執事と友人とお説教
「お嬢様。小鳥お姉様に謝ってください。」
目が覚めて開口一番に、フランが私にそう言った。
友達に急に殴られてすごくショックなのに。
フランの顔はすごく怒っている。
さっきまでの満面の笑顔が嘘みたいだ。
「フランちゃんの言う通りだぜ。
さっさと謝れクソボケバカ。」
小鳥はまるで自分の家かのように寛いでる。
荷物を家まで運んでくれたのはありがたいけど……。
「なんでそんなに怒ってるの……?」
2人に対して疑問を投げかける。
全然身に覚えがない。
すると2人は揃って大きなため息をついた。
「準備はできてます。こちらを見てください。」
フランがそう言うと、テレビに動画が流れた。
『いえ〜い!ことり〜!久しぶり〜♪
見てみてぇ山だよ!
今から登りま〜す♡じゃ~ね〜!』
そこに映っていたのは酔っ払った私の姿だった。
「これが夜10時半に送られてきました。
感想は?」
小鳥が血管を浮かばせながら問い詰めてくる。
「ごめんなさい。」
私は土下座した。
「明らかに正気じゃないお前。
それが登ろうとしてる山をどうにか探しました。
現地にはお前が落とした荷物。
謎のクレーター。
途中で途切れた足跡。
どう思う?」
「事件かな~って思います……。」
「あたしは1日山ん中を探したんだぜ?」
「ありがとうございます……」
「お前はもう二度と酒を飲むな。」
「小鳥お姉様。お嬢様に代わって御礼申し上げます。」
そう言いながら、フランがお茶を淹れてくる。
「おう!ありがとよ!」
お茶を受け取るとフランの頭を撫でた。
「そんでこの子はなんだよ?」
答えにくい質問……。
「私はお嬢様の執事です!」
フランは胸を張って答えるが、小鳥が聞きたいのはそういうことじゃないだろう。
「はぁ……」
まあしょうがないか。
小鳥はそうペラペラ喋る人間じゃないし。
「この子は私の彼女。
つい最近知り合ったの。可愛いでしょ?」
私は嘘をつくことにした。
小鳥が秘密にしてくれるなら誰にも広がらない。
宇宙人って言うよりは信じられるでしょ。
ロリコン扱いは甘んじて受け入れよう。
「バカかてめぇは。くだらねえ嘘つくなよ。」
一瞬でバレた。
「多分その子宇宙人かなんかだろ?」
そこまでバレるか……。
「お前あの夜にはもう帰ってたらしいじゃねえか。
アパートの他のやつから聞いたぞ。
あの山まではここから3時間はかかる。
超常でもねえと物理的に不可能なんだよ。」
山勘じゃなくて確信を持ってる。
「うん、そうだよ。この子は宇宙人。
誰にも内緒だよ。」
観念して私は本当のことを告げた。
「言っても誰も信じねぇよ。
あたしは現場見てるから信じるけどよ。」
そう言って小鳥はフランを抱え込んだ。
「とりあえず今日は泊まるかんな。」
「えっ」
咄嗟に口に出た。
「えってなんだよ。山ん中駆け回ったんだぜ。
休ませろや。」
まあしょうがないか。私のせいだし。
「私のお布団使ってください!」
フランが買ったばかりのお布団を小鳥に渡そうとする。
「フランちゃんからは取らねえよ。
バカは床で寝ろ。」
「じゃあお嬢様!私と一緒に寝ましょう!」
「甘やかすとまた酔って山に登るぞ。このバカ。」
「……今日は床で寝てください。お嬢様。」
今日の寝床が床に決まった。
「とりあえず風呂借りるわ。身体中痛え。」
ヨタヨタとした足取りで風呂に向かう。
ほんとに心配をかけてしまったみたいだ。
「……お嬢様。」
2人になった途端に、フランが厳しい目を向けてくる。
「ただでさえ短い命を縮めるような真似は駄目です。
二度とそんなことしないでくださいね。」
「はい……」
「分かれば良いのです。」
そう言ってフランが私の頭を撫でる。
まるで小さな子どもにするように。
ちょっとだけ恥ずかしい。
でもこれだけ2人が心配してくれたことが少しだけ嬉しかった。
「ではお食事の用意をしてまいります。」
5分ほど優しいお説教をしたあとフランは台所へと向かった。
台所から流れる小気味の良い包丁の音。
それを聞いているとついウトウトしてしまう。
「おい。」
しばらくするとお風呂から上がった小鳥に声をかけられた。
「お前、あんな小さい子に飯作らせてんのかよ……。」
あ、引いてる。
「今日お買い物してるときに言われたんだよ。
料理は私の担当です。
お嬢様は指一本触れないでくださいって。」
「ふーん。あの子がいいなら良いけどよ。」
そう言って小鳥は台所へと近づいた。
「なんか手伝うことねぇか?」
「ないです!皆無です!」
「ねえってよ。」
流れるように私の目の前に座った。
「とりあえずあの子について教えてくれよ。」
まだ分からないことも多いけど、私はそう前置きをして話し出す。
フランは元不老不死の宇宙人であること。
私と一緒に過ごしてくれるって約束をしたこと。
そしてどれだけ可愛いかを。
「ほとんど惚気じゃねえかよ。」
冷蔵庫に残ってたビールを飲みながら小鳥が愚痴る。
もちろん私は1滴も飲ませてもらってない。
「まあいいや。悪い宇宙人じゃねえのは確かだな。」
チラリとフランを一瞥。
「フランちゃん!このバカを宜しく頼むぜ!」
「勿論です!」
台所から大きな声で返事が返ってきた。
「料理できました!運ぶの手伝ってください!」
今日のご飯は豚肉とナスの味噌炒め。
美味しそうな匂いがする。
「せっかくだしあたしも仲間に入れてくれよ。
人多い方ができることも増えんだろ。」
「えー。フランちゃんとの時間減っちゃうじゃん。」
「うっせえバカ。」
「私はお友達増えるの嬉しいです!
小鳥お姉様は良いお姉様ですし!」
「でも小鳥ずっと私のことバカって呼ぶし。」
「それはお嬢様が馬鹿なことしたのが悪いです。」
こんなに賑やかな夜ご飯は久しぶりだった。
夜ご飯の後も夜は続く。
3人でトランプをして、3人でコンビニに行った。
お酒売り場の近くではフランが恐い顔をしていてすごくかわいかった。
最後は布団を敷くのも忘れて私と小鳥は床で寝た。
それでも私たちはみんな幸せだった。