表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

4.赤髪との決闘

「偽殿下、おめでとうございます。講師の先生を一人残らずやりこめたお気持ちはいかがですか?」

「それは余を侮辱しているのか?」

「いえいえ。さすがに、講師の子供の名前を当てた時には、身の毛もよだちましたが」


 ルークは首を振る。それは余も意外であったぞ。まさか名前が、ドッジ・ボールだなんてな。


「それにしても、今は何の時間であるのか?」

「今は、お昼の休憩時間ですよ。といっても殿下はいつも生徒会で、仕事をこなしていますが」


 呆れたように言うルーク。それは随分と熱心なことだな。


「聞いた? シューデリア殿下とアルフレッド卿が、決闘するんですって」

「本当ですの? なんでも完璧にこなす殿下か、騎士のクレア様、どちらが勝つんでしょうか!?」

「決闘の広場でやるそうよ。見に行きましょう!」


 後ろに聞こえた声に、ふと思い出す。そういえば赤髪が決闘をするとかなんとか。


「今は何時だ?」

「一時すぎですね」

「……まずい。すっかり決闘のことを忘れていたぞ」

「決闘!? 殿下、決闘をするんですか!」

 ルークが喜びの声を上げる。


「殿下の剣技、見たいです。誰とですか?」

「クレアという赤髪の奴だ」

「クレア!?」

 今度は驚きの声を上げるルーク。


「一時から中庭の広場で決闘と言われていたんだが」

「一時から中庭の広場で!? ……クレアの奴、相当怒っていますよ」

 何処からか出てきた剣を渡され、窓を開けるルーク。


「ではいってらっしゃい」

 その言葉と共に体が浮き、窓から外へと放り出された。


「殿下なら……無事ですよね?」

 にやりとした微笑みが見え、その後は宙を切る音しか聞こえなくなった。


「なっ、余を放り出しただと!?」

 下を見ると、クレアが剣を構えて歩き回っていた。その周りを、数えきれないほどの観客が取り囲んでいる。


「クレア! 上だ!」

 そう叫ぶと、上を見上げる観客ども。


「どこいってやがった、この……偽殿下!」

 そう言いながらもクレアの体は動き、何かを支えるかのように手が差し出される。


 すとん、とその中に余がおさまり、観客は息をのんだ。


 クレア・アルフレッド騎士が、シューデリア王子をお姫様抱っこしている!?

 一瞬の静寂の後、辺りには大きな歓声と悲鳴が響き渡る。次々と倒れていくご令嬢。


「なんだこれは……?」

 顔をしかめつつ、身動きをとろうと体を起こす。


「ありがとう、クレア。其方のおかげで助かったぞ」

「いえ、殿下にお礼を言われるほどでは……」

 ゆっくりと余を地面に下ろし、にこやかな笑顔を浮かべるクレア。


「って、貴様は偽殿下! わかるぞ、殿下はそんな風に制服を着崩したりなどしない!」

「? なにがだ?」

「殿下はネクタイを緩め、シャツを出し、ポケットに手など入れたりはしない!っておい、聞いているのか!」


 あの青髪のせいで、嫌な汗をかいてしまったではないか。シャツをめくりあげ汗をぬぐうと、さらに悲鳴が上がる。


「殿下の……腹筋」


 わなわなと顎を震わせるクレアは、不意に顔を上げる。


「殿下は……自らの破壊力を心得ていらっしゃる」

 その瞳からはめらめらと、炎が燃え上がっていた。


「貴様は殿下の腹筋を! もう許さない、決闘だ!」

「そう最初から言ってたではないか?」


 クレアは怒りのあまり手袋を投げてくる。


「落としたぞ?」

 それを渡そうと顔を上げた時に見えたのは、光る細い剣先だった。


「!?」

 慌てて飛びのくと、剣が空気を切り裂く鋭い音がする。


「偽殿下は、俺が斬る!」

 そう言いながら襲い掛かってくるクレア。

 その剣先をよけるうちに、落ちている剣を見つける。鞘から引き抜こうと引っ張るものの、硬すぎて抜けなかった。


「はっ!」

 掛け声とともに踏み込んでくるクレア。鞘と共に横に転がると、拍手が巻き起こる。


 なぜか剣が鞘から抜けないではないか。一体どうなっているのだ。


 剣を抜こうと苦闘しながら、華麗にクレアの攻撃を避ける殿下。次第にクレアの顏に、苛立ちが浮かんでくる。


「何故剣を交えようとしない! 逃げるな卑怯者!」

 クレアの鋭い剣先が、シューデリアの髪をかすめる。


「くっ!」

 挙句の果てに鞘ごと剣を受け止めると、クレアの目が真っ赤に染まる。


「貴様、どれだけ俺を侮辱すれば気が済むんだ!!」

 その瞬間鋭い突きが、シューデリアの体をかすめた。狂ったように剣を振るクレアの速さは、先ほどとはくらべものにならない。


「っ――!?」

 シューデリアの避けた太刀筋が、観客の女子生徒を襲う。突然のことで、その女は身動き一つできなかった。


「――いやっ!」

 生徒が目をつぶる。



 金属がぶつかりあう、甲高い音がした。


「やっと抜けたではないか」

 手こずらせされたな、まったく。この剣は危険が無いと動かない魔法でもかけられているのか?


