幕間 今日の王子様は様子がおかしい
それに気づいたのは、遊戯王の途中。
私が罰ゲームを提案してからすぐだった。
「ば、罰ゲームね……。うー……。」
王子様の顔は赤い。
最初は風邪かもって心配になったけど、そんなことはなさそう。
そもそも風邪なら、フランちゃんが付きっきりになると思う。
そうじゃないなら……。
(もしかして……どきどきしてくれてる?)
理由は分からない。
私は帰ってから山城さんから遊戯王カードを買い取って、王子様をお部屋に呼んだだけ。
でももしどきどきしてくれてるなら……。
(気づいてること、バレないようにしないと!)
王子様は恥ずかしがりや。
もし指摘したりなんかしたら、顔を真っ赤にして逃げちゃう。
だから気づかないふり。
気付かないふりしながら、たくさん焦らす。
そしたらえへへ。
正直にどきどきしてるって言ってくれるかな。
それにしても王子様、全然集中できてない。
遊戯王カードを見たと思ったら、ちらりと私の顔を見る。
そしてすぐに目を逸らす。
可愛い。
ふへへ。
王子様がどきどきしてくれてる……。
隠さなきゃなのに、どうしてもにやけそうになる。
それから遊戯王は私の勝ち。
王子様は吐息ひとつ零して、ベッドに腰かけた。
少し潤んだ目。
それは罰ゲームを期待してるように見えた。
(ひゃー……。据え膳、据え膳だよ……。)
気を抜くと涎が垂れそう。
でもそれは我慢我慢。
下心はない。
そう見せかけないと。
ぐっとお腹に力を込めて、平静を装う。
「王子様、失礼しますね。」
王子様の服の中に手を潜らせる。
すると、王子様は甘い息をひとつ零した。
えっちだ。
襲われたいのかな。
そう思っちゃう。
でもえっちだって言葉は使わない。
私は下心なんてないですよ。
そんな風に思わせる。
「えへへ。王子様こらえてるの可愛いですね。」
「……ん。」
そう、えっちの代わりに可愛い。
これなら私がじゃれてるだけだと思ってくれるはず。
でも顔でバレないように。
いたずらしてるときの王子様の顔をイメージ。
表情に余裕を持たせるのだ。
うまくできてるかな?
でもきっと、王子様が逃げたり隠れたりしないってことはうまくできてると思う。
こしょこしょとお腹をくすぐる。
王子様の身体から力が抜けていく。
そこで私は一度、失敗した。
我慢できなくなった。
「め、めぐるちゃん、抱きつくのは……。」
咄嗟に身体から手を離す。
危ない。
まだもっと焦らす予定だったのに。
身体が勝手に抱きついてた。
(でも突き放されたりしなかったもんね。
よし、もうちょっと焦らそう……。)
王子様がうつ伏せになっちゃったから、くすぐりは中断。
代わりに頭なでなで。
撫でてるだけなのに、王子様は時々枕に押し付けるように小さく唸る。
えへへ……。
すごく可愛い……。
よしよしなでなで。
可愛い可愛い。
たくさん褒めると、耳までどんどん赤くなる。
限界、近ければいいな。
私もそろそろ我慢できそうにない。
撫で撫でして5分くらい?
これ以上ないくらいに赤くなった耳。
どうかな。
もう一回ハグしてみてもいいかな……。
「え、えっと、やっぱり抱きしめても……?」
恥ずかしがっちゃうかな。
それともいいよって言ってくれるかな。
悪い心を隠して、王子様を見つめる。
そのすぐあとの光景に、私の心臓は大パニックになった。
こてん、そんな風に。
王子様は無言で仰向けになって、腕を伸ばした。
もう。
そんなのずるいです。
いくらなんでも耐えられないです。
誘われるがままに、王子様の身体に身を預ける。
王子様の体温を感じる。
それにそのどきどきも。
「えへへ……。」
気づけば、そんな声が漏れていた。
だって、すごく近いんだもん。
王子様を私の手が抱きしめてる。
そんな贅沢が嬉しくて、堪らえようとしても口からは喜びの声が漏れた。
でもね。
その幸せが今日の上限じゃなかったの。
「めぐるちゃん。」
王子様はそう私の名前を呼んだ。
なんだろう?
また撫で撫でしてもいいのかな。
そう思って聞き返す。
「えへへ。なんですか?」
王子様の整った綺麗なお顔。
それがまっすぐに私を見た。
でもすぐにバツが悪そうに目を逸らす。
だけど、ひとこと。
ひとことだけ零した。
「ちゅーしたい……。」
やった、なんて思う間もなく。
私の身体は動いた。
だって、だって。
(もう我慢できるわけないです……。)
王子様の唇が触れる。
最初は触れるだけ。
でも次第にその時間は長くなる。
濃く、深く。
幸せな時間。
そんな時間を、私たちは過ごしたのだった。




