償い
闇の神フェルメがこの世界から消えてから三ヶ月。雷の神チャクによる魔物の撲滅はパペティアの言葉を重く受け止めたジル王子により保留され、世界は元の平穏を取り戻していった。
「「「「かんぱーい!」」」」
ドラン王国では闇の神フェルメの死を祝いに全ての種族の代表と神々が集まっていた。
「まさか、貴方様方と共に酒を飲むことになるとは……」
各種族の代表と神々は王城にて、豪華なディナーを楽しんでいた。
「ドワーフの酒もだが……人間の作る料理はここまで進化していたのか!ドワーフの代表ヴァルゴだったか?仲間のドワーフに人間の料理を覚えさせて、毎日私にお供えしろ!」
「おやめなさいアハウ。貢物は気持ちが大切なのですよ。」
「いいのですガブル様!アハウ様の仰せの通り努力してみせます!」
「いい心がけだ!」
「ハァ……まったく。騒がしくして申し訳ありませんジル王子。」
「いえ、楽しんでいただけているようで何よりです」
「本日は今回協力することができなかった、私を信仰してくれているハーピィやケンタウロスなどの種族もお招きいただきありがとうございます。」
「今日はフェルメの死を祝うと同時に、他種族の絆を深める日でもあるので、こちらこそ来ていただけて感謝しています。」
皆が思い思いにディナーを楽しんでいると、賑やかだった街の声が悲鳴に変わった。
「失礼します!お食事中申し訳ありません!」
「なんの騒ぎだ!」
「魔人が現れました!外見の特徴からして獣人を襲った魔人と、元S級冒険者ジャン・バラポーで間違いありません!」
(何故わざわざ神々もいるドラン王国へ……!)
「面白い……我らのいる日に訪れたことを後悔させるとしよう。」
「待ってください!これだけの魔力……あなた達がいることは分かっていたはずです、何かがおかしい!まずは話し合いましょう。」
立ち上がり赴こうとしたチャクをジル王子は必死に止め、騒ぎの中心へと向かった。
「今日は祭りの日だ!王都には神々も含め強者が集まっている。魔人よ覚悟するんだな!」
悲鳴の中、十名以上の兵士が魔人たちを勇敢にも包囲していた。
「……だから来たんだ。何度も言っているがジル王子と話をさせてくれ」
ジル王子が目にした二人の魔人は、周囲の目に怯える子供と、それを守る兄のように映っていた。
「私ならここだジャン・バラボー」
ジル王子が現れると、ジャンは後ろに隠れたリオンの背中を押し横に並ばせた。
「今日は闇の神フェルメの死を祝う祭りだ。お前たちの来るようか場ではないと思うのだが?」
「勘違いしないでくれ……俺たちは祭りを楽しみに来たわけじゃない。」
「だったら何を?」
ジル王子の質問に答えるように二人の魔人は深々と頭を下げた。
「まずは謝罪をさせてくれ……本当にすまなかった!」
二人の魔人が頭を下げると十数個ほどの石が魔人たちに投げられた。
「謝るくらいなら私の旦那を返して!」「ジル王子!そやつに裁きを下してください!」「死ね!死ね!死ね!」
「そうか……あの時の兵士の」
リザードマンの出る森でジャンによって殺された二十名の兵士、その遺族たちはジャンだけではなく魔人に対して激しい憎しみを覚え、憎しみの対象が現れたことで、爆発してしまった。
「こうなることはわかっていたはずだ。お前たちがここに現れた以上、私にはお前たちを殺す責務がある。」
「……わかってる。殺される可能性があっても話さないといけないことなんだ……頼む!もし、気に入らないなら腕や足を斬り落としてくれても構わない!話だけでも聞いてくれないか!」
「…………わかった話を聞こう」
「ジル王子!?こんな奴らの話なんて……!」
「確かに魔人たちは多くの人を殺した。だが、彼らも元人間。また同じように苦しむ民が生まれないためにも聞く必要があるのだ」
