決戦の直前、負けられない理由
「ずっとも軍団!行きます!おー!」
「おー!!」
フランの掛け声で全員が気合いを入れる。
長かった練習の日々も今日で終わり。
ついに今日はサッカーの本番だ!
店長さんは少しだけ用事を済ませて来るらしい。
あの人は忙しい社会人だし、そういうこともあるだろう。
「今日はよろしくしますね!」
相手チームのキャプテンが声を掛けにきた。
お遊びでやってるとは思えない、スポーツ少女の風格がある。
日焼けしてるし、言動も爽やか。
『ずっとも軍団』の一応はキャプテンである私とは大違いだ。
「こちらこそよろしくね。
私たちの遊びに付き合わせちゃってごめんね。
今日はいい勝負をしようね。」
「はい!こちらこそです!」
固い握手。
うん、すごくいい子っぽい。
年齢は私より1つ下らしい。
2回生でキャプテンなんて、きっと強いに違いない。
そんな風に感心していたら、キャプテンの子が小鳥にジトッとした目線を向けた。
その頬は少し赤らんでいた。
「あ、あの小鳥さん……。
もし私たちが勝ったら……。」
「……あぁ。ちゃんと約束は守るよ。」
小鳥が答えるとキャプテンの子の顔がパーっと明るくなった。
約束?なんのこと?
「私たち、頑張りますね!
ではミーティングしてきます!
お互い頑張りましょうね!」
キャプテンの子がニコニコでチームの輪に戻っていった。
「小鳥?約束って?」
「なんでもねぇよ」
「小鳥?約束って?」
「なんでもねえって」
「小鳥?約束って?」
「あぁもう!分かったから!」
「あいつらが勝ったらキャプテンにキスしろってさ。」
ぼそっと私に耳打ちした。
「ふぅーん。へぇー。」
私はできるだけ平静を装って返す。
キスかー。そっかー。
小鳥はそういうことするんだ。
「別に負けねえからいいだろ……。
それにほっぺだし……。
そんなに嫌ならお前も頑張れよ。」
そう言って小鳥は逃げるようにその場を去ろうとした。
「小鳥!」
その手を私は掴んで、小鳥を引き寄せる。
「……なんだよ。いてっ!」
そして小鳥のおでこにデコピンした。
「小鳥も不用心すぎ。
そういうの駄目っていつも私に言ってるよね。」
「……そうだな。わりぃ。」
まぁ分かればいい。
ていうかこれで本当に負けられなくなった!
そんな条件あるならもっと早く言ってよ!
小鳥のおバカ!
「雛乃!ちょっとだけいい?」
「え、なに??私、もしかしてクビ??」
困惑する雛乃を連れて物陰へ。
そして負けたらなにが起きるのかを伝えた。
「絶対に負けられないじゃない!
新入り!頑張るわよ!」
「うん!頑張ろう!」
2人で気合いを入れなおす。
絶対負けてなるものか!
泥を啜ってでも勝つぞ!
「あ、雛乃ちゃん!新入りさん!」
店長さんも到着した。
まだスーツ姿。
これから着替えるのだろうか。
「今日は私も頑張るわね♪
若い子に混じってサッカーなんてワクワクするわ。」
店長さんのやる気も充分。
でも一応無茶はしないように伝えなきゃ。
店長さん、もし身体壊したらめちゃくちゃ申し訳ないし。
「店長さんは無茶はしないでくださいね。
来てくれただけでもすごく嬉しいです。」
「出るからには頑張るわよ?
私、サッカーすごく上手なんだから。」
店長さん、綺麗な人なのにすごくドヤ顔が可愛らしい。
フランが20歳、歳をとったらこんな感じなのかもしれない。
「それじゃ、ちょっと着替えてくるわね!
少しだけ待っててちょうだい!」
店長さんがぴゅーっと走り去っていく。
中々の速さ。
これは期待が持てるかもしれない。
「……おい」
小鳥が声を掛けてきた。
小鳥にはできるだけ試合まで精神統一してて欲しいんだけど。
「もしかして……今の人が前に言ってた店長さん?」
「うん?そうだよ。
それよりも!今はウォーミングアップしててよ!
小鳥とフランが居ても人数は不利なんだよ!」
そう言うと小鳥は堰を切ったように笑い出した。
え、なに?こわいんだけど?
「ごめん、ああもう心配しないでいいよ。
お前がそこまでズルいとは思わなかった。」
小鳥の目には薄っすらと涙が浮かんでた。
そんなに面白いこと言った?
「今に分かるよ。
ごめん!あたしもちょっと挨拶してくる!」
小鳥は店長さんを追いかけて走っていった。
???
なに?なにが起きてるの?
「お嬢様?そろそろ試合始まりますよ?
楽しみですね!」
メイドさんたちと敵チームに揉みくちゃにされていたフランが私のところに戻ってきた。
フランの健康的なジャージ姿。
撮影会を開きたくなる気持ちもすごく分かる。
「えへへ。皆さんすっごく褒めてくれました。」
今日のために新調したジャージ姿を見せつけるようにくるりと一回転。
敵チームだってこの魅力の前にはカメラを構えざるを得ない。
「今日のためにたくさん頑張ってくれましたもんね。」
そう言ってフランが私の手を握って嬉しそうに笑う。
それだけで今日まで頑張って良かったなと思える。
「それでは今日は一緒に頑張りましょうね。」
フランに手を引かれてみんなの元へ戻る。
そこにはもうメンバーが全員揃っていた。
それじゃ今日は頑張るぞ!




