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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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ベッドの上のふたり


「王子様、失礼しますね。」

「うん……んっ。」


くすぐりなんて、今まで何度もしてきたしされてきた。

だからえっちな気持ちになることなんてない。

なることなんてないのに。


「えへへ。王子様こらえてるの可愛いですね。」


いたずらな笑顔のめぐるちゃん。

私の服の中に入れた手がもぞもぞと動く。

ベッドの上。

すごくすごく近い距離。

私は今、どんな顔をしてるんだろう。


「王子様、顔真っ赤です。

 そんなに堪えなくてもいいんですよ?

 こしょこしょです。」

「ま、まって。それ、くすぐったい……。ひゃっ。」


お腹をくすぐられた。

ただくすぐられてるだけなのに、今日はほんとに駄目。

いたずらな笑みを見ると、押し倒されてキスされた日のことが鮮明に思い浮かんじゃって。

またされたいなって頭の中で声が響く。

 

(ああでも……。)


今日のめぐるちゃんは純度100%のいたずら心。

だからニコニコと私のお腹を撫で回してる。

押し倒してくれてもいいのに。

一瞬、そんなことを思ってしまった。


(いけない。まだめぐるちゃんは17だよ。

 押し倒されたら、ちゃんと大人として……。)


「ひゃ。」


思考が中断した。

めぐるちゃんがぎゅーっと抱きついてきた。

ば、罰ゲームはくすぐりだよ。

抱きつくのは反則だ。


「め、めぐるちゃん。抱きつくのは……。」

「え、えっと駄目でしょうか……。」


めぐるちゃんは驚くくらいに抵抗なく、私の身体から手を離した。

ちょっとくらい渋ってくれてもいいのに。


「あ、うー……。」

ただ私の口からそんなことは言えない。

言葉にするのをキャンセルしたせいで、変なうめき声だけが出力された。

「え、えっと、やっぱりくすぐり駄目ですか……?」

「いいよ……。バツゲームだもん……。」

ちょっとの期待を込めて、うつ伏せに寝転がる。

いや、期待込めちゃ駄目なのに。

身体が言う事聞いてくれない……。


「えっと、頭撫でても……?」

「好きにして……。」


めぐるちゃんのいい子いい子攻撃。

手つきは割れ物を触るように優しい。


いい子いい子はすごく長く感じた。

くすぐられてるわけでもなく、ただ優しく撫でられる。

それはまるで焦らされてるみたいで。

私の心はどんどん限界へと近づいいく。


「王子様、今日は大人しいですね。

 いつもはもっと私のことからかうのに。

 可愛い可愛いです。」

「うー……。」

「ふふっ。可愛い可愛いです。

 かっこいい王子様も好きですけど、可愛い王子様も好きですよ?」

「うー……。」


顔を上げられない。

ベッドに顔をうずめて、言葉にならない声を漏らすだけ。

でもしょうがないじゃん。

これでもだいぶ我慢してるのだ。


「え、えっと、やっぱり抱きしめても……?」


めぐるちゃんはおずおずとそう提案してきた。

ハグは駄目。

私の理性がこれ以上持たない。

だから断わんなきゃ……。


そう思ったのに、身体はこてんと上向きに寝転がった。

そして無言で手を上に差し出す。

めぐるちゃんは一瞬、すごく嬉しそうに目を輝かせて私を下に敷くように覆いかぶさった。

軽くて柔らかい。

私の頭はもうそれでいっぱいになった。


「えへへ……。」


私の首の横。

ぴったりとくっつくめぐるちゃんの顔はそこにある。

顔は見えないけどすごく嬉しそう。


ああでも駄目だ。

もう耐えられない。


「めぐるちゃん。」

「えへへ。なんですか?」


ころっと首の向きを変えて、目が合う。

今にもくっつきそうな近い距離。

そこで私の欲望が漏れた。


「ちゅーしたい……。」


私はそれだけ言って、いたたまれなさに目を瞑った。

めぐるちゃんはどんな顔してるのかな。

気になるけど目が開けられない。


唇にそっと柔らかな感触。

全身から力が抜けていくのを感じる。


目を瞑ったままの私。

その身体をめぐるちゃんの腕が這う。

駄目なところは触らない。

ただお腹や腕を撫でてくれてるだけ。

でもちゅーのさなかだと、それすらすごく心地いい。


「ぁ……」


唇が離れた。

優しく微笑む顔が見える。

もっとしたい。

私がそう言う前に、もう一度唇は塞がれた。


そこからの記憶は定かじゃない。

ただ柔らかくて暖かな。

そんな感覚に、私は身を委ねた。






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