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第4話 幼馴染の関係は色々と難しい

 刹那、校舎の屋上が静かになった。


 鈴木斗真(すずき/とうま)は屋上のベンチに座り、今まさに涼葉から卵焼きを食べさせてもらう直前だったからだ。


 幼馴染の亜寿佐沙織(あずさ/さおり)からは、その瞬間をガン見されていたである。


 一番気まずい瞬間であり、斗真はどういう反応を見せればいいのか戸惑っていたのだ。


 今まさに気まずい時間帯。

 神谷涼葉(かみや/すずは)は、斗真の口の中へ、卵焼きを入れていた。

 口内に入ってくる卵焼きの侵略。口に入ってしまった以上、斗真はそのまま口の中で咀嚼する事しか出来なかったのだ。


 美味しいという感想の他、沙織から見られている事もあり、気まずいという想いの方が強かった。


「……」


 沙織からは特に何の反応もなかった。

 幼馴染は屋上から立ち去るとかではなく、普通に屋上の中に入ってきたのだ。

 しかも、彼女は斗真がいるところへ近づいてきたのである。


 なんの用かと思い、斗真は沙織の様子を伺うように見つめていた。


「斗真って、神谷さんと一緒に食事をしてるの?」

「そ、そうだけど。なんで?」


 沙織は話しかけてこないでと言っていたのにも関わらず、現状、彼女の方から話しかけてきているのだ。


「俺が誰と昼食を取っても問題はないと思うけど」

「そうだけど……そうなんだけど……」

「沙織は、別の人と付き合い始めたんだろ。だったら、俺とは関わらない方がいいんじゃないか?」

「そ、そうね……でも」

「でも?」

「べ、別になんでもないわ。勝手にすればいいんじゃない?」


 沙織は顔を背け、不機嫌そうな態度を見せて、屋上から立ち去って行ったのだ。


「なんだったのかな?」


 涼葉は弁当箱を手にしたまま不思議そうに、沙織が立ち去っていた屋上の扉を見つめていたのだ。


「さあ、わからないけど」

「そう言えば、亜寿佐さんとはどうなったの?」


 隣にいる彼女から問われていた。


「あまり改善できてない感じかな。なんていうか。さっきの通り、ぎこちない感じで」

「そうなんだね。でも、亜寿佐さんって、あんな感じだったっけ? もう少し明るい感じじゃなかった?」


 涼葉は顎に手を当てながら、沙織の事について話し始めたのだ。


「んー、そうだね。でも、昨日から、あんな感じになって」

「そうだよね。私、亜寿佐さんの事は殆どわからないけど、人ってあんなに変わるものなのね」

「そうみたい。俺も、正直なところを驚いていて」


 斗真も沙織の変貌ぶりには困ったものだと感じていた。

 沙織が自分で決めた事ならば、幼馴染の考えを受け入れ、これからは距離を取った方がいいのかもしれない。

 斗真の中で、そう考えるようになっていたのだ。


「やっぱり、さっきの亜寿佐さんの様子を見る限り、関係性を戻すのは無理そうね」

「う、うん……俺も、もう沙織とはこれで終わりにした方がいいと思ってて。沙織にも事情があるみたいだし。昔は普通に仲が良かったんだけどね。やっぱ、時間が経つと変わるものなんだなって」

「まあ、今は一旦距離をおいて、何か機会があったら、その時に少しずつ幼馴染としての関係性を取り戻すのも手なんじゃないかな?」

「そうだね。その方がいいかもね」


 斗真は涼葉の意見には同意するように頷いていた。


「今は私と付き合ってるんだし。気分を変えよ。その方が気が楽になるかもしれないし。ね!」


 涼葉は、斗真の事を勇気づけるように話してくれていた。

 それが彼女なりの慰め方なのだろう。


 いつまでも過去の出来事を引きずっていてもしょうがないと思い、斗真は自分の中で決心を固め始めるのだった。


「はい、これあげるね」

「おにぎり?」

「そうだよ。鮭が入ってるんだけど。小麦粉をつけてフライパンで焼いた鮭を使ってるの。普通の鮭おにぎりと比べると、ちょっと味が違うと思うけど、普通に美味しいからお勧めなんだよね」


 涼葉から渡されたおにぎり。

 銀紙のようなモノで包まれており、それをめくってみると、海苔に包まれたおにぎりの頭の部分が姿を現す。


 斗真は一口食べてみる。

 物凄く美味しい。

 鮭はムニエル仕様であり、小麦粉で焼いた事もあって、少しサクサクした食感になっていた。


「これ、美味しいね」

「そうでしょ、美味しいでしょ。でも、手間はかかるんだけどね」


 涼葉は照れた感じの表情をしていた。


「そうだよね。でも、時間をかけただけあって。市販で売られている鮭おにぎりと違って新鮮でいいかもね。こういう食感も好きだし」

「なら、良かったかも。これからも付き合うなら、斗真の好きなおにぎりとか作ってくるけど。次作ってくるなら、どんなのがいい? 具に要望があるなら、私聞くけど」


 涼葉はまじまじと斗真の顔を見ていた。


「なんでもいいかな。でも、できれば、今回と同じ鮭のおにぎりでもいいかも。これ、美味しいから」

「ありがと。じゃあ、鮭のおにぎりね。また作ってくるから」


 涼葉は笑顔で答えてくれていた。

 それから斗真は、ムニエルの鮭おにぎりを食べ終わった後、涼葉が残していた弁当のおかずを食べる事にしたのだ。




 午後からは体育であり、基本的にどんなスポーツをしてもいい事になっている。

 ただ場所の確保などの都合上、できるスポーツも限られてくるのだが、斗真は体育館で涼葉とバトミントンをしていた。

 バトミントンをしていると、遠くの方から視線を感じるのだ。


 視線の先には沙織がいる。

 彼女は他の人と卓球をしている最中、チラチラと斗真の事を見ているようだった。


 お、俺に何か用があるのか?


 斗真もバトミントンをしながら、彼女の方をチラチラと見てしまう。

 沙織はもう関わらないといっていたのに、なぜか、斗真の事を気にしているようだ。


「斗真、どうかしたの?」


 一緒にバトミントンをしている涼葉から問われていた。


「いや、なんでもないよ。気にしないで」

「そう?」


 涼葉は首を傾げている。

 涼葉は、斗真が打ち返してきたシャトルコックを追いかけ、彼女もラケットで打ち返してきたのだ。


 斗真は、沙織からの視線を感じながらも、その日の体育を過ごす事になったのである。


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