アジ釣り対決
「風!すごいね!」
船に乗ったら、不安もすべて吹き飛んだ。
早朝のまだ涼しい時間。
船で風を浴びるとむしろ寒いくらいで気持ちいい。
眠気も不安もどこかへと消えてしまった。
「お嬢様!酔ったりしてませんか??」
「ううん!大丈夫!絶好調!」
船酔いも全然大丈夫。
たとえ釣れなくても、この気持ちよさだけでも今日は来た甲斐があった。
「でも鈴ってすごいんだね!
見直したよ!」
今日の船は鈴のお友達の船らしい。
船長さんとにこやかに話したあと、私たちも船に乗るように促してきた。
「俺にはたくさんの友達が居るからな。
あのおじちゃんもマブダチよ。」
そう言って鈴は不敵に笑った。
「身ぃ乗り出すなよ!!」
船長さんが大声で叫んできた。
風で声が少しかき消されさる。
「「はい!!わかりました!!」」
私たちも大きな声で答える。
大きな声なんて久しぶりに出す。
それだけでちょっとテンションが上がってしまう。
「でも本番はこれからだぜ?
1番多く釣った人が優勝な!」
鈴が釣り竿を撫でながら勝負を提案してきた。
「……なに?また罰ゲームでもする?」
そういえば鈴への復讐がまだだった。
これはいい機会だ。
「じゃあ最下位には罰ゲームですね!
お二人になにをするか決めなきゃです。」
フランがニコニコと勝利宣言をした。
「フラン?もう勝った気でいる?」
そう私が聞くとフランはきょとんとした顔をした。
「だって私が勝つのは当然ですよ?」
当たり前でしょと言いたげだ。
「フラン。もしかして寝ぼけてる?」
「ふふっ。お嬢様こそ?」
「おいおい!2人とも!
3位決めるのに揉めるなよ!」
「ぁ゙あ?」「はぁ?」
船の上は一気に殺伐とした雰囲気に。
まあ全員こういうおふざけが好きなだけだけど。
「じゃあ今日は1位が王様。
それ以外はカスな。
王様が2人に命令できるってことで。」
鈴が今日のルールを決めた。
私たちもそれに頷く。
「ちなみに鈴?釣りの経験は?」
「超ベテラン。」
「ハンデください。」
「うむ。もちろん。」
フランはまあ多分いつもどおりプロ級。
鈴も手先が器用で経験者。
勝つためにはハンデが必要だろう。
私はそういうのはどんどん貰うタイプだ。
「じゃあ釣果プラス10でいい?」
「ん。私はスコアに10プラスね。いいよ。」
これで試合内容は完璧に決まった。
十匹も貰えるなんて。
アジフライ10枚だと考えれば、すごい量のハンデだ。
もしみんながそれだけ釣ったら、小鳥のお腹はパンパンになってしまう。
それから少しして船が止まった。
「では諸君。
これから私のことは鈴師匠と呼びなさい。」
そんな前フリから鈴のアジ釣り講座が始まった。
胡散臭かったけど、船長さんもニコニコと頷いている。
間違ったことはいってなさそうだった。
「では2時間後に報告ね!」
3人少し離れた位置で、釣りスタート。
「……」
でも一人で釣り始めると寂しいな。
なんかお喋りとかしたくなる。
「……ねえ、ふた」
後ろを振り向くと、2人とも集中してるのが見えた。
うん、今日はやっぱり私も集中しよう。
「あ」
糸が引いてる。
たしかこうやって……。
「よし。一匹目。」
意外と簡単に釣れた。
中々の大きさ。
君はあとでアジフライになるんだよ。
「君の名前はアジフライ1号ね。
じゃあ餌つけ直してと……。」
こんなに早く一匹釣れるなんて。
私、実は釣りの才能もあるのかもしれない。
「……」
どんどん釣れる。
やったー。
「……」
すごくたくさん釣れる。
私、超釣り上手い。
「……」
2時間は長い……。
「……ねぇ、勝負打ち止めにしたい。」
ついに私は耐えられなくなった。
昔は一人でも全然大丈夫だったんだけどなー……。
「はい、大丈夫ですよ!
私もお嬢様と一緒がいいなーって思ってました!」
フランは了承してくれた。
「じゃあ勝負はここまでだな!
俺、けっこう釣れたぜ?」
鈴も了承してくれたので、釣り大会は終わり。
「では結果発表ー!
俺は24匹釣れたぜ!」
「残念です……。私は22匹です。」
あれ?
「ん?どうした?
あんまり釣れなかったか?
まぁ俺はベテランだからな。」
鈴は勝ち誇ったような顔をしている。
でもびっくりしたのはそういうことじゃない。
「私、40匹。スコアプラス10で50だね。
私の優勝。やったぜ。」
2人がぽかーんとした顔で私を見る。
そして私も驚きでぽかーんとしていた。
船長さんだけがニコニコしていた。
「鈴。なんで私の匂い嗅ぐの?」
「なんか魚に好かれる匂いでも出てるのかなって。」
「出てない。変なこと言わないで。」
いや、出てないよね?
出てる気もしてくる………。
だってそうでもしなきゃ2人に大差勝ちなんてできないだろうし……。
「お嬢様!すごいです!
お嬢様は釣りの天才ですね!」
フランが素直に褒めてくれた。
「ありがと、フラン。
私から変な匂いは出てないよね……?
釣りの天才なだけだよね……?」
フランはきょとんとしながら頷いてくれた。
「これだけ釣れたし、今日はお開きだな。」
鈴が船長さんと少し話して、お開きが決まった。
船長さんにも上手だって褒められた。
陸につく頃には、船長さんとも仲良くなれた。
鈴の運転する車の中。
改めて釣果を思う。
3人合わせて86匹。
すごい量になってしまった。
「今日はアジパーティだね。
鈴はどうするの?」
「彼女に貢ぐー。
だから俺の分は持って帰るなー。」
じゃあ私とフランの62匹を消費することになるわけだ。
アパートのメンバーだけじゃさすがに厳しいか……?
「雛乃お姉様たちにも声かけましょう!
みんなで食べたらもっと美味しいです!」
雛乃とメイドさん達に声を掛けた。
店長さんは来れないけど、他のみんなは来れるらしい。
「そうだ。彼女も連れて鈴も一緒にどう?」
その誘いには鈴は首を横に振って答えた。
「あいつ人見知りだからなー。
今度別の機会に紹介するぜ。」
それならしょうがない。
また別の機会を楽しみにしよう。
それからしばらくして、私たちのアパートに到着した。
「じゃあ今日は帰るなー。
小鳥っちにもよろしくー。」
そう言って鈴とはお別れ。
次に会うのは肝試し当日だ。
「さてと。じゃあ頑張らないとね。」
「むー。一人だとさすがに捌ききれないです……。
お手を煩わせてしまい、申し訳ないです。」
「ううん。手伝えて嬉しい。
捌き方だけ教えてね。」
これから夜までに大量のアジを捌かねばならない。
今日も充実した1日になりそうだ。




