ファンクラブの復活
「……」
朝のラジオ体操前。
めぐるちゃんを見るなり、みゆちゃんは大家さんの後ろに隠れてしまった。
「私、なにか嫌われることしちゃいましたか!?」
めぐるちゃんはその様子にすごく焦っている。
「大丈夫だよ。みゆちゃんは人見知りなだけだから。」
そう言ってみゆちゃんに手を伸ばす。
するとみゆちゃんはトテトテと走って私の後ろに隠れてしまった。
「おねえさん、だれ?」
私の後ろでそれだけ喋る。
「私は四ツ門 めぐるって言います。
あなたのお名前は?」
みゆちゃんと目線を合わせて問いかける。
「わたし、みゆ。
おねえさんのこいびと。」
その言葉を聞いて信じられないような顔で私を見る。
「……え?」
「違うから違うから。みゆちゃん、続きは?」
促すとみゆちゃんは小さい声で言う。
「……みまんともだちいじょう」
こうやって外堀を埋めていくつもりなのか?
恐ろしい子……。
「びっくりしました……
こんな小さい子まで毒牙にかけているのかと……」
めぐるちゃんがホッとした顔で胸を撫で下ろす。
「誰も毒牙になんてかけてないから!
それに私の本命はフランだから。」
そう言いながらフランを抱きかかえる。
「えへん」
フランは誇らしげに胸を張った。
かわいい。
「フランちゃん、おねえさんとおなじがいい?」
「?よく分からないですけど、はい!」
「じゃあフランちゃんも。
ともだちいじょうこいびとみまん。」
「お嬢様と同じ!嬉しいです!
ありがとうございます!」
流れでフランもみゆちゃんの中で位が上がった。
ていうか私がちゃんとしないと……。
このままだと二人纏めてみゆちゃんのお嫁さんにされてしまう。
「みゆちゃんは王子様のことが好きなの?」
めぐるちゃんがみゆちゃんに向けて問いかける。
「おうじさま?」
みゆちゃんはきょとんと首を傾げた。
「あ、ごめんね。えっとお姉さんのこと。」
そう言いなおすとみゆちゃんは首肯で答えた。
めぐるちゃんは雰囲気が優しいし、みゆちゃんもすぐに懐くかもしれない。
「じゃあ良ければファンクラブ入らない?」
急に変なことを言い始めた。
「ちょっとかんがえさせて」
みゆちゃんはその提案を保留にした。
いや、急にそれはこわいもん。
よく分からない組織だし。
「……なんでおうじさま?」
数テンポおいてみゆちゃんが聞く。
「夜にスマホ落としちゃった時に助けてくれたの。
すごく格好良かったから王子様だよ。」
ニコニコと説明する。
「フランちゃんのほうがおうじさまっぽい。
おねえさんはまもらないといけないタイプ。」
そう言ってみゆちゃんは私とフランの手を取った。
私、みゆちゃんからそんな風に思われてるんだ……。
ちょっとショック。
「二人とも、恥ずかしいからその辺にして……」
目の前でかっこいい系かかわいい系かの話なんてされたくない。
普通に恥ずかしすぎる。
「でもめぐるおねえさんとはともだちになれそう。
ファンクラブ、はいってあげる。」
そう言うとみゆちゃんはめぐるちゃんの手を握った。
「ありがとね。はい、じゃあこれ。」
めぐるちゃんが鞄からなにかを取り出す。
『王子様ファンクラブ会員No.002』
そう書かれた名札。
丁寧に作られたそれは昨日今日作られたものではない。
めぐるちゃんはマーカーでそこにみゆちゃんの名前を書き足した。
「グッズもあるから欲しかったら持ってくるね。
これからよろしくね、みゆちゃん。」
そう言ってめぐるちゃんは微笑んだ。
「……」
こわいこわいこわいこわいこわい。
なんでそんなの持ち歩いてるの??
グッズってなに??どういうこと??
もしかしてこの子、昔とそんなに変わってない??
家教えちゃって良かったの??
周りを見渡す。
貰ったみゆちゃんもきょとんとしている。
フランは私の感情を察してか、小さく手招きをした。
「お嬢様。
めぐるお姉様って少しこわい人ですか……?」
ひそひそ声でフランが聞く。
車のキー、やっぱり落とさない方が良かったのかも……。
私はそんなことを考えながら、フランには首を傾げて答えた。




