表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

7.恋心の自覚

「王妃に現れた呪印が、君の手に吸い込まれた!?」

「あぁ、そうだ。黒い呪文の調査は、いたって順調であるぞ!」

 得意げにすると、生徒会長様は頭を振りかぶる。金髪がさらさらと揺れ、朝の光を反射した。


「全く仕事が早いというのも……それで? どちらの手に吸い込まれたんだ?」

「左手だぞ。ほらこの通り」

 そうずいっと手を突き出すと、ワリスは興味深くそれを見つめる。


「それにしても、呪印に触るなんて……まるで別人みたいだね」

 む。この男も、中々鋭いな。


「そうか? 余はシューデリアであるぞ?」

 笑顔を浮かべて答えると、彼の空気が変わる。


「……シューデリアは、僕の大事な後輩だからね。いつかは、返してもらうよ?」

 冷たい微笑み。息をのんでいると、ふっと空気が揺らぐ。


「まぁ何があるか分からない以上、手袋をした方が良さそうだね。ほらこれ、あげるよ」

「む、ありがたい」

 白い手袋をはめると、その大きさは丁度だった。


「また何かあったら報告するように」

「イエス・マイロード」

「ふふっ」

 元気に出ていくシューデリア。その姿を見送って、小さく眉根を寄せる。


「あの手袋──君が前に置き忘れていったものなんだけどね……」

 その声には、少しの不信感が滲んでいた。




 *

 あの生徒会長、なかなかに怪しんでいたようであったな。


 角を曲がると、階段の上にいるフェリィに気が付いた。誰かと喋っている。

 窓から差し込む光に美しい横顔が反射し、思わず見とれてしまう。


 その時、その体がまるで誰かに押されたように傾いた。声を上げる間もなく彼女は落ちていく。周りからは悲鳴が上がった。


 次の瞬間、彼女を受け止めようと体が勝手に動いていた。

 彼女は腕の中でゆっくりと目を開け、驚いて瞬きを繰り返す。


「で、でんか!?」

「平気か?」

 この体があってこそ、出来たことだな。上を向くと、踊り場にたたずんでいる女と目が合った。あれはたしか──


「殿下、申し訳ありません。お怪我は?」

 フェリィがこちらを上目遣いで見つめてくる。


「平気だ、謝らなくて良い」

「……ですが」

「貴様は余の婚約者なのだから、助けるのは当たり前のことだ」

 申し訳なさそうに、こちらを見つめるフェリィ。本当に痛くないのだがな。


「ではそこまで言うのなら、口づけでもしてもらおうか?」

 その顔が固まる。そのまま手を強く引かれ、近くの物陰まで引っ張られた。


「いいではないか、ほっぺにチューくらい」

 そう左頬を指さすと、彼女は眉根を寄せる。そして、小声でこう囁いてきた。


「殿下……今一度申し上げますが、わたくしと殿下は()()()()でございますよ? 愛などあるはずがございません」

「は?」

 ぽかんと見つめると、視線をそらすフェリィ。


「それに、わたくしには……お慕いしている人がおります、と申した上げたはずですわ」

 その言葉に、目の前が遠くなっていく感覚がする。周囲のざわめきひとつしなくなった。


 フェリィは、余を好いていないいない、だと?

 何処かで感情が溢れて、その波を抑えられない。


「ですから殿下」

 そういいかけた手を引き、壁に押し付ける。壁に肘をついて戸惑った顔を見下ろし、その顎を掴んだ。


「でん──んっ!?」

 目を閉じ、その唇を奪う。

 華やかな香りと共に、柔らかい感覚がする。


「んっ、ん……」

 抵抗しようとしたのか、胸を叩いてくるフェリィ。その力もだんだんと弱まっていく。

 その愛らしさに舌をねじ込むと、大人しく従う。


「でん、か……」

 とろん、としていた目から、やがて涙があふれてきた。


「フェ」

「殿下、これ以上のことは、もう、やめて……お願いですから……」

 うつむいたまま、言葉を吐き出す彼女。


「これ以上、わたくしを……」

 それ以上を言わずに、踵を返し、人ごみの中に紛れていってしまった。


「なぜだ……」

 余の呟きが、小さく落ちる。


 彼女には、感情が映らない。それは長年の賜物の成果だろう。

 けれど、時々見せるあの表情は……どう見ても余に惚れているとしか思えなかった。それでも頑なに、彼女は余を拒む。


「余は、フェリィが好きなのだな」

 そして、その冷たい拒絶を向けられると、なぜか心が痛む。感情が高ぶって、自分を抑えきれなくなる。


「これは余なのか、それとも──殿()()なのか……」

 分からなかった。

 自分の感情の変化に、シューデリアは戸惑っていた。



 *

「ライラ・カスタードはいるか?」

 教室のドアから顔を出すと、ざわざわしていた部屋が静まり返った。


「殿下、わたくしに何か御用ですか?」

 勝気な瞳に、美しく巻かれた髪。フェリシアが階段から落ちた時。その肩を押せる位置にいたのは、このご令嬢だけだ。それに直前、フェリィと口論していたようにも見えた。


「ついてきてもらおうか」

 余の声に、肩を震わす女。その目には、不思議な色が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