破局とこたつ
競馬で勝った翌日。
私はさっそく雛乃のお家に向かった。
目的はただひとつ、雛乃と別れること。
(ああでも、女の子を振るだなんて。)
もしかしたら雛乃が傷ついてしまうかも。
どんな言葉を選べばいいのだろう。
そんなことを考えてる間に雛乃のマンション。
オートロックのエントランス。
ピンポン押して雛乃のお部屋。
私は覚悟を決めて雛乃と向き合う。
「あ、新入り。いらっしゃい。
おこた出したの。じゃーん。
ふふー。いい感じでしょー。」
ただまあ、私の覚悟とは裏腹に雛乃はぬくぬくのんびりだ。
これから別れ話だというのに。
「えっと、雛乃。ちょっと真面目な話。」
「え、急にどうしたの……?」
「別れよう。」
「え」
私の言葉に雛乃は面食らったような表情になった。
そして次の瞬間。
「別れるってなんの話?」
そんな風にとぼけてみせた。
ふー……。
立ち上がり雛乃の背後に回る。
そして握り拳をふたつ作り、雛乃の頭を挟みこんだ。
「い、痛いわ!な、ま、やめ!」
「雛乃が付き合おうって言ったんでしょ!
忘れるなんて!この薄情者!浮気者!」
「あ、あ、そ、そうだった!
ち、違うの!咄嗟に、咄嗟に出なかっただけ!」
ぐりぐりとしたら思い出してくれたようだ。
解放すると、雛乃はぜーぜーと肩で息をした。
まさか付き合ってること自体忘れてるとは。
暴力は普段小鳥の担当業務なのに、思わず手が出てしまった。
「雛乃、見損なった。
こんなに素敵な彼女を忘れるなんて。
それが振られる原因だよ。まったくもう。」
「ほ、ほんとに悪かったと思ってるわ……。
とっておきのプリンあげるから許して……。」
雛乃が立ち上がり冷蔵庫へと。
そして私にちょっとお高めのプリンを献上した。
「許す。」
そうとだけ私が言うと、雛乃はほっとひと息ついた。
むしゃむしゃと食べてちょっとひと息。
そしてひと息ついたところで、雛乃は首をかしげた。
「でもなんで急に別れるの?
私のこと嫌いになったの?」
みかんを剥きながらそんな質問。
嫌いになるわけはない。
正直に答えるのはちょっと恥ずかしいけど……。
雛乃には言わねばなるまい。
「え、えっと実はさ。
小鳥に告ろうと思って。
その前に小鳥の誤解解きたいなー……って……。」
ぽとり。
そんな音がした。
雛乃がみかんを落とした音。
そしてその直後。
「ここここ告白するの!!?
つ、ついにね!応援してるわ!!!」
「わ、ま、待って!揺らさないで!」
おこたから飛び出した雛乃が私に組み付く。
そしてぶんぶんと肩を揺らしてきた。
目はキラッキラ。
もう嬉しくてたまらないと言った様子だ。
「わ、でもいいの!?
小鳥に告白するんだよ!?」
「良いに決まってるわ!
こういうときはお赤飯よね!
告白する日は教えてね!
お赤飯炊くから!」
混じりっけない祝福。
でもなんだかすごくバツが悪い。
雛乃も小鳥が好きなのに、抜け駆けしようとしてるみたいだ。
どうにか雛乃にも告らせたい。
そしてふたりで小鳥の彼女になりたい。
「いやでもさ。雛乃も小鳥のこと好きでしょ?」
身体を揺らされてるなか、私はどうにかそれだけ言った。
すると見事に雛乃はフリーズ。
2秒止まったあと、再起動。
「ももももったいないわ!
小鳥さんごときに私は!!」
「逆、逆。落ち着いて。」
焦りすぎてめっちゃ小鳥のことを馬鹿にしてる。
指摘すると、はっと口を塞いだ。
まあでも語るに落ちている。
「釣り合わないから告白しないの?
つまり好きではあるんだよね。
告れ。告れ。告れ。告れ。」
告れ告れ告れ告れ。
耳元で何度も囁く。
だってその方が楽しいもん。
なのに雛乃は強情だ。
耳を塞いであうあうと喘いでいる。
「雛乃も小鳥のこと好きなんだろー。
正直に認めろよこらー。」
「うー……。」
ぽすんと雛乃は机に突っ伏した。
完全にダウンだ。
ほっぺをつんつんしても反応なし。
「ねえ雛乃。」
反応のない雛乃に私は語りかける。
「きっと小鳥は雛乃のことも好きだよ。
私は先に告白するけどさ。
それで諦めたりしないでね。」
よしよしと頭をひとなで。
ついでに頭に人形を置く。
ふたつ置いたところで、雛乃はのそりと再起動した。
「……万が一。万が一よ。
小鳥さんが私なんかでいいなら……。」
一呼吸。
それだけ黙って雛乃は言葉を紡ぐ。
ようやく雛乃も小鳥への恋心を認めてくれる。
私はほっとひと息をついた。
ただ……。
「なんでもないです……。」
雛乃の口からこぼれたのはそんな言葉。
ふむ。
「まだ認めないか。ほんと!もう!」
「や、だ、だって!私なんかが!」
むにーっとまた口を引っ張るも、雛乃は結局最後まで認めてくれなかった。
まあいいもん。
小鳥は良い感じに雛乃とも付き合うように誘導するし!
雛乃の気持ちは追々だ。
まずは小鳥とのカップル成立目指して、私が頑張ろう!




