸せを分かち合えれればそれでいいので、ええ。
そう思っていた時期が、私にもありました。
「ねえねえ、姉ちゃん!今日一緒にお風呂入らない?」
弟でありこの世界の主人公であるみんなの愛翔がソファでスマホを見ていた私の隣にぴったりと寄り添って座り、私の肩にこてんと頭を預けて上目遣いで聞いてきた。
うおおおおい!?なにをしてる!?なにをしていらっしゃる!?お前さすがヒロインと言わんばかりの可愛い受け顔で誘ってくんなよ!私じゃなく主要キャラを誘えよ!?
「ま、愛翔さん?私は高校三年生で貴方は高校一年生ね?」
「うん?そうだけど?」
「いやいやいや?愛翔さん、普通の姉弟は一緒にお風呂入らないんだよ?まして私達もう高校生なの、わかるよね?」
そう言うと、愛翔は当たり前のように私の手を取ると自分の頬に押し当てて頬擦りしてきた。私の喉からは思わずひゅっ!という息を飲んだ情けない音が漏れる。
「ねえお姉ちゃん、さっきから俺のこと愛翔さんって他人行儀に呼ぶの?なんで?俺のこと嫌いなの?」
「え?えー?そんなことないよ?私はただ愛翔さんという人間を尊重して敬称をつけているだけであって、そそそ、そんな距離を置きたいとか考えているわけではなくてですね」
「だったらちゃんと俺の目を見て好きって言ってよ」
はあああ!?好きって言えって!?おいおい誰からの好きって言葉を求めてんだよ!?好きって言葉は主要キャラから言ってもらえよ!お前がそうやって上目遣いで可愛く求めりゃ主要キャラなんて全員イチコロなんだからよお!?
「ま、まま、愛翔さん?」
「いいから早く言えって」
うおおおおい!?なんでこんな時だけちょっと強気の口調に変わるの!?それとってもずるくないですか!?
私と同じ栗色の髪に緑色の瞳、まだ少し幼さの残る可愛らしい愛翔の顔が私に向けられている。吸い込まれそうな瞳とずっと漫画で見続けてきた愛翔が目の前にいるという現実から顔が逸らせられない、逸らせるわけなくない!?
このままじゃ本当にやばいと焦っていた時、ピンポーンとインターフォンが鳴った。私は素早く立ち上がると愛翔から逃げるように玄関に向かって廊下を走り、玄関を開けた。
「はいはーい!どちらさ……まっ!?」
そこに立っていたのは主要キャラの一人である愛翔の同級生で同じテニス部の王子様をしている荒木啓吾だった。
今どきの高校生らしい元気で明るい性格で、漫画でも愛翔と一番仲が良く、読者の間では啓愛てぇてぇと呼ばれてはよくっつけと言われ続けていた。わかる、健全な交際をした末に最終的にゴールインしそうな雰囲気あるよね、うん。
「こんばんは、お姉さん」
「啓吾くんこんばんはー、今愛翔呼んで」
くるね?と続けて言おうとした言葉が、啓吾くんに腕を掴まれたことで急に言えなくなる。どうした?どうした!?
「ま、待ってくださいお姉さん、俺……今日愛翔じゃなくてお姉さんに用事があって、その……」
そこまで言うと啓吾くんは恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。けれど啓吾くんの短い黒髪の隙間から真っ赤になった耳が見えている。どうやら恥ずかしがっているようだ。
え?なにこの状況?私に用事?違うでしょ?あんたBL漫画の主要キャラの一人なんだから私みたいな邪魔モブ女じゃなくヒロインの愛翔に用事あれよ!?
「おい」
さてどうしたもんかと困っていると、私の手を掴む啓吾くんの手を掴む別の誰かが現れた。横から聞き馴染みのある声に顔を上げると、そこには主要キャラであり愛翔と私の兄である大学生の三条莉央が立って啓吾くんを睨んでいた。
「俺の妹に気安く触ってんじゃねえよ」
そう言って啓吾くんの腕を乱暴に振り払うと、私の手を掴んで無理やり家の中に押し込む。莉央は主要キャラの中でもヤンキー系のワイルドキャラであり、愛翔のことをずっと弟としてではなく恋愛対象として見ているというそれはそれは読者の脳を焼いてきたキャラである。
「ちょっと、お兄ちゃん!」
「お前は黙ってろ」
「お兄さん!すみません、でも俺!」
「うるせえ、お前にお兄さんって呼ばれる筋合いねえよ」
莉央は私と啓吾くんを引き離すと、靴を脱いで私の腰を乱暴に抱き寄せた。ちょちょちょっ!?なんで!?混乱する私を無視して莉央は得意気に啓吾くんを睨み、啓吾くんは莉央を悔しそうな表情で睨んでいる。
ええええ!?なにこの状況!?バチバチって音が聞こえそうなほど睨み合っちゃってるんですけど!?漫画でも愛翔を取り合って喧嘩する場面は何度かあったけどモブ女である私を取り合って喧嘩することはなかったはずだけど!?
