実験結果
……あれ?
なにがどうなってるんだろ。
場所が自宅なのは分かる。
でも周りに人の気配がしない。
喋ろうとしても喋れない。
口に何か噛まされている。
それに……。
腕は後ろ手に柱に縛られている。
足も縛られているから身動きが取れない。
えー……。
「んーーっ!!んーっ!!」
どうにか声を出そうとする。
「……お嬢様?」
扉の陰からフランが顔を出した。
「フランちゃんは下がってろ。
まだ酔ってるかもしれねえ。」
フランを押しのけて小鳥が出てきた。
噛まされていたタオルを外された。
「なに?これ?」
どこから聞けばいいのか分からない。
漠然とした質問になってしまった。
「顔は青いけど正常っぽいな。
フランちゃん、いいよ。」
小鳥が手でこっちにおいでと指示する。
フランはテキパキと私を縛る紐を外してくれた。
「……それでなに?これはなにがあったの?」
私が言うと、フランも小鳥も苦い顔をした。
「まず結論から言うな。
お前は二度と酒を飲むな。」
「それとお酒に近寄るのも禁止です。
お酒を提供するお店に入る時は、私たちのどちらかと一緒じゃないと駄目です。」
そんなに厳しく禁止なの……?
なにがあったのか聞くのが怖い。
「……何があったか聞いてもいい?」
それでも何があったかは気になる。
私、2人に酷いことしてないよね……?
「……」「……」
2人とも黙ってしまった。
見たところ2人とも怪我はなさそうだけど……。
小鳥は怒ってるのか、顔が真っ赤になっていた。
「私から説明しますね。」
口をつぐむ小鳥に代わってフランが口を開いた。
「飲み始めて最初の数分は問題ありませんでした。」
ふむふむ。
「飲み始めて10分後。
急に小鳥お姉様を押し倒してキスしました。」
は?
「……え、小鳥…嘘…だよね……?」
小鳥は目を逸らして何も言わない。
「その後、小鳥お姉様の救出を私は試みました。
するとお嬢様は今度は私にもキスしました。」
冷や汗がダラダラと零れる。
え、私2人にそんなことしたの?
嘘。
嘘だよね?
「その後、小鳥お姉様がお嬢様を捕縛。
そして今へと至ります。」
本当に最悪すぎる。
何してるんだ。私。
酒癖が悪いとかそういう次元じゃない。
二人に無理やりキスするなんて。
「……まじでお前」
小鳥がゆっくりと口を開く。
「ゆるさねえ」
私は目をそらすことしかできなかった。
「お嬢様?身体の具合悪いところはありませんか?」
「う、うん身体は大丈夫だよ。」
正直今は後ろめたさとかそういう諸々で吐き気も湧かない。
「小鳥は大丈夫……?」
「ゆるさねえ」
「ごめんよぉ」
酔ってたとは言え、ほんとにとんでもないことをしちゃった……。
「この借りは絶対返すから……」
「言ったな。絶対返せよ。」
こわいけどしょうがない……。
「フランもごめんね。」
「私も許さないですよ。
酔った拍子でなんて最悪です。」
フランもぷんすかと怒ってる。
私もこんな形でキスしたくはなかったよ……。
「とりあえず今日はお開きにしよっか。」
あまりにもいたたまれない。
もう今日は全部忘れて寝ちゃいたい……。
「は?」
小鳥が睨んでくる。
「え、だって……」
いや、だって怒ってるじゃん。
「借り、今返せ。」
「なに、何すればいいの……?」
こわい。
「もう今日は疲れたんだよ。
ここで寝させろ。」
「お嬢様。布団の準備してください。」
2人に催促されて布団の準備をする。
フランが私に仕事を催促するなんてすごく珍しかった。
それだけフランも怒ってるのかもしれない。
「どうぞ……」
布団を敷くと、2人が倒れるように布団へと飛び込んだ。
「じゃあ私も寝るね。
おやすみなさい。」
自分の分の布団を敷こう。
そう思ったときだった。
「お前もここで寝ろ」
小鳥に布団へと引きずり込まれた。
「えっえっ小鳥っ!?」
どういうこと!?
困惑する私の口にフランが手を当てて喋らないように促した。
「小鳥お姉様、梅酒全部飲んでくれたんです。
ちょっと酔ってるのでそっとしてあげてください。」
小鳥はそのまま私を抱えて眠ってしまった。
「小鳥お姉様が起きたらまた怒られちゃいますね」
フランは悪戯な笑顔を浮かべてそんなことを言う。
「お嬢様。今日は私を抱きしめて寝てください。
私もそれで許してあげます。」
強く抱きしめると、フランは穏やかな笑顔になった。
(それでも本当に最悪だよ……)
もう二度とお酒は飲まないと心に決めて、私は目を閉じるのであった。




