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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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サッカーの終わりと総合評価


敵の3人は少林サッカーの世界から飛び出してきたようだった。


ボールは自由自在に意思をもつかのように、私たちの周りをすり抜けていく。

放ったシュートは針の穴を潜るように、僅かな隙間を抜けてゴールへと飛び込む。


そして私たちが蹴ったボールは全てゴールキーパーに止められる。

最後の練習で見た光景。

フランがゴールキーパーとして強すぎる。


点を決められる度に速攻を仕掛けるが、全てゴールキーパーに止められる。

店長さんと小鳥を七人ずつでマークしたが、フランが単騎でドリブルをしてゴールを決めた。


「わたしもさんかしていい?」

途中でみゆちゃんも入って17人。

それでも戦況はよくならない。

あっという間に前半戦は終わった。

 

「ここまで来ると笑えてきちゃいますね!」

楽しそうにキャプテンが言う。

あとのメンバーはだいぶ絶望に打ちひしがれるている。


「一回だけ惜しかったんだけどねー……」

みゆちゃんとキャプテンの連携。

店長と小鳥までは抜いて、あとはフランだけ。

キャプテンが放った、角っ子ギリギリの絶好のシュート。

フランはゴールポストを駆け上がり、思いっきり力を込めてボールを弾いた。


「ドヤ顔は可愛かったけど、ずるいよね〜。」

「やっぱりフランちゃんはサイボーグだと思うわ。」


メイドさん達とわたしは何の役にも立てていない。

サッカーサークルのみんなのおかげで、なんとか試合が成り立っている状況だ。

私は2人目のゴールキーパーとして入っているが、一切反応できていない。

 

「前に練習で、2人からは点取ったんですよね?

 その時はどうやったんですか?」

キャプテンに聞かれたけど、その技はもう使えない。

フランと小鳥は、徹底的に私と雛乃を避けてる。

近くにいる方が危ないと判断されたみたいだ。


「じゃあ後半も頑張るしかないわけですね!」

キャプテンはそう言って立ち上がった。

みんなもそれに続いて立ち上がる。


後半戦が始まった。

私はゴールキーパーの位置から敵である3人を改めて見つめる。


3人とも余裕の表情。

負けることなど考えていない。

 

「フラン、吠え面かかせてあげるから。」

小さな声でフランを挑発する。

するとフランは遠くから嬉しそうに手を振ってくれた。


みるみるうちに、小鳥と店長さんが絶妙なコンビネーションでディフェンスを抜いてこちらに向かってくる。


私はボールの行く末を見守る。

ちょっとでもシュートしそうになったら、そっちに飛び込もう。

運に頼ってでも、止められたら私の役割は果たせ……


店長さんがこっちに向かってボールを蹴ろうとしてる!

多分今!


ボールが来る方に飛び込む。

だが私にボールが当たることはなかった。

コロコロとボールはさっきまで私が居た位置を通ってゴールに入った。


「くそっ」

「今のはしょうがないよ。」


もう一人のゴールキーパーに慰めれてしまった。

でも今のちゃんと見てれば止められたかもなのに!


そこからも前半と同じ流れ。

うちのチームがシュートしても、フランに止められる。

そして小鳥と店長さんのカウンター。

1点ずつ差は開いて行く。

途中でりんが合流して18人対3人になった。

それでも戦況は変わらない。


りんはびっくりするくらい役に立たない。

まさか私と雛乃より下が居るとは思わなかった。

なんのために来たんだろう?


そうこうしてる間にもう残りは5分になった。

もう点差は凄まじい。

ここから逆転しようとかは思えない。

でもちょっとでも頑張って、悔いのない試合にしたい。


「ごめん、ちょっとここ任せてもいい?」

「大丈夫です!行ってきてください!」


もう一人のキーパーに任せて、私も前に出る。

ちょっとでも、ちょっとでも良いから。

私も今日まで頑張ってきたんだって2人に見せてあげたい。


ひたすらにボールを追いかける。

私が追いかけたところで、攻勢にも守勢にも影響はしないかもしれない。

でももしかしたら、なにか変わるかもしれない。

たまたまボールが零れるかもしれない。

たまたま私の身体にボールがぶつかるかもしれない。

そんな何かに期待して私は無我夢中でボールを追う。


残り一分を切って、ボールは自陣のすぐ前。

小鳥がボールを蹴ろうとしてる。

どうにか飛び込め。

私の身体に当たってボールがどこかへ弾かれるように祈りながら、私はそこに飛び込んだ。


ただ、私にそこまでの跳躍力なんてなかった。

私は無駄に転んで、ゴールにボールが入る音と試合終了のホイッスルを聞いた。


「おい、立てるか」

転んだ私に小鳥が手を伸ばす。

「……敗者に口無しだよ。

 好きにしろー……」

私はその場で大の字に寝転ぶ。

くそっ。ちょっとは戦えると思ってたのに。

なんにも役に立てなかった。


「全然役に立てて無かったな。」

そう言って無理やり私のことを起こす。

「……でも頑張ってたな」

小鳥が耳元で囁いた。

その声はすごく優しくて、思わず息を呑んでしまう。

「あとで頑張ったで賞くらいはやるよ。

 なにが欲しいか考えとけよ。」

そう言って小鳥は鼻歌混じりにセンターラインへと歩いて言った。


(頑張ったで賞か……)

そっか。私、ちゃんと頑張れたんだ。

小鳥にそう言って貰えるのは悪い気がしない。


「おじょうさまー!!」

「ぐわっ!」


感慨に浸る間もなく、フランに押し倒された。


「お嬢様!すごく!すごく頑張ってましたね!

 私、すごく感動しました!!」


フランが仰向けになる私を強く抱きしめる。

満面の笑顔に少し涙を浮かべて。


「私、そんなに頑張ってた?」

「はい!とっても一生懸命でした!

 それにすごく楽しそうでした!」


そんなに感動するほど頑張ってたのか……。

そう言われると少し恥ずかしい。

でもすごい。

すごく嬉しい。

自分では駄目駄目だと思ってたのに。

フランも小鳥も褒めてくれた。


「ふふっ。ありがとね、フラン。」

「こちらこそです!

 お嬢様のおかげで楽しかったです!」


でもみんなが私たちを待ってる。

早く整列して、ゲームを終わらせて。


それでそのあとは打ち上げ。

焼き肉を予約してある。 

来てくれた皆を労って、それで今日という日が終わる。


つまり、楽しいことはまだ続く!


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