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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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帰り道とこんにちは


手を繋いだまま寝た夜。

おはようと撫で撫でで起きた朝。

まあそれ以上はなにもなく、私たちの帰り道。


「きみとであーったきーせきがー♪」

「こーのーむねにあふれてるー♪」


私を背に乗せて小鳥のバイクが走る。

ふたりで口ずさみながらの帰り道。

海沿いを走ってるときに、その光景はあった。


「きっといーま……あ、釣り人だねー。

 この辺釣れんのかなー。」

「あー。まあ海沿いだもんなー。

 こんどキャプテン連れて遊びに……ん。」


何かに気づいたのか、小鳥はバイクを停めた。

なんか見つけた?

なんにせよ走りながらでも見えるなんて、やっぱり小鳥はすごい。


「なんか見つけたー?」

「ん。友人。」


そう言うと、小鳥は釣り人に声をかけた。

釣り人が振り向く。

その顔は久しぶりに見る顔だった。


「わ、びっくりした。

 小鳥さん、こんなところで……。」


きりっとした目つきに黒髪のミディアム。

一見すると大人びた女性。

彼女の目が小鳥を捉え、次に私を捉える。

そして……。


「新入り!ってことはフランちゃん!?

 あれ……フランちゃんは……?

 居ないの……?そんな……。」


私を見て満面の笑顔。

そしてフランが居ないことに気づいてこの世すべてに絶望したような表情。

一瞬で天国から地獄にセルフで落ちてみせた。

彼女は雛乃と同じメイドカフェで働くさんさんさん。

熱狂的なフランのファンなのである。


「相変わらずだね、さんさんさん。」

「新入りも……変わりなさそうだね。元気?」

「ん。元気いっぱい。」


もりもりと力こぶのポーズ。

さんさんさんも少し首を傾げながら同じポーズを返してくれた。

お互い元気いっぱいだ。


まあでもさんさんさんがフランを探す気持ちも分かる。

そういえば私、フランと居る時にしかさんさんさんと会ったことないもの。

さんさんさんの素のキャラ、私は全然知らない。


「釣り、趣味なんだっけ?」

「んー。わりと?

 のんびりしたい時はいいよ。」

「釣れてんの?」

「今日はだめだめ。」


私が尻込みしていると、小鳥とさんさんさんで話し始めた。

至って普通の会話。

フランが絡まなければマトモなのかもしれない。


「いつもはもうちょっと釣れるんだけどね。

 今日は朝から居るけど坊主だよ。

 ふたりは釣り、好き?」


その質問には頷いて答えた。

やったのは1回だけだけどね。

アジを釣りに船に乗ったのはいい思い出のひとつだ。


さんさんさんの質問に、小鳥も頷いて応える。

するとさんさんさんは私に釣り竿を握らせた。


「どうせ釣れないと思うけどさ。

 ふたりの分の竿も持ってくるよ。

 それとも忙しい?」


忙しくはない。

なので私たちはその提案に甘えることにした。

もう一度頷くと、さんさんさんは立ち上がる。

そしてそのまま自分の車へと釣具を取りに行ってくれた。


「なんかフランと居る時と印象違うね。」

「その時だけおかしいからな。

 普段はあんな感じだよ。」


小鳥はそう驚いてないみたいだ。

私が居ないときに雛乃経由で一緒に遊ぶこともあったのかな。

むぅ。

なんかちょっと羨ましい。


「さんさんさんの素顔。全然しらな……あ。」


お話してる暇もなく、さっそくなにかに引っ掛かった。

急いでリールを巻き取る。

すると小さなアジが一匹釣れた。


「早いな。自分で取れるか?」

「ん。平気。余裕のよっちゃん。」


魚や虫は普通に触れる。

釣り針から外して、さんさんさんが用意してくれていたバケツの中へ。

まずは一匹だ。


餌を付け直してもう一投。

ぽちゃんと音がして、釣り針は水面へと落ちた。


「むー。でもいいなー。みんな……あ。」


言い終わるよりも早く、魚がヒットした。

全然会話にならないや。


「あ、でもすごい。さっきより大きい。

 小鳥小鳥。写真撮って。ぴーすぴーす。」


さっきよりも大きい魚。

なんて魚かは分からない。

でも大きいからきっとさっきよりすごい。

小鳥に頼むと、すぐに1枚ぱしゃりと撮ってくれた。


「あー。ちょっと嬉しい。それで……あ。」


また魚をバケツに入れて本題に入ろうとしたら、さんさんさんの姿が見えた。

釣り竿を2本持ってる。

目が合うと、小さく手を振った。

 

「ごめん、待たせたね。

 釣れないとは思うけど……え、釣れたの?」

戻ってきたさんさんさんはバケツの中を見てそう驚いた。

「私、魚に好かれやすいみたい。

 あ、釣り竿ありがとね。」

釣り竿を受け取って、預かっていた方を返す。

「にしても随分と用意がいいな。

 あ、ありがとな。」

小鳥もそう言って釣り竿を受け取った。

これで全員に1本ずつ。

「普段はかずきとにっきと来てるからね。

 今日はひとりの気分だったけど。」

そう言ってさんさんさんが釣り針を海に放つ。

またぽちゃんとひとつ音が鳴った。


私も小鳥も合わせて釣り針を放つ。

ふたつぽちゃんと音が鳴った。


「かずき?」「かずき?」


私と小鳥の声が被った。

さんさんさんはひとつ小さくため息をつく。


「いちごうのことだよ。

 一に姫で一姫かずきって読むの。」


あー……。

小鳥とふたり、納得したように頷く。

一がつくからいちごうか。

なるほど。


ちょっとの間。


「……もしかして私の名前も知らない?」


私と小鳥の答えは沈黙。

だってずっとさんさんさんだから……。


「私は太宰だざいようだよ。

 漢字だと太陽の陽。

 改めてよろしくね。」

「ようちゃんね。うん、よろしく。」

「さんさんでいいよ。あだ名、気に入ってるから。」

「さんさんさん?」

「さんさんでいい。」


改めてよろしくの握手。

さんさんさん、は言いにくいからこれからはさんさん。


「ところで新入りの名前は……。」

「わ、ごめん!ヒットした!あとで!

 あとで教えるね!」


ということで、私の名前も教えてお互いにちょっとだけ距離は近くなった。

私への呼び方は新入りのままにしてもらったけどね!

やっぱり本名は苦手なのです……。



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