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神遺界-水の消失-  作者: 鐚銭
神遺界への迷い
6/7

迷いの儀③


 広間を出ると、ライと巫女たちが待っていた。シアンはライに天音を引き渡す。


「そちらには権利がなくなった。彼女の処遇はこちらに一任ということになったが、いくつか片づけてから、また伺おう」

「かしこまりました。神水の管理は私どもにお任せください。」

 シアンはうなずき、外で待っていた軍服の部下とともに、天音を置いて帰っていった。


 天音は息をのむ。

「わたし、なにも……ないの?」


 言葉を選ぶように、ライは短く間を置いた。

「はい。神のご加護も、神力もございませんでした。稀に、何もない者もおります」


 天音は足元を見た。手をぎゅっとにぎる。――さっきのアクィロの体温を思い出す。

「……ないと困るの?」


 ライは少し考えてから続けた。

「今はお考えにならなくて結構です。ただ、能力のない者は京に住むことは許されません。私どもとは別の場所で、お一人で暮らしていただくことになるかと。ただし、子どものあいだは学業の期間のみ、京に入ることが許されます」

 その言葉は、異世界に来て親のいない一人の小さな女の子には、重く冷たいものだった。突き放すような響きに、不安で押しつぶされそうになりながら、天音はつぶやく。


「勝手だ……私、何も悪くないのに」

 声は小さい。


 ライは困った顔で話を進める。

「それがルールなのです。ただ、天音様にはしばらく温情が与えられるでしょうから、安心なさってください」


「嫌だ! 安心なんかできないよ! お母さんも!お父さんも友達もいなくて、私、一人でどうしたらいいの?!」

「私にはどうにもできません。さぁ、お部屋に戻りましょう」

 ライは深いため息と、軽い軽蔑の眼差しを天音に向けた。巫女たちが天音の手を引き、部屋へ戻ろうとする。………我慢の限界だったのだ。大人は特段説明もしようとしない。ただ言う事を聞く様に大人のルールを押し付ける。この閉塞とした息苦しさと、身勝手な大人に反吐がでる思いを天音は感じていた。天音はその手を振りほどき、とりあえず走って逃げ出した。行くあてもない。ただ人々のあいだを、風のようにすり抜けていく。


――その娘を捕らえろ!


 場が騒然となる。袴が足元を邪魔するので、天音は無意識に裾をつかんで走り、大人をかわして逃げた。


 目の前の戸を開くと、急な階段が現れる。天音は急いで戸を閉め、駆け上がる。下から人の声が追ってくる。階段を上り切ると、また戸。そっと少しだけ開ける。……上がった先にも、人がいる。

 呼吸を整え、走る構えをしたまま戸を出る。だが、誰も天音に目を向けない…いや瞑っている。。派手な衣装をまとった男が、ただ座っているだけで、動く気配もない。異様な雰囲気と静けさだ…


 不気味さを警戒しつつ、人気のない場所を探して、襖の隙間から覗いたり、指で穴を開けて中を確認しながら進むと……また階段を見つけた。長い、長い階段。

ふわぁっ____上から風が吹く。

「外の匂いがする……」

 駆け上がった先には、息を呑む程の絶景があった。

 (わぁ………)

