海中の王国
「シルヴィ昨日は来てくれて助かったよ、ありがとう。」
初めて会った海へ向かうと、約束通りの時間にシルヴィが待っていた。
「いいのいいの!それよりコナー!緊急事態なの、本当は昨日伝える予定だったんだけど、一緒に私たちの国に来てほしいの」
「国に来てくれってお前……どう考えたって無理だろ。海の中なんだろ?俺、人間だぞ?」
「そこは大丈夫!この首飾りを付ければ体を風の魔力が纏ってくれるから呼吸もできるし寒さも心配いらないよ!」
俺はシルヴィから首飾りを受け取り付けてみた。こんなもので本当に水中で呼吸ができるようになるのだろうか。
「うん、似合ってる似合ってる!私とお揃いだね!」
「それで?なんで俺をシルヴィの国に連れていきたいんだ?」
「いや〜、それがね。私が海の生き物の情報を集めてたのが女王様にバレちゃって、女王様にコナーのことを話したら連れてくるように言われちゃったの。」
「それって俺大丈夫なのか?会いに行って殺されました、とかないよな?」
「大丈夫!大丈夫!女王様優しい人だし多分殺したり……しないは……ず」
最後の言葉に不安を感じたが助けられた恩もある。
「……わかった、ついて行くよ。ただし危なくなったら止めに入るくらいはしてくれよ。」
「ホント!?よかった、じゃあ早速行きましょ!」
一連の会話を終え、俺は体が沈むように重りを付けてシルヴィに手を引かれながら海に潜った。
「本当に呼吸ができる……」
「すごいでしょ。私たちの一族はみんなこの首飾りのおかげで水中で呼吸をすることができるの。」
「なんでそこまでして水中で暮らしてるんだ?水面で暮らした方が楽なんじゃないか?」
「……人間を見たくないのよ……ねぇコナー?コナーは私が人間って言ったら信じてくれる?」
「なんだよ急に……正直わからない。シルヴィには何度も助けられたし信じたいけど……」
「そっか……そうだよね!今のは気にしないで!さっきの質問の答えだけど王国についてからでもいい?」
「……ごめんシルヴィ。聞いたらまずい内容だったか?」
「大丈夫!気にしないで!いつか話したいと思ってた内容だから。それよりほら見えてきた!あれが私たちの王国、サンテール王国よ!」
迂闊だったクジラやイルカのように生活するのではなく、わざわざ生きるのに不便な水中で暮らすことを選んだんだ何か理由があるに決まってるじゃないか。
「門番ご苦労様です。女王様の命令で私の友人を連れて来ました。」
「シルヴィ様!それではそいつが例の人間の男ですか?」
「そうです、門の中に入ってもいいかしら?」
「どうぞ中にお入りください!お客人俺たちの国を楽しんでってくれよな!」
男性の人魚……マーマンの門番は俺に優しい笑みを浮かべ門を開けてくれた。門の中には水中とは思えない街並みが広がっていた。俺が門の中をくぐろうとすると空気の膜があり上手く中に入ることができない。
「フッどれ、俺が背中を押してやる。」
俺が苦戦している姿がさぞ面白かったのだろう、門番は笑いながら俺が門の中に入るのを手伝ってくれた。
「シルヴィ様をよろしくな」
門番は小声で俺に言葉を残すと門を閉じた。
「さっ!早く行きましょ!」
「なぁシルヴィ」
「なによ」
「お前門番の前ではキャラ作るのな」
「……!!うるさいわね!女王様がそうするように言うんだからしょうがないでしょ!」
シルヴィの大声で周りの人魚たちがいっせいにこちらに集まってきた。
「シルヴィ様この人が地上の人間ですか!」
「お兄さん!地上のお話聞かせて!」
こうなることを予見していたのだろう、シルヴィがやってしまったという表情をしている。
「私たち女王様に呼ばれてるの。通してもらってもいいかしら」
「えーーシルヴィ様のケチ〜」
「プッ」
思わず俺が笑うとシルヴィは俺を睨みながら手を引き城へと向かった。
「シルヴィお前愛されてるんだな」
「うるさいわね!それと言い忘れてたけど門の中は空気があるから首飾り外しても大丈夫よ!」
首飾りを外すとシルヴィの言った通り呼吸ができる。どんな仕組みになっているのだろう。俺が海の中の世界に目を奪われていると、いつの間にか女王様との謁見の間の前に着いていた。
「俺、謁見の間での礼儀作法とか知らないんだけど大丈夫かな?」
「女王様の前に跪いて許しをもらうまで顔をあげなければとりあえずそれでいいわ。」
前世も含めてここまで緊張するのは初めての経験だ、心臓がどうにかなりそうだ。
「入れ」
扉の中から許しを得て、俺は謁見の間に足を踏み入れた。
「女王陛下。御要望通り私の友人コナーを連れてまいりました。」
「よい、顔をあげろ。」
顔を上げるとそこには豪華な衣装に身を包んだ美しいマーメイドが玉座に腰掛けていた。
「そなたがコナーだな。娘が世話になっている」
娘!ということはお姫様そんな話聞いてないぞ!
「まぁ娘と言っても育ての親というだけだかな。それよりもコナー、妾はお前の話に興味があってここに呼びつけた。」
「私の話ですか?」
「そうだ、この世界の人間は海の生き物を穢れとして扱う。だが、そなたは娘を助け、あろうことか私の呼びつけにも応じた、それは何故だ。」
俺は自分が別の世界の記憶を持っていることで、この世界の人との価値観が違うことを話した。
「なるほど、それは闇の神の仕業だな。」
「申し訳ありません女王様、お聞きしたいことがあるのですが」
「よい、申せ」
「闇の神とはなんなのでしょうか?」
「なんだ貴様知らぬのか、ふむ、少し長くなるが七柱の神のお話を聞かせてやろう。」




