お風呂屋さんのリラックスタイム
小鳥におんぶされて車に詰め込まれた。
自分で歩くの疲れるからありがたい。
「おじいさん、ありがとうございます。」
「最近、頑張っとるからね〜。
それにみゆのこと見てくれて助かるよ。」
助手席の小鳥に、大家さんがのんびりと答える。
大家さんの運転で私たちは銭湯へと向かっていた。
「おふろやさん、たのしみ。」
「みゆちゃんはお風呂屋さん初めて?
私も初めてだから一緒だね。」
みゆちゃんとめぐるちゃんも和気藹々としている。
車の中はほのぼのとした雰囲気に包まれていた。
「お嬢様?疲れてるなら寝てもいいですよ。」
フランが私の頭を撫でてくれた。
私は首を振って答えた。
このほのぼのとした空気を味わいたい。
そもそも寝るほどの距離でもなかった。
車で20分ほど走って目的地へと着いた。
国道沿いにスーパー銭湯があることを初めて知った。
「じゃあまた後でな~。
みゆ、いい子にしてるんだよ?」
みゆちゃんが頷くのを見て、大家さんが男湯へと消えた。
「じゃあおねえさん、いこっか。」
みゆちゃんが私の手を引く。
他の3人も私が転けないように注視していた。
「おじいさんは声を掛ける相手を間違えたな。」
小鳥がくつくつと笑う。
「お嬢様、今日はすごく頑張りましたからね。
私はすごく誇らしいです!」
まあフランが褒めてくれるからいいや。
早くお風呂で回復したい……。
「はぁ~生き返る……」
どうにか湯船までたどり着けた。
限界まで頑張ったあとのお風呂。
こんなにも気持ちいいとは。
大家さんと別れた後も大変だった。
めぐるちゃんが鼻血を出しそうになり。
小鳥の腹筋を触らせて貰い。
フランとみゆちゃんが私の身体を洗おうとしたのを固辞し。
また小鳥の腹筋を触らせて貰い。
そしてようやく湯船だ。
身体中から疲れが抜けていくのを感じる。
「お嬢様。気の抜けた顔してますよ。」
フランが口元を抑えて笑う。
「フランはどう……?気持ちいいー……?」
「心地よさそうなお嬢様を見て癒されてます。
今日はすごく頑張りましたね。
よしよししてあげます。」
「ありがとー……」
横に座ったフランが頭を撫でてくれる。
天国にいるような気分……。
「フランちゃん、すごくお肌綺麗ですね。」
一方で、めぐるちゃんはフランを見て驚いていた。
「でしょー……。
フランは神様が作った芸術品なんだよー……。」
勝手に私が返事する。
「はい、私は完璧な生命体ですからね!」
フランも続けてドヤ顔で答えた。
「フランちゃん、お人形さんみたいだもんね。
羨ましいな。」
「でもめぐるちゃんも肌綺麗だよ。
白くて綺麗。
触ってみてもいい?」
「ここじゃ恥ずかしいです……。
お家帰ってからなら……。」
そう言ってめぐるちゃんは恥ずかしそうに目を逸らした。
「ちょっとのぼせてきちゃいました……。
先に上がっちゃいますね。
皆さんが出たら電話してください。」
最後にそう言ってめぐるちゃんはお風呂から上がってしまった。
でもめぐるちゃんの肌も本当に綺麗だった。
硝子みたいに華奢な身体。
真っ白な肌も合わせて、深窓の令嬢って感じ。
「そういえば小鳥はー……?」
「みゆちゃんと一緒に露天風呂に行きましたよ。」
「そっかー……。じゃあしばらく2人でのんびりだね。」
「肩をお貸しします。」
フランが肩を差し出してきた。
私はそれに身を預ける。
すごく眠たい。
気を抜けば瞼が落ちそうになる。
「寝ちゃ駄目ですよ?」
フランが意地悪そうに言う。
私が眠そうにしてるの分かってる顔。
「ほら、お嬢様。寝ちゃ駄目ですよ?頑張って?」
耳元で囁くように。
小さな優しい声で。
あぁ……フランはずるいな……。
そう思いながら私の意識は少しずつ薄れて……。
「寝ちゃ駄目だぞー」
「がんばって。おきて。」
急に増えた声に驚いて起きた。
「もう。2人のせいで起きちゃいました。」
「わりぃわりぃ。」
「ごめんね。フランちゃん。」
いつの間にかみゆちゃんと小鳥が戻ってきてた。
2人は悪びれもせずにそう言った。
「そろそろ上がろうと思ってな。
2人はどうする?」
「私もそろそろ上がろうかな……。
ちょっと眠い……。」
3人に連れられてお風呂から上がる。
めぐるちゃんと大家さんも待ってるしね。
大家さんはすぐに見つかった。
さっき別れた地点で待ってくれていた。
でもめぐるちゃんが見当たらない。
電話を掛けても繋がらない。
(まあでも腕輪があるから……)
そう思ってめぐるちゃんのことを思う。
すぐに場所は分かった。
リラクゼーションスペースでのんびりしてるみたい。
フランを連れて向かおうとした時だった。
「わたし、ばしょわかるよ」
みゆちゃんが唐突にそう言った。
「ついてきて。」
迷うことなく、みゆちゃんはリラクゼーションスペースへと向かう。
「めぐるちゃん、おまたせ。」
「あれ、携帯……。電源切れちゃってました!
ごめんなさい!」
何はともあれ、めぐるちゃんと合流できた。
あとは帰るだけだ。
「みゆちゃん、よくめぐるちゃんの場所分かったね」
「ぷろふぁいりんぐだよ」
そう言ってみゆちゃんはドヤ顔した。
めぐるちゃんは外であんまりご飯を食べない。
1人でゲームセンターにも行かない。
そうなると時間を潰す場所は限られてくる。
みゆちゃんの推理を要約するとそんな感じだ。
「みゆちゃんは本当に頭がいいな」
小鳥に頭を撫でられてみゆちゃんが笑う。
(腕輪無くても分かるもんなんだな……)
便利だからって頼りすぎてたかな。
ちょっと反省。
「おかえり〜」
大家さんは車で待ってくれていた。
これで長かった今日も本当に終わり。
短い人生を精一杯充実させる。
そんなフランの目標どおりの1日だった。




