全力の練習
「絶対に当てないようにするから、動くなよ。」
「ばっちこいだよ!手加減しないでね!」
小鳥がボールを前に構える。
今日から私は本気だ。
だから小鳥の本気も見せて貰うことにした。
「いいか!絶対動くなよ!
当てないように蹴るからな!」
念を押したあと、1つ深呼吸。
もし小鳥の本気のボール取れたら、褒めてくれるかな。
フランも横で応援してくれてる。
ここはちょっと無理してでも取って、2人に褒められたい。
「じゃあ蹴るからな!
絶対動くなよ!」
「しつこいよ!
大丈夫だって!」
小鳥は心配しすぎだ。
最近はみゆちゃんのボールも1日に3回は弾ける。
私だってちょっとはましに……
ひゅっ……バンっ!!
大きな音を立ててボールが後ろの鉄柵にぶつかった。
「ひゃっ!」
ワンテンポ遅れて私の腰が抜けた。
なにいまの……?
みゆちゃんが蹴るボールも充分早かった。
でも小鳥はその比じゃない!
当たったら死ぬ!
そんな迫力があった。
「お嬢様!大丈夫ですか!」
腰を抜かした私にフランが駆け寄る。
「う、うん大丈夫。ちょっとびっくりしただけ。」
私もどうにか立ち上がる。
うん、びっくりしただけ。
これくらいじゃ私のやる気は減らないよ。
「お嬢様。無理はなさらないでくださいね。」
そう言ってフランはまた少し離れた場所に戻った。
フランも私の成長を楽しみにしてくれてる。
恐いけど、諦める訳にはいかない。
「今のを見て諦めないか……。
成長したな。」
「今までの私とは一味違うよ。
次、お願い。」
コロコロとボールを転がす。
そしてまた小鳥が構える。
私は心の中で1人呟く。
(今のやりとり、なんかかっこよかった!)
私は映画の主人公気分だった。
小鳥のシュートはすごく恐い。
だけど本番は私もちゃんと頑張らなきゃいけない。
私が不甲斐ないからメンバー足りないわけだし。
だからこれくらいで折れちゃ駄目だ。
私は主人公。
私は主人公。
そう言い聞かせて私は小鳥に向き合う。
「痛い目を見たくなきゃ、そこを動くんじゃねえぞ」
小鳥が歯をむき出しにして笑う。
うん、小鳥は小鳥で悪役を楽しんでる。
悪い顔がすごく似合う。
「お嬢様。私は信じてますから……。」
フランもお祈りするかのように、手を合わせていた。
よく見ると口元がニヤニヤしてる。
フランはヒロイン気分に浸っているようだ。
(……ほんとに2人とは気が合うな。)
私も口元がにやつきそうでしょうがない。
何も打ち合わせてないのに、まるで舞台のように配役が完成した。
私は無言で手招きするかのように手のひらを動かす。
かかってこい、と。
それから1時間後。
「まだまだ行けるよっ!うわっ」
「おいバカ!」
「お嬢様!」
3人で映画っぽい台詞を喋りながらする練習は唐突に終わった。
調子に乗った私がボールの上に立とうとした。
そして転んだ。
思いっきり尻もちをついて、一旦練習は中断。
シュートに反応することは1度もできなかったが、怖がらずにボールと向き合うことができるようになった。
きっとこれは大幅なレベルアップだ。




