目標
「父上、一つだけお聞きしたいことがございます」
ジル王子は剣による攻撃と闇の魔力から忍び寄る死角からの攻撃、その二つを深手を負った状態で捌きながら、なおかつ会話をする余裕までもあった。
「随分と余裕そうじゃないか!」
「大事な話なのです。場合によっては最後になるかもしれません。」
「……いいだろう、だが回復の時間稼ぎと分かれば質問を待たず攻撃を再開する。」
「構いません。」
マルク王は攻撃を止め、少し離れた場所で剣を構え、ジル王子を警戒した。
「父上は私を殺した後にどうするおつもりですか?」
「何を聞くのかと思えば、そんなこと……私はお前を殺して……殺して……何を……」
マルク王は息子の質問に答えることができなかった。
「……よく分かりました。戦いを続けましょう。」
「……そうか……そうだな。」
二人の激しい剣の打ち合いが再び始まった。
(やはり父上は闇の魔法の影響を受けている。おそらく私を妬んでいたというのは本心だろうが……先を考えずに行動するような、お人ではないはずだ。)
ジル王子はマルク王の剣を大きく弾き、左手に溜め込んだ光の魔力をマルク王に流し込んだ。
(まずは光の魔力での浄化。これが上手くいかないのであれば精神に干渉する魔法ということ……)
マルク王は少し眩しく感じたようで、距離を取り視覚の回復を優先した。
「父上……私はあなたと戦いたくはありません。」
「今度は命乞いか?無駄を嫌うお前にしては珍しい発言だな。」
(ダメか……ということは精神干渉か。)
精神干渉を解除する魔法は現在は存在していない。パぺティアの【グラン・ギニョル】による集団パニック。その時も憎しみの対象を遠ざけ、会話により徐々に正常に戻さざるおえなかった。
「父上。」
ジル王子は剣を手放した。
「なんだ、降参するのか?」
「父上にお願いがあります。」
「お願いだと?」
「私は抵抗せず父上に殺されます。」
「なに!?」
「その代わりに私を殺した後はコナーくんたちの力になってあげてください。それならば父上の願いも叶うはず」
「……本気で言っているのか?」
「父上が嫌っているのが私だけなら問題はないはずです。」
「そういう話ではない!自分が死ぬことをなんとも思っていないのかと言っているんだ!」
マルク王はこの怒りが、父として命を諦める息子に対するものなのか、自身では選ばなかったであろう答えを出したジル王子への嫉妬なのか分からなかった。
「死ぬのは怖いです……ですが、父上をこの手にかけるくらいなら死んだ方がマシだと思っています。」
「お前は……どうしてそんなに……!」
マルク王の顔は怒りで歪み、そして何を思ったのか小さく笑った。
「死んだ方がマシ……か。私もわかっていたさ。自身の死こそが、憎しみから逃れる最短の道だということは……。」
マルク王は右手に持った剣で自身の首を切り裂いた。
「父上!!」
マルク王の元にジル王子は駆け寄り、必死に声をかけ続けていた。
(私を殺すくらいなら自害した方がマシか……子が親に言うセリフではないな……それにしても私は最後まで不甲斐ない父親であったな。)
マルク王は涙をうかべるジル王子に笑みを浮かべ目を瞑った。
(なんだ、体が妙に暖かい……私の体に何が起こっている!?)
「……うえ!ち……うえ!父上!」
ジル王子の声にマルク王が目を覚ますと、切り裂いたはずの傷は塞がっており、一命を取りとめていた。
「よかった……目を覚まさないと思いました。」
「……ジル、なぜ私を助けた。今更王の職務に戻れとは言うまいな」
「それは……」
夢中になって回復魔法をかけていた。強いて理由をつけるなら、家族だから、父親だから……。
「父上にとっておじい様が憧れの存在であったように。私にとって父上は憧れの存在なのです。もう少しだけ……もう少しだけでいいので父上の背中を追わせてください……」
泣きじゃくった息子の口から放たれる思いもしなかった言葉……この言葉で、マルク王は自身の愚かさと同時にジル王子の不完全さを実感した。
「ジル。この城は闇の神が自身を隠すために建てさせた城だ。」
「ということは闇の神が!?」
「あぁ、直接見たわけではないが、おそらくそうだろう」
「でしたら、早くここを脱出しなくては!」
ジル王子はマルク王に肩を貸して立ち上がった。
その瞬間、大きな雷鳴と共に強大な魔力をジル王子は感じ取った。
「コナーくん……父上、申し訳ありません。私は行くところがあるので父上は一人で脱出を!」
ジル王子は父と離れ一人コナーの元へと向かった。