「余を誰だと思っている?」

「シューデリア殿下ですよ!」


 その声と共に剣が振り下ろされる。それを払って、胴体を狙って打ち出した剣筋は難なく躱される。足を払おうとした太刀筋をよけ、背後に回り込みその首筋に剣を突きつける。


 沈黙が落ちた。


「余の……勝ちだな?」

「……くっ」

 地面に膝をつき、降参の構えを見せるクレア。その声に、剣を鞘に納めた。周りからは再び歓声が上がる。


「余の腕は劣ってないようだな」

 ルークのもとへ戻ろうとすると余に、クレアが声を投げかける。


「っ貴様は、誰だ! 今の剣筋、殿下では到底あるまじきものだぞ!」

 その声に、観客も心の中でうなずいていた。


 シューデリア殿下の剣筋は、演舞のごとく流れるような剣筋の中で、その美しさが際立つものだ。

 一方、先ほどの剣技はどこか荒々しく、気高さを残していた。


「余はシューデリアであるぞ?」

「……お前が、」

 うつむいたクレアの口から、声が漏れ出る。


「お前が殿下のはずがないだろうっ!」

 その目からは涙が零れ落ちていた。黒く濁った瞳。動揺した余へ、剣を構え走ってくるクレア。


 剣を抜こうとしても、その硬さで抜くことが出来ない。観客は息をのみ、ただそれを眺めていた。

 ある女子生徒は、恐怖のあまり目をつぶってしまう。このままじゃ、殿下が――



 軽やかな音が響き、皆が息をつめて見守る中。殿下の剣が引き抜かれ、クレアの剣を薙ぎ払った。


「……誰に向かって剣を振るっている?」

「っ!?」

 クレアの手から剣が飛び、近くの地面に突き刺さった。流れるように、その剣筋は静かに喉元へと迫る。


「君が剣を振るのは、誰のためだ?」

「っ!?」

 その瞳が、大きく開かれる。濁った黒い瞳が、段々と薄れていた。


「殿下の為、です」

「そう。君はただ、私のために剣を振ればいい」

 その声に、胸を震わせるクレア。


「わかったね?」

「はい――殿下」

 その声と共に、クレアの体がゆっくりと倒れていく。その体を支えて、殿下は口を開いた。


「誰か、クレアを保健室まで頼めるかな?」

「はい殿下!」

「いえわたくしが!」

 大勢の人物に抱えあげられて、にぎやかに保健室へと運ばれるクレア。


 その様子を見て、殿下は踵を返す。地面に刺さったクレアの剣を手に取り、眺める。


「……」

 その柄には、見知らぬ黒い紋様が浮かび上がっていた。


「……これは封印だね」

 そう言いながら右ポケットに手を入れ――ふとその指が止まった。


「……?」

 何もなかった。いつも、ここに入れているはずだけれど。


「殿下、おめでとうございます」

 不意に、声がした。前から歩いてきたのは、一人のご令嬢だった。


「フェリシア嬢、見ていたのですか? ありがとうございます」

 そう言って微笑むと、彼女は眉を寄せる。


「今は、普通ですのね」

「何がですか?」

 首をかしげると、彼女の目はこちらを見つめていた。


「殿下、熱でもおありなのですか?」

 細い手がこちらに伸ばされ――心臓が揺らぎ、足は一歩下がる。


「いえ、ご心配なく。では私は、生徒会の仕事がありますので失礼します」

 一礼をして、踵を返し教室へと向かう。外を眺めていたルークがこちらに気付き、駆け寄ってくる。


「偽殿下、上手くいってましたね!」

「……偽殿下? 何のことかな?」

 冷ややかなまなざしを送ると、ルークの背筋が伸びる。


「殿下、申し訳ありません。お戯れの時間は終了しましたか」

「……? まぁいい、それよりお前に頼みたい仕事がある。この呪印の解析を進めてくれ」

 そう言いながら、クレアの剣を差し出す。それを受け取り、ルークの目が怪しく青色に光る。


「クレアの剣? 何でこんなところに、これが?」

「わからない。けれど、そのお陰で、クレアは暴走しかけていた。この借りはきっちり――返させてもらうよ」

 そう言い放つと、ルークの目が怪しく光る。


「もちろんです、殿下」

 殿下の瞳の奥で、どこまでも冷え切った炎が燃えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