 京を見渡せるほど高い、高台の建物の中腹に太い柱が各場所に露呈している広間があった。


 下に広がる街は、きれいに区画され、灯りで満たされている。二つの月は、今日は近い。建物は和風のものもあれば、レンガのようなものもある。


「きれい……お祭りしてるみたい」

「そうだろう?」


 先客がいたらしい。天音はあわてて振り返る。白髪の男が座っていた。きらびやかに着飾っている。二十代にも見えるが、瞳は白く、老人のようにも見えた。

 逃げようとしたが、男が危害を加える様子はないと悟ると、もう一度景色へ目を向ける。


「君が迷い人だね。こんなに小さいのに……つらかろうに。こっちへおいで」

 不安になりながらも、天音は男のそばへ行く。

「目が白いね」

「ふふふ。これはね、病気なんだよ」

「お兄さん、目、見えないの?」

「私はもう見えていないけれど、心で見えているから、君の姿も知っているよ。黒髪で肩までの長さ。大きな目には、きれいな漆黒で、名前は天音と言うのだろ?」

「わぁ、何でも知ってるのね!それは魔法?」

「魔法かもしれないね。昔は見えていた目が懐かしくもなるけど、心を通して見る景色は、美しく見えるものだよ」

 やさしい話し方だ。柔らかく、ふわふわしている。長いまつ毛も白く、うっすら青みがかっている。何も映していないはずの瞳に、街の景色が浮かぶようだった。

「さっきまで朝だったのに、もう夜なんだね」

「ここは光の神の加護がないからね。地上に行けば、まだ昼頃なんじゃないかな」

「え? ここには太陽がないの?」

「太陽? ああ、太陽はある。けれど暑すぎるから、僕らは太陽から逃げているんだ。陰の国側は、ずっと昼間なんだよ」


 下のほうから声が聞こえる。

「あまね様! 出てきてください!」

 天音はそっと男ににじり寄り、男の背後に隠れて裾をつまんだ。

「大丈夫だよ。彼らはここには来られないから」

「私、どうなっちゃうんだろう……お母さんたちに会いたい……こわい」

 男は天音を引き寄せ、膝に座らせた。

「おまじないをあげよう。必ず帰れるおまじないだ。目をつむっておくれ」

 男は天音の顔に触れ、額の位置を探すように手を当て、低くつぶやく。

「オン・コキシン」

 そして額に、軽く口づけた。


 天音は何のことやらときょとんとしたが、母を思い出した。けがをしたり熱を出したとき、おまじないをしてくれたことがあったのだ。絆創膏を貼ってくれたのに、まだ痛いと泣いている幼い頃の自分を思い出して笑ってしまった。もうそんなに小さくないのに…と。


 天音は男のまぶたにそっと触れた。

「天音からもおまじない。痛いの痛いの、とんでいけ!」

 そう言って、まぶたに軽くキスをした。男は少し驚いた顔をする。


「おやおや、これは面白い」

 天音は笑って外へ目をやる。大きな音とともに、鷹ほどの大きさの鳥が飛ぶ。

「わぁ! あの鳥、光ってる……」

 赤い羽が鈍く光り、夜空を飛ぶその姿は、火のようだ。

「あれは火の神の鳥ですね。……これは奇跡か」

「とてもきれい……はぁ……なんだか眠くなってきちゃった」

「ふふふ。少しお休みなさい」


 天音は満天の星空を見上げながら、「少しだけ……少しだけ……」とつぶやき、眠りに落ちた。




 光り輝く、どこもかしこも白い空間に、白い石の階を上り、無機質な回廊を抜ける。荘厳な扉が静かに開くと、一筋の光が差し込みさらに明るさが強くなった。


「来たのね、私のシアン」

 声は温かく柔らかい大柄な男とも女ともつかない金髪の人が仰向けに横たわっていた。白い光沢がある布を纏う姿は、天から垂れる薄い布越しにも分かるほど、光に満ちていた。その人は、優雅に手をシアンに差し出す。

 シアンは膝をつき、差し出された手に口付けをする。

「光の主よ、口付けをお許しください。日の国、神主アクィロが行った“神能の儀”の報告にまいりました」

光の神の顔はベールに包まれて、その殆どが見えない。シアンは口付けをした後、地面を見ながら報告を続ける。

「迷い人は加護も神力も認められずとなりました。」

 わずかな沈黙ののち、ベールの下で口元がふっと笑んだように見えた。

「そうか、よいなぁ。迷い人の監視を怠る事なく見届けよ」

 それが何を意味する笑みなのか、シアンには読み解けない。問いただすのは礼を失する。代わりに、行くべきことを告げる。

「迷い人は、学園へ送ります。監視役はつけましょうか?」

「任せよう。あ!ダメじゃダメじゃ、それに触れてはならぬ。」

 光の気配が、すっと薄くなる。

「私は少し出る。ここを頼む」

 声だけこだまして、その姿はもう無かった。

「畏まりました」

 シアンは深く礼をして、退いた。



 儀の間にある、光の御神木は、薄暗い洞窟を明るく照らしている。

 アクィロは、祭壇の曲がり枝に置かれた黒髪の小さな束を見つめながら歩いている。アクィロには到底届かないが、アクィロは見えない階段を登る様に宙に浮いて、指先が…手を伸ばせば、触れられる距離。


