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心の叫び



 コナー・エイベル。雷の神チャクの魔力を不完全ながら扱うことのできる唯一の人間。父のアラン・エイベルの教えのおかげで剣術に秀でており、【身体強化魔法】と【魔力循環】による強化を施された一撃はトロルの首さえも一撃で両断する。


 ヤン・リオット。ごく普通の家庭に生まれて、ケヴィン王の冒険譚に憧れ冒険者になった普通の少年。特に秀でた所はなかったのだが、コナーたちとの冒険の中、1番の成長を遂げ、限定的ではあるが神にすらも迫る力を手に入れた。


 神を宿す者と神に近しい男の戦いの火蓋がヤンの一撃で切って落とされた。


 (心世一体……ジャン・パラボーとの戦いの時より数段早い!!だけど、今の俺なら目で追えない程じゃない!)


 コナーは雷の魔力を身にまとい光速で移動し、ヤンの体に凄まじい威力の蹴りを入れた。


  (……は?)


 コナーによる蹴りはいとも容易くヤンに片手で止められてしまった。


 「コナー。お前だけが強くなったと思うなよ……」


 「なんでお前喋っ!」


 【心世一体】を使用しているにも関わらず言葉を交わすことができていることに驚いていると。突然地面が揺れ、大地から四本の土の柱が出現し光の結界で囲われた


 (やられた……さっきみたいに破壊する隙はないだろうな……こいつ【心世一体】を使いながら高度な魔法を……)


 「…………っ!」


 (狭い空間なら【心世一体】を使っているヤンの方が有利に戦える、なんとかして結界を破壊しなくては!)


 ヤンの攻撃をギリギリで躱し、何度も攻撃を繰り出すが身体能力が極限まで高められたヤンに攻撃が届くはずもなくカウンターを入れられ結界に叩きつけられた。


 (やっぱりダメだな……逃げに専念するしかなさそうだ……)


 コナーは攻撃を捨て全意識をヤンの攻撃にのみ集中させた。


 「……………………」


 幾度も繰り出される攻撃を躱す、躱す、躱す。ヤンと戦う前の三人の魔法のダメージに加え、【心世一体】を使用したヤンの打撃を数発受けたコナーの体は既に限界を迎えていた。


 コナーが防戦一方に追い込まれる中ジル王子の声が耳に届く。


 「ヤンくん!【心世一体】を何分使った!」


 「……………………」


 ジル王子の言葉にヤンは返事を返さなかった。


 「……マズイ!コナーくん!一時休戦だ、ヤンくんの魂が薄れかかってる!」


 「使いこなしてるんじゃないんですか!?」


 「説明は後!君は防御結界を破壊してくれ!後はこっちで何とかする!」


 取り乱しているジル王子の様子を見てコナーはヤンが危ない状態にあることを察し、ジル王子の結界を破壊したように雷を落とし、防御結界の破壊を試みた。


 だが、ジル王子のものよりも結界は数段固く、壊れる様子がない。


 「二人とも早く起きてくれ!」


 コナーが結界を壊そうとしている最中でもヤンの猛攻は止まらない。ジル王子は二人を起こすことに必死になっており、コナーはヤンの相手をしながら結界の破壊をしなくてはならない。


 (どうすれば……)


 コナーが悩んでいると自身の中にいるもう一つの存在が声をかけてきた。


 (コナー、俺がやる変われ!)


 コナーはその存在に従い自身の体の主導権を譲った。


 「全く……まだまだ俺の力を使いこなせちゃいねぇな。」


 声の主は、ヤンの攻撃を片手で軽く止め、拳から電流を流し気絶させた。


 「雷の神……」


 「正解だ。そんなことよりも、この小僧を助けるのだろう?」


  チャクはヤンを担ぎ、片手で防御結界を破壊してジル王子の元にヤンを降ろした。


 「……そうですね。」


 ジル王子は起こしたクロエと共にヤンの体を回復させ、シルヴィが心臓マッサージを始めた。


 「ヤン!目を開けて!」


 「ハァ……見てられんな。娘そこをどけ。」


 チャクはシルヴィと場所を代わり、ヤンの胸に手を置いた。


 「何を……!」


 「いいから見ておれ。」


 そう言ってチャクはヤンの体に軽く電流を流し、心臓のマッサージを始めた。


 「ケホッゴホッ!みんな……。そうか……俺は……また。」


 「小僧の記憶にあった心臓マッサージの方法を見様見真似で試したが……存外上手くいくものだな。」


 「コナー……じゃないですよね?」


 「そうだ。我こそ雷の神チャクである。神と言っても、人間たちがそう呼び始めただけだがな。」


 「……お願いします。コナーの体を返してください。」

 

 チャクの名乗りを聞いたヤンは、チャクへと向き直り、深く頭を下げた。


 「ヤン……私たちからもお願いします。魔物は私たちで何とかしてみせます……だから!」


 「悪いが……それはできない。」


 「…………っ!」


 「コナーが望むならそうしてやるつもりではあったが。コナーが望まないのならどうしようもない。」


 「俺たちが説得してみせます!だから……!」


 「この子は、この世界に転生した理由を失いたくないようだ……魔物を一掃するためとはいえ命を奪い、転生させた儂にはこの子の意思を尊重してやることしかできない。」


 チャクはコナーの体に魂が宿ったことで、コナーの感情を自分自身のことのように感じ取っていた。それもあり、怒りの神と呼ばれていたチャクは自身の行いを深く反省していた。


 「……今からコナーに変わるが、説得できるかどうかはお前たち次第だ。もし、コナーを説得できなかった時は、お前たちには悪いが諦めてくれ。」


 そう言うとコナーの体は憑き物が落ちたように地面に倒れ、再び目を開けると先程とは別人が起きたことがすぐに分かった。


 「それじゃあ俺はもう行きます……」


 「お願いコナー!一度だけでいいから!」


 「頼むから……もう邪魔しないでくれ……」


 「コナー……お前は本当にそれでいいのか?」


 「いいに決まってるだろ!俺はそのためにこの世界に転生したんだ!それを否定したら俺は!俺は……!」


 コナーは膝をつき泣き崩れた。


 「だったら……俺は何のためにこの世界に転生したんだよ……毎日学校へ行って……友達と馬鹿な話をして……放課後に魚を見に行って……家族とご飯食べる……そんな毎日が俺の幸せだったんだ!」


 「………………」


 コナーの口から抱えていた感情が溢れ出す。その場にいる四人では受け止めるには、あまりにも激しい感情の濁流。


 「コナー……お願い。せめて一度だけ、一度だけでいいから!おじさんたちとお話して!きっと自分の子供が突然いなくなったらおじさんたち悲しむと思うから……だから!」


 クロエの言葉でコナーの脳裏に前世の家族のことがよぎった。


「……分かった。」


 前世の家族のことを思い、コナーはクロエたちの説得に従い、一度故郷に帰ることにした。

  

 


 


 

 

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