「お兄ちゃん、その手を離してよ」
混乱する私の後ろから現れたのは愛翔だった。良かった!これで二人の殺伐とした雰囲気から解放される!
「お姉ちゃんは今から俺と一緒にお風呂に入るんだから」
「えええ!?お姉さんとお風呂おおお!?」
「はああ!?愛翔てめえ!!」
啓吾くんと莉央が信じられないと大声を出す。驚いている莉央からするりと私を奪った愛翔は嬉しそうに腕に絡みついてくる。いや私は一緒入る気ありませんよ!?
「姉弟仲睦まじいのは結構ですが、高校生の異性が二人で入浴するというのは、いささか問題ではありませんか?」
玄関の扉からそう言って顔を出したのは仲の良いご近所さんであり、主要キャラの菊谷咲人だった。
莉央と同じ大学に通う大学生であり、優しい物腰と人当たりの良い雰囲気のキャラだが、ミステリアスな言動が多いこともあり、愛翔の心を流れるように奪って行く度に読者の心も一緒に奪って行くキャラでもある。
「咲人さん、なんの用ですか?」
「ああ、すみません、実は夕飯にグヤーシュレヴェシュを多く作りすぎてしまったのでお裾分けしようと持ってきたところ莉央達が言い争っている声を聞いてしまい……」
え?え?グヤ?シュ?さすが咲人さん、ミステリアスな言動は伊達じゃない、多くの日本人が恐らく一生口にしないであろう名前の料理を作ってくるなんて……ところで料理名もう一回言ってもらっていいですか?
「結構です、お帰りください」
「まあまあそう言わずに、美味しいですよ愛翔くん」
あれれ?さっきまで啓吾くんと莉央がバチバチに睨み合っていたはずなのに、いつの間にか今度は愛翔と咲人さんがバチバチに睨み合っている気がする。
「おい、お前本当に愛翔と風呂入んのか?」
「え?いや、私は」
「どうなんですかお姉さん!」
「ええ?いや、だから私は」
「お姉ちゃん!俺と一緒に入るよね!?」
「えええ?いやいや、だから私は」
「だからそれには問題があると言ったでしょう」
おおおおい!待てよ!私に喋らせる気ないだろお前ら!?四人がそれぞれ一方的に喋るせいで私が割り込めない。もういいよ、私のこと無視して勝手に四人で仲良くきゃっきゃっしててくれよ、この世界はBL漫画の世界なんだからモブ女の私が割り込む隙は最初からないんだからさ。
その時、ポケットに入れていたスマホが鳴った。確認するとこの世界でのオタ友であるサヨちゃんから次回参加するコミケで出す小説の表紙を描いて欲しいというお願いだった。
まじかよまじかよ!私で良ければ描きますが!?てか挿絵は!?挿絵も描くよ!?前回私のサークルで売り子してくれたから全然感謝の気持ち込めて描きますが!?
どのジャンルのどのカップリングのお話を書いたのかが気になって仕方ない。私はサヨちゃんと打ち合わせをするために二階の部屋に向かおうと階段を駆け上がる。
「あ、お姉ちゃん!?どこ行くの!?」
「おい!まだ話は終わってねえぞ!?」
「お姉さん!俺の話も聞いてくださいよ!」
「グヤーシュレヴェシュありますよー?」
「うるさい!私は今から絵を描くんだから邪魔しないで!」
下から聞こえてくる声にそう叫んで部屋に入って鍵を二つかける。よし!これで私の世界は守られた!モブ女はモブらしく大人しくしてるから、そっちはそっちでBL漫画らしくくんずほぐれつ好きにやってくれ!私に関わってくるな!
少しでも面白いと思ってもらえると嬉しいです。
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