「ジル王子……」
旅を終えたジル王子の言葉には、元国王ケヴィンのように人々を納得させるだけの迫力があった。
「それで……話とは?」
「ありがとう……話ってのは魔物のことなんだが、よかったら俺たちに任せてくれないか。」
「任せるとは?」
「こいつ……リオンは魔物と会話することができる。もし許されることなら、俺たちで魔物を人のいない土地に連れていかせて欲しい。」
「なるほど……だが、魔物が納得しなかった時はどうする?お前たちが来るまでに魔物が人を襲ったら?」
「納得しない魔物は……殺してくれて構わない。そして魔物たちに命令するのには、そう時間はかからないはずだ。」
「どうしてわかる」
「この大陸にいるゴブリンとは既に友達になったから」
黙っていたもう一人の魔人リオンが口を開いた。
「説得と言っても全ての魔物と会話する必要はないんだ。一匹を説得できれば、その一匹から最終的には全ての魔物に話は伝わる。罰ならいくらでも受ける!頼むから、俺たちみたいな異端にも居場所をくれ!」
ジャンの言葉に一柱の神が反応してジル王子の隣に立った。
「俺は賛成だジル王子。パペティアの言葉が気がかりで根絶したくないんだろ?だったらこいつらにやらせるべきだ。それに、何より……」
「えぇ、コナーくんたちの旅を終わりにすることができる。」
「待ってくださいジル王子!こいつらは私たちの家族を!」
「ふむ……確かに罰は必要だな。ジャン・バラボー、貴様は罰を受けると言ったな。」
「あぁ……他の魔人と魔物たちの分まで。」
「いい覚悟だ。そこの人間たちよ、貴様らの許しが出るまで、こやつに雷の魔力を流す。死ぬまで許さないのであればそれも良し。」
「待って、僕も!」
「リオン……お前はマトモな大人に恵まれなかっただけだ。もし、罰を受けるとしたら俺を含め、お前を抱きしめてやることができなかった大人たちだ。」
ジャンはリオンのことを抱きしめた。
「話は済んだか?では始めるぞ。」
ジャンはリオンから離れチャクの元へと歩み寄った。ジャンが目の前に立つと頭の上に手のひらを乗せ電流を流した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
声にならない声が王都に響き渡った。その光景は悲惨なもので罰を与えることを望んでいた人らでさえ目を逸らすようなものだった。
普通の人間なら即死であろう電流。魔人であることにより簡単に死ぬことはできず、地獄の光景は五分以上続いた。
「……も、もう大丈夫です!辞めてください!」
「なんだ、もういいのか?こやつはまだ息をしているぞ」
「こんな恐ろしい光景……これ以上耐えられません……」
遺族は初め魔人が死ぬまで声をあげるつもりはなかった。目を背けていれば大丈夫……そう思っていた。だか、目を背けても嗅覚が人の焼ける嗅いだことのない匂いを伝え、目の前で起きている光景を嫌でも感じ取ってしまっていた。
「あ……がっ……あぁ……」
焼けこげた肉は再生することなくジャンはその場にバタリと倒れた。
「ジャン!」
リオンが駆け寄るとジャンは片目を瞑り自身の無事を伝えた。
「まだ、遺恨は残っているでしょうが、ひとまず納得してくださいましたか?」
「もう……勝手にしてください。」
遺族は下を向き振り返ることなく、家族の一人消えた家へと帰宅した。
「ジャンにリオン。土地は私が用意する。だが、貴様たちがしたことは決して許されることではない。これからお前たちがどう生きるか……それに私は期待しようと思う。」
こうしてジャンとリオンは魔物たちを従え、ジル王子の用意した土地へと移住した。数百年が経った頃、魔物との遺恨が消え、魔物たちは人間との交流を初め交易をするにまで至ることを今はまだ誰も知らない。