 ――風も止んだ。音も止んだ。葉のこすれる気配は無い、虫の鳴く気配も、すべてが絵の様に止まっている。


 突然光が溢れて現れ、柔らかい声が降る。

「触れてはならぬ…」

 光の神が、アクィロの手を掴んで居た。


 アクィロは静かに手を引いた。胸の奥に、説明できない確信と、名前のない不安が同時に灯る。

「……承知しました」

 光の神が、長い杖を地面に差し込むとあたりは光り輝き、到底人が入れない程眩くなる。

「ここは聖域じゃ…触れる事は許されぬ。水の子よ、そなたは来年の儀を火の神に変わる様伝えてまいれ」

 アクィロは、深々とお辞儀をして、眩しさから目を瞑って逃れた。

「かしこまりました」

光の神の気配は消えた。


――


薄暗い灯り。やわらかな布団の感触。

 天音はゆっくりと目を開けた。知らない天井が見える。息を吸うと、畳と薬草のような匂いがした。ここは……自分の部屋?


 戸口に人影がある。

「お目覚めかね?」

 低く落ち着いた声。振り返れば、そこにシアンが立っていた。軍服を脱ぎ、儀式の時よりもずっと柔らかな衣装に身を包んでいる。


「……シアンさん」

 天音は身を起こし、夢の中で出会った白髪の男や光る鳥のことを思い出す。あれは本当に夢だったのか――。胸が少しざわめく。


 シアンはゆっくり近づき、畳の上に座った。

「随分と走られたようだ。怪我はないか?荷物庫で眠られていた所を発見され、ここまで運ばれたそうだ。」

 心配そうな眼差しだったが、厳しさもある声だ。お父さんが、怒る前の静けさに似ている。


「……わたしを元の世界に帰してよ」

 天音は唇をかみ、訴えるように見上げた。


 シアンは少し黙り込み、やがて深く息を吐いた。

「……迷い人が帰る為の入り口は、もう随分と開いてないんだ。そしてたまに訪れる迷い人は、この地に豊水をもたらす…そう言われている為、簡単には帰せないのが習わし。しかし、水の加護も無いとなれば、水神教も習わしを無視してくるかもしれない」

 天音は難しい言葉に理解ができず、、今分かる事を尋ねた

「帰る入り口があるの?」

 シアンは頷いた

「しかし、その入り口を開くにも膨大な力が必要と書物にあり、もう1000年以上前の話しで正しい情報から探さねば」

 天音は一筋の希望を掴み、半ば興奮しシアンの洋服を強く掴んだ。

「その本はどこにありますか!?」

 シアンは驚きながら、左手にある紙を指差した。そこには、見た事がない記号が並んでいる。

「文字は読めるかい?」

「ひぇ。何もわからない…」

 これが異世界に来た弊害か…と思いながら、ふと思った。

「なんでみんな日本語を話しているの?」

 シアンはニコリと笑い、天音の鋭さに感心していた。

「迷い人は、何故か言語の疎通だけは取れているのが不思議だな。ふむ、まず先代の迷い人に逢われてはいかがか?あまね様」

「えっ、先代の人は生きているの?」

「あぁ、学園の校長をしている。彼は水の力が薄くなった後生は、金の加護の持ち主である事から、水神教から離れて暮らしている」


「学校?!学校には、その昔の本はあるの?」

「あるが、その書物庫には、式4にならないと入れないが…頑張って学なんではどうか?」


 天音は、頷いた。

「学校に行く」

「では、入学の手続きは私がしとこう。明後日に豊水の儀が街総出で行われ、その日はあまねは忙しくなるので明明後日に新しい住居に移動としよう。寮生活になり衣食住はあるし、同じ年頃の友達もいるだろう。」


 天音は少しだけ肩の力を抜いた。

「……シアンさんは、わたしの味方なの?」

「あぁ、、私はあまねの味方だ」

 シアンの目は笑って無かった




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