想定外
「……まぁ、いいでしょう。不完全な神が一人増えたところで何も変わりはしない」
「それはどうかな?」
二柱の神が向かい合った次の瞬間、フェルメの鋼鉄の体にヒビが入り、目の前にいたはずのチャクが壁に激突していた。
「……まだ上手くコントロールできんな」
意気揚々と飛び出し壁にぶつかったチャクの顔は赤くなっていた。
「今の……コナーより速かったんじゃ……」
「当たり前だろ……向こうが本家本元なんだから。」
頼もしい仲間の参戦に歓喜するコナーたちと同様にフェルメも予想外の出来事を喜んでいた。
「なるほど……これが主人公補正というやつか!ケヴィン王の時にはなかったものだ!やはり、この世界の主役は貴様のようだなコナー・エイベル!」
(主人公補正……RPGといい、どうしてこの世界の神がその言葉を……もしかしてフェルメは!)
考え事をしているコナーの背後に黒いモヤが現れ、フェルメの手が迫る。
「……!大丈夫かコナー!?相手はワープを使うんだ油断するな!」
「あ、あぁ。すまない」
すんでのところでヤンが間に合いコナーをフェルメの手から守ることに成功した。
「まぁ、チャク様だけで勝っちまいそうだけどな。」
チャクの嵐のように激しい攻撃を受けたフェルメは次から次へと【シェイプシフト】により身にまとった鱗が剥がれるたび新しい鱗を生成し防御に徹していた。
「いや……ヤン、よく見ろ。」
フェルメは体全体に濃密な闇の魔力を纏い。チャクは攻撃のたび、弱体化を強いられていた。
「確かにダメージは入っているけど、このままじゃ……」
「だったら俺たちで助けに入ろう!」
「……ヤンに質問なんだが、【心世一体】はもう使えないのか?」
「使えて数十秒……ただ数十秒使ったら俺は動けなくなる。」
「だったら今は機会を伺おう……致命傷を与えられるとしたら俺かヤンのどちらかだ。当然フォルメも分かっていて警戒はしてるはず、隙さえ生まれれば……」
コナーの思惑とは裏腹にフェルメの隙は見当たらないまま時間だけが過ぎた。
「………………」
「おや?どうしたんですかチャクさん。勢いが落ちてきたようですが……もしかして限界ですか?」
不完全な受肉とはいえ戦闘技術で勝るチャクは大きな弱点を抱えていた。
「まったく……足でまといなど見捨ててしまえばよいものを。怒りの神と恐れられたチャクさんは一体どこへやら。」
フェルメの攻撃がコナーたちへと向かわないように、チャクは全力で攻撃を続けていた。結果、当然のようにチャクは体がガス欠を起こしかけていた。
「昔の儂と違うように感じるのだとしたら、こやつらに影響されたんだろうな。儂には全員無事に家に帰す責任がある。一人たりとも殺させはせんよ。」
コナーたちは足を引っ張っているという事実に悔しい気持ちになりながらも自身にできることを必死に探した。
「人間のくだらない考えに影響されるなんて神失格だね。僕たち神は人間に影響を与える側でないと!」
フェルメはそう言うと三つの黒いモヤを出現させ見覚えのある魔人を出現させた。
「例えばハァウスト。こいつは死体を愛してしまったがあまり、人間たちから除け者にさせれていた。そんな彼に、僕が力を与え、こいつが求めていた言葉をくれてやった。」
動かなくなっているファウストの体を踏みつけながらフェルメは話を続けた。
「フェルメ……様」
「ジャン……君もだ。自身の力不足と考えず、人間の力不足と絶望していたところを僕が力を与えた。」
【心世一体】の反動で動けなくなっているジャンの体をフェルメは強く蹴り上げた。
「肉人形に邪魔をされて呼び出せなかったが。リアンもそうだ、親に捨てられた彼に、僕は生きる力を与えた。」
フェルメはジャンの髪を掴み顔を見合わせた。
「どうして僕が、君たちに力を与えたか分かるかい?それはね……」
ジャンの頭を蹴り飛ばしフェルメは満面の笑みを浮かべた。
「君たちみたいな愚かで惨めな人間が、与えられた力で粋がっているのが実に滑稽だからさ!人間の人生を翻弄してこその神なのさ!」
全員がフェルメの言動や行動に怒りを覚えながらも、攻撃できずにいた。饒舌になるほどの絶対的余裕。この場でフェルメの隙をついて攻撃できる者は存在していなかった。
「ジャン、今日までありがとう。この戦いが終わったら直ぐにリアンも送ってあげるから向こうで仲良くやるといいよ。」
フェルメの想定の外。柱の裏に一匹の弓を持つゴブリンが潜んでいた。魔人リアン。彼の魔力の名は【フレンズ】魔物を自身の思いのまま操ることができる能力。
リアンは獣人を襲撃した際、獣人の長ビオンにより使役していた全ての魔物を失い敗北した。ビオンはリアンに絆の在り方を伝えると同時に【心世一体】の副作用で魂のない肉の塊となった。
「な……!どこから!」
ビオンがリアンに与えた影響は大きく、その魔力にも影響を与えた。魔力の名は【フレンド】。互いが理解して分かり合うことで初めて効果が発揮する。その力は【フレンズ】以上に強力で、ただの木の弓矢がフェルメの体に突き刺さった。
「僕が……ゴブリン如きに……」
ゴブリンが生んだ隙をコナーたちは見逃さなかった。




