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第7話 幼馴染との改善って?

「沙織とは……」


 丁度自宅に到着した鈴木斗真(すずき/とうま)は、現在中学三年生の妹――恵美(えみ)からの問いかけに言葉を詰まらせ、なんて説明しようか少々考え込んでいたのだ。


「どうしたの? 沙織さんとはどうなったの?」

「それに関しては色々とあってさ」


 言葉を濁らせながらも、斗真は自宅玄関先の扉を開け、一先ず妹を自宅の中に誘導させる事にしたのだ。


「色々って?」


 自宅の玄関に入るなり、妹の恵美は、斗真の様子を伺いながら首を傾げていた。


「色々ってのは、別れたってことだよ。結論から言えばね」

「別れたの? 付き合っていたのに?」


 恵美は驚いていた。

 まさかといった顔をしていたのだ。


「そういう事なんだ」

「でも、この前まで普通に仲が良かったよね? 昔から一緒に遊んでいたのに」

「そうなんだけど。この前さ、急にフラれてしまって」

「どうして? もしや、お兄ちゃん、何か悪い事をしたの?」

「いや、多分、何もしてないはず」


 斗真は、身振り手振りを加えながら全力で否定する。


「沙織さんって、怒るとかって殆どないよね?」

「そうだな。今まで怒った事とかも殆どなかったし。むしろ、今までの沙織が温厚過ぎたのかもな」


 沙織も一人の人間であり、嫌な事が一つや二つはあると思う。

 内に秘めた不満なんかもあったのかもしれない。

 別の人と付き合ってしまったのも、斗真に原因があるからなのだと感じていた。




「お兄ちゃんはこれからどうするの?」


 玄関先にいる時に、恵美から問われる。


「どうするって、まあ、沙織とは関係を修復できそうもないし。沙織とは距離をおいて過ごす事にしたよ」

「それでいいの?」

「しょうがないだろ。沙織の気持ちが変わらないなら、どうする事も出来ないんだし」

「んー、そっかぁ……私は沙織さんの事好きだったんだけどね」

「……沙織はそもそも俺らとは違うんだよ。沙織の家は、お金持ちなんだからさ」


 亜寿佐沙織(あずさ/さおり)の家庭は両親が大金持ちで、世間的に言う富裕層なのだ。


 沙織自身は、お金持ちの家庭で生まれ育ったのに、庶民的な考えを持った子なのである。

 昔から一緒に遊ぶことになっても、そこまでお金を使わない遊びを率先して提案してくれていたのだ。


 沙織は斗真に合わせていたかもしれないが、そうだとしても彼女は良心的だった。


 そんな彼女が急に変貌するのも不思議な話だと思う。


 もしかして理由があるのか?


 斗真は腕組をして瞼を閉じ、一人で悩み込んでいた。


 沙織曰く、将来の事について不安を抱き始めていたと言っていたのだ。

 斗真自身に何の取り柄が無いこと。それが大きな障害になっていたからなのだろう。


 それが変貌した理由ならば、自身の態度を改めるしかない。

 だが、どういう風に改めればいいのだろうか。


 それについて今、悩むべきなのだろう。


「お兄ちゃん、いつまでも玄関にいないで。早く、リビングに行こ」

「ああ、そうだな。ちょっと待ってて」


 妹の恵美はすでに靴を脱いでおり、リビングの方へ向かっていたのだ。




「お兄ちゃんは、沙織さんとは今の関係でいいと思ってるの?」


 リビングに入るなり、ソファに座っている妹から問われる。


「それはよくないとは思ってるけど。今の状況だと、そうするしかないだろ」


 斗真はソファ前に佇み、考えながら返答していた。


「そうかもしれないけど。お兄ちゃんがそんな感じだと他の人に取られてしまうよ」

「それは……沙織も他の人と付き合い始めていたしな」

「え、そうなの?」


 恵美は、それはヤバくないといった顔をしている。


「そうだよ。沙織は他の男性と付き合い始めたらしいんだ。俺、その事を直接言われて、それで振られたんだ」

「やっぱり、お兄ちゃんに問題があるって事じゃないの?」

「そ、そうかもな」

「原因とかに心当たりはないの?」

「あるとしたら、将来に関する事かな。俺って、そんなにパッとした個性がないじゃんか」

「そうだね。お兄ちゃんは至って普通の人って感じだからね」


 妹も、斗真の意見には素直に同意していたのだ。

 逆に、そんな態度を取られると、心に刺さる。

 もう少し擁護してほしかったと思うのだが、実の妹にまで、そういった感想を抱かれている時点で色々とヤバいのだろう。


「逆にさ。恵美的には、俺はどうすればいいと思う?」

「それはね、どうだろうね……」


 恵美はソファに座ったまま唸っていた。

 真剣に考えてくれているようだ。


「まずは服装から変えてみるとかは?」


 恵美は閃いた感じに、ハッキリとした顔を見せ、目の前にいる斗真の姿を全体的に見ていた。


「服装か」


 斗真は私服の時の自分の姿を振り返っていた。

 意味不明な英語が記されたモノ、意味不明なデザインが施されたモノなど。

 そういった服装しかない。


「お兄ちゃんって、普段から似たような服しか着ないでしょ」

「それはそうだけど。でもさ、着慣れた服の方が安心するというか」


 服を購入するのは年に二回程度で、そこまで服装にはこだわっていないのだ。


「多分、お兄ちゃんのそういう考え方がよくないと思うの。安心感とかじゃなくて、もう少し挑戦した方がいいと思うよ」


 実の妹から直接的に指摘されてしまったのだ。


 ぐうの音が出ないほどに、妹はズバッと言ってくれる。

 嬉しい反面、やはり、心に突き刺さる感じだった。


「お兄ちゃんは変わらないといけない時期にあると思うの!」

「そうか……そうだよな」


 恵美から言われ、ソファ近くに佇んでいる斗真は自身の私服について考え、確かにと頷いてしまっていたのだ。


「そうだ、お兄ちゃん。今度、服を買いに行こうよ」

「服? でもな……」


 斗真は消極的だった。


「いいでしょ。私も買いたい服があったから。それに、そろそろ夏も近づいて来てるし、新しい服を買うなら今がチャンスだよ!」


 ソファに座っていた恵美は、その場に立ち上がり、斗真の目の前で目を輝かせていた。

 妹はどうしても服屋に行きたいらしい。


 斗真は妹から指摘されているように服装がダサいのだ。

 衣替えするなら今しかないのだろう。


 妹とこの頃、一緒に街中で遊んでいなかった事もあり、気分転換にも適していると思い、今度の休日に新しい服を買ってみようと考える事にした。


 恵美は今年、高校受験であり、普段から勉強ばかりしている妹の息抜きにも丁度いいと思ったのだ。


「お兄ちゃんには、どんな服が似合うかだよね」


 恵美は難しい顔を浮かべ、兄である斗真の事について真剣に考えてくれているようだ。


 良い妹を持ったのだと、斗真は内心、感じるのだった。


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