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5.怪しげなる呪印

「む」

 目覚めた時には、何処かの机に突っ伏して寝ていた。


「此処はどこであるか」

 見知らぬ場所。その机には、山積みにされた書類が溜まっている。


「これはやればいいのだな?」

 半分ほど処理された書類を見ると、綺麗に直されている数字。その文字は美しかった。


「ふむ、会計が合わないところを直していけばいいのだな」

 そういってシューデリアは次の紙を手に取り、間違い探しを始めた。



「デリア、シューデリア」

 誰かに肩を叩かれ顔を上げると、そこには金髪の男が立っていた。


「随分と熱心に行っていたようだね」

 そう言いながら、手前の紙を取る。


「あと数枚で終わりそうであるぞ」

 そう言いながらまた紙に視線を落とす。


「この量全部ってことかな?」

「あぁ」


 よし、この紙は間違いないな。最後の一枚、終わりだ。


「ふぅ、これで余の仕事は終わりか?」

「シューデリア、それは君だけの仕事じゃないんだけどね」

「ん? そうだったのか? それはすまない」


 てっきりここに座っていたから、やるものかと思っていたぞ。


「いやそれ、今週の仕事なんだよ? これから生徒会の皆で分配するつもりだったけど……流石だね」

「お褒めにいただき光栄であるぞ」

「うん……じゃあ帰ろうか」


 その後に続く。金髪は鍵を閉めると、そのまま歩き出した。


「いやー、今年は優秀な人材がいて助かるね。君の器は生徒会書記では収まりきらない」

「生徒会だと?」


 これが、父上の言っていた生徒会というやつか。随分と簡単な仕事であったな。


「うん、会長は僕、ワリス・フリージアだよ?」

 爽やかな笑みを浮かべ、金髪が話す。む、此奴は余よりも背が高いな。


「それで、ここ最近不可解な出来事が起こってね。この学院の生徒も、その被害に遭っているんだ」

 ワリスとやらは飄々とした調子で告げる。けれど、その目には鋭い光が宿っている。


「黒い呪印がついた()()を身につけると、感情の揺れと共に魔力が暴走するらしい」

「呪印? 暴走?」

「あぁ、クレイもその被害に遭ったんだってね」


 確かに赤髪の様子、おかしなところがあったような。黒く目が濁っていた。

 余は襲われそうになって――それで? その先が――


 ワリスはこちらを振り返る。


「だからシューデリア、君にその調査を任せたい」

「む、任せろ!」

「返事は『イエス、マイロード』だよ?」

「イエス、マイロード!」

 元気よく返事をすると、ワリスの瞳が揺れる。


「うん、頼んだよ。それじゃあ僕はここで」

「うむ、また会おう!」


 聖ララステラ学院と記された檻からようやく抜け出し、安堵の溜め息をつく。


「殿下、本日は随分と遅かったですね」

 オイドンの待つ馬車に乗り、そのまま屋敷への道を辿る。薄暗い街道は、心なしか冷たく濁っていた。



 *

「お帰りなさいお兄様!」


 テーブルに着くと、その気配を察してチェリーが挨拶をしてくる。


「あぁ、余は帰ったぞ」

 続々と食事が運ばれる中、チェリーは嬉しそうに話し出す。


「兄様、今日はですね、母上が食事について教えてくれました! そればかりか父上も、朝食を一緒に取ってくださいました」

「それは良かったな」

 家族を大切にする者は、末長く続くであろう。


「昨日の兄様の発言から、家が昔に戻られたようで、とっても嬉しいです」

「昔に戻った?」

「えぇ、僕が、目を、失って以来……兄様とはどこか、壁を感じていたので……」

 それきり黙ってしまう。

 一瞬、部屋が静まり返った。


「そうか。今日はだな、決闘を挑まれて――」

 面白おかしく話を続けると、チェリーは鈴が鳴るように笑ってくれる。

 暖かな空気がまた、戻ってきた。


 *

「チェリーは、もともと盲目なわけではないのか?」

 風呂へと入る、着替えをしている最中、執事に問いかける。


 執事は制服のボタンを外しながら、静かに口を開く。


「チェリア殿下は、明るく朗らかな方でいらっしゃいました。目もお見えになっていました。あの日までは――」

「あの日?」

 困惑した声に頷く執事。


「……殿下を狙った刺客が、誤ってチェリア殿下を襲ったのです」

「なに!?」

「チェリア殿下は、よく殿下の真似をしていまして……それが災いかと」

「な、とは言ってもここは王宮であるぞ? そんな簡単に刺客が入り込める訳がないではないか!?」

 湯船に浸かりながら抗議の声を上げると、執事はその頭を泡立てる。


「その頃、殿下は体調を崩しておいででして、人手が皆そちらの方へ――」

「……そうか」


 なら、余の弟の目が見えなくなったのは……


「余のせい、なのだな」

 ぽつりと呟くと。


「甘えたことを言うな」

 執事の、低く重たい声が響く。その声に肩が震えた。水音だけが耳に入ってくる。



 オイドンが小さく息を吐いた。


「……と、元の殿下なら仰るはずですよ。その刺客を捕まえるために、殿下は頑張ってきたではありませんか」

「あ、あぁ……」


 びっくりした、ではないか。

 それにしても、なぜ殿()()がこれほどまでに努力するのか、分かった気がするな。


「殿下、本日はこれで失礼させていただきます」

 執事は一礼をして下がっていく。



 余は水の中で手を動かしながら、考えていた。


 この手は誰のもので――この身体は、殿下という立場は、余のものなのであろうか?


 そんな疑問が浮かび上がり、お湯の中に顔を埋める。


 いや余は、殿()()は、その刺客とやらを探すべきであるな。


「決まりだ! 余は今から、チェリーを襲った刺客を探し、捕えるぞ! そして目を元通りに治してもらうのだ! ワハハ!」

 そう勢いよく湯船から飛び出し、タオルで体を拭く。


「全く、この体は素晴らしいものだ。相当な鍛錬の上に、積み重ねられた努力はそこが知れん」

 ベッドに腰を下ろし、タオルを下にかけてぼんやりとしていると、不意にノックと共にドアが開いた。


「シューデリア……入るわよ?」

「む、余はまだ着替えていないが――」

 そう言いかけた言葉は途中で止まる。


 現れたのはきめ細やかな太ももに、大きな二つのアレ。

 そして、薄く輝いた布に体を包んだ母上が立っていた。

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