楽しい帰り道と難しい質問
「悪い。サークルの子らとラーメン食いに行く。
先にみんなを連れて帰っててくれ。」
そう言い残して、小鳥は人混みの中に消えてしまった。
焼き肉食べ放題のあとに、よくラーメン行けるな……。
運動部ってすごい。
まあでも時間的にはまだ夕方。
未成年組が居なければ、二次会になってもおかしくない時間ではある。
そもそもサッカーサークルの子たちは小鳥のために来てくれた訳だしね。
改めて私からも感謝しなきゃだ。
そんなこんなでアパートの最寄り駅までは帰ってきた。
ここから三十分歩けば無事に今日のタスクは全て終了となる。
「なー。俺、本当に説教なのー?
実は褒められるとかない?」
「ないよ」
「ちぇー。久しぶりに話せるのはいいけどさー。」
鈴はみんなと別れてからずっとこの調子だ。
事あるごとにぶーぶー言ってる。
小鳥が来るまでお説教だし、小鳥が来たら2人でお説教。
それはもう確定だ。
「鈴お姉様は、どうして急に居なくなっちゃたんですか?」
フランが尋ねると、なぜか鈴はドヤ顔をした。
「風が俺を呼んでたんだよ。
本当の自分を見つけたくないか?ってね!」
意味が分からなさすぎて、突っ込むきにもなれない。
「でもメッセージに返信くらいはしてよ。
既読無視は酷くない?」
ずっと無視されてたから、嫌われたものかと思ってた。
ていうか、すごく薄情者かと。
「親友に言葉は不要なのさ。」
またドヤ顔した。
また殴って欲しいのかな。
「お嬢様?ぼうりょくは駄目ですよ。」
「おねえさん、ぼうりょくはだめ。」
「王子様、殴ったら駄目ですよ。」
同時に3人から止められた。
「でもこいつも酷いんだよ。
送ってきたメッセージ見てよ。」
そう言って鈴が私が送ったメッセージを皆に見せた。
あ、それはまずい。
『最後通告
先のメールで示した日時に。
先のメールで示した住所に来い。
絶対にだ。来なければ祟る。
末代まで祟る。
ていうかお前を末代にしてやる。
追伸
お前が今徳島県に居ることは祟りパワーで分かってるからな。』
「……お嬢様?さすがにこれは……。」
「いや!ちょっと待って!
その前に何回もちゃんとしたメッセージ送った!」
ドン引きする皆に私は釈明した。
その前に返事だけでも欲しいとか。
無理なら無理って言って欲しいとか。
ちゃんとしたのは何回も送ったから!
脅迫は最後の手段だから!
「ていうかなんで俺の居場所分かったんだよ。」
「そこは……ほら……親友だから?いだっ!」
鈴に腕を取られてしっぺされた。
「まぁいいけどさー。あ、ごめん。」
鈴のスマホがブルブルと震えた。
「……元カノからだ。復縁かな?
ちょっと待ってて!」
そう言うと鈴は電話するために少しだけその場を離れた。
それから5分後。
「やったー!大好き!愛してる!!」
そんな大っきな声が聞こえた。
そしてその小さな身体をブンブンと振り回しながら鈴は戻ってきた。
「復縁できたーー!!」
クルクルとその場で踊る。
「じゃあ俺、今日から彼女の家に泊まるから!
積もる話はまた今度な!
暇になったら電話して!
それとこれ、彼女の住所!
小鳥っちにもよろしく言っといて!
じゃあね!」
嵐のように捲し立てて、鈴は去っていった。
「えー……」
残された私たちは呆然と立ち尽くすほかなかった。
「す、すごい人ですね」
めぐるちゃんが口を開いて、ようやく時間が動き出した。
「何も考えてないだけだよ。
あとは多分破滅願望。
真似しちゃだめだよ。」
まあでも昔と変わってなかったのは安心したかも。
近いうちに遊びに行くのも悪くない。
「……♪」
ふと横を見るとフランが鼻歌を歌っていた。
それもすごく楽しそうに。
「フランちゃん、たのしそう」
みゆちゃんも合わせて歌い出す。
2人とも別々の歌。
それでも人通りのない静かな道に、それは綺麗に響いた。
「サッカーの次は何しましょうか?」
しばらく鼻歌を歌うと、フランがそう言った。
「まだ映画も全員分観てないしね。
次はめぐるちゃんも参加できることしよ。」
「私はサッカーも楽しかったですよ。
皆のかっこいいところ、たくさん見れましたし!」
「みんなではなびしたい」
「私、今度は海にも行きたいです!」
それからはみんなで思い思いにやりたいことを言いながら帰った。
ただやりたいことの数はあまりにも多く、アパートまでの帰り道じゃ言い尽くすことはできなくて。
また明日ね、って言って最後は別れた。
でもその少し後。
ピンポーン
「誰だろ?空いてるよー!」
「お嬢様?それは不用心ですよ。」
フランに窘められてしまった。
でも止めないってことは知り合いの誰かだろう。
「さっき別れたばかりなのにごめんなさい。
小鳥ちゃんが居ないうちに聞きたいことがあって……」
扉を開けて入ってきたのはめぐるちゃんだった。
小鳥に秘密にしたいこと?
なんだろ?
「えっと……」
少しだけ言い淀んで、めぐるちゃんが口を開いた。
それは私にとって、あまり考えたくないことを。
「王子様って……小鳥ちゃんのこと好きなんですか?」
そんな難しい質問を。




