ストームライダーごっこ
「こちらキャプテン202(トゥーオートゥ)。
出発の準備はおーけー?
おやつのピーナッツは持った?」
私の問いかけにみゆちゃんは頷いて答えた。
ここは今、アパートの一室ではない。
台風の研究、予知、そして破壊をするコントロールセンター。
そこから飛び立つ1隻の飛行船。
「しっかり掴まれよ。」
「うん。」
小鳥に言われて、みゆちゃんは椅子の手すりを強く握る。
椅子に座ったみゆちゃん。
椅子ごと持ち上げる小鳥とフラン。
そしてその前には準備万端のめぐるちゃん。
私は台本を持ってアナウンス役。
「それじゃ、行くよ。
ストームライダー……発進!!」
小鳥とフランが椅子を揺らし、めぐるちゃんがハンディファンで風を送る。
ストームライダーは無事に発進。
さてさて、これからどんなサプライズを起こそうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こうなった経緯。
それはさっきまでの会話に全部詰められていた。
「え、みゆちゃんストームライダー知らないの!?」
「うん。なにそれ?」
「私が一番好きだったアトラクション!」
ディズニーでどこに行きたいかを考えようの会。
その中で衝撃的な事実が発覚した。
「わたしがうまれるまえのアトラクションだね。」
スマホで調べながら、みゆちゃんはそう言った。
そう、みゆちゃんが生まれる前にストームライダーは終了していたのだ。
「私も一回しか乗れてないけどね。
でもすごく楽しかったんだ。」
「へー。それはよかったね。
でもなくなっちゃったのざんねん。」
「うん、残念。」
みゆちゃんがぽんぽんと頭を叩く。
慰められちゃった。
「うー……。でもみゆちゃんに乗ってほしかったな。
面白かったぞーって記憶を渡したい……。」
私の言葉に、めぐるちゃんが恐る恐ると手を挙げた。
「な、なら私たちでしませんか?
それなら私も乗ったことありますし……。
なんとなくの台本、私が書きますから……。」
「え、いいの!?やる!やろう!」
めぐるちゃんの提案を、手を握ることで肯定。
というわけでさっそく準備。
朝にこんな会話があって、準備をしつつ夕方。
みゆちゃんが帰ってきたところで、ストームライダー発進の準備はできた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これから台風に突っ込むよ。
揺れるからちゃんと掴まってね。」
目を瞑るみゆちゃんが頷いて応えた。
「すりー、とぅー、わん……。」
椅子を持つ2人に合図を送る。
するとガタガタガタガタと大きく揺らした。
「きゃっ。ひゃー。たいへーん。」
きゅっと目を瞑って、さらに椅子を強く握る。
ふふっ。
でも揺れるだけじゃないのだ。
「ひゃっ。つめたい。」
めぐるちゃんが霧吹きで水を、私がハンディファンで風を送る。
風、水、揺れ。
3種揃って、台風っぽさは完成。
揺れる椅子の上でみゆちゃんはきゃっきゃと笑う。
(ふふふ……。笑ってられるのも今のうちだよ。)
風も水も揺れもまだ序の口だ。
ここからどんどんギアをあげていく。
その時、みゆちゃんは今と同じように笑えるかな?
内心にやにやしながら、台本を読み上げる。
さてさて、次は……。
「想像よりも大きい台風……。
でも安心してね。この飛行機は……」
「……ひゃっ!?」
「まずい、エンジントラブルだ!」
縦に大きく揺れる椅子。
ほんのちょっとの自由落下の感覚。
ちゃんとびっくりしてくれたみたいで良かった。
本家のストームライダーだと、このあと確か台風を破壊する爆弾を発射するんだよね。
それでそれが風に流されて戻ってきて飛行機に刺さっちゃう。
あとちょっとで爆発するー!ってときに、どうにか爆弾を振り落として帰還。
本家のストームライダーには、そりゃもう私たちのは及ばないだろう。
映像があるわけではないし、派手な効果もつけられない。
だけど一個だけ。
私たちの方が勝ってることもある。
「大丈夫、当機は絶対に落ちないよ。
なぜならこのキャプテン202が……ぎゃっ。」
「キャプテン!応答してください!
なにが!なにがあったのですか!?」
私とめぐるちゃんの寸劇。
そう、キャプテン202はここで倒れるのだ。
本家ほどいいパイロットではないからね。
代わりに、ここからが私たちのストームライダーの楽しいところ。
「誰か!誰か操縦できる方はいませんか!?」
めぐるちゃんの声に、みゆちゃんの耳がぴくりと動く。
そう、ここから先は……。
「わたし、そうじゅうする。」
みゆちゃんがそう立候補した。
ここからが私たちのストームライダーの本番だ。
なんと、パイロットになって操縦できるのだ。
めぐるちゃんがこしょこしょとみゆちゃんに耳打ち。
操縦は首の傾きで。
試しにみゆちゃんが首を右に傾けると、椅子は少し斜めに偏った。
「めはあけてもいいの?」
「ううん、メインカメラ壊れてるから。
気合いで台風の中進んでね。」
「そっかー。がんばる。」
みゆちゃんが手すりを強く握る。
説明パートは完全に終わり。
それでは再開だ。
「一時の方向から飛来物!」
めぐるちゃんの声にみゆちゃんは首を左に傾けた。
1個目は無事に回避。
「あたったらどうなるの?」
みゆちゃんが首をかしげる。
椅子はその方向に少し傾いた。
「えーと……墜落しちゃうよ?」
めぐるちゃんがそう答えると、みゆちゃんはにやりと口角を上げた。
「それはうでのみせどころだ。」
目を瞑ったまま、にやにやと笑う。
ふふっ。楽しんでもらえてなによりだ。
「11時の方向!」
「よゆう」
「えっと…北北西!」
「よゆう」
「あとは……えっと……あ、当たっちゃった……とか?」
「え、ひゃっ。」
めちゃくちゃだ。
まさかの事後報告。
だけどそんなズルにもみゆちゃんはニコニコと笑ってくれた。
これで最後は爆弾を発射するだけ。
それで私たちのストームライダーはおしまいだ。
「キャプテンみゆ。前方に爆弾を発射してください。」
「らじゃ。はっしゃ。」
みゆちゃんの命令に合わせて、椅子が大きく揺れる。
ドカーン。
用意していたSEを鳴らして、みゆちゃんに霧吹きをまた一吹き。
「たいふうたおせた?」
「うん、ばっちり!」
「やったー。」
「でも墜落はします!」
「え、ひゃっ!」
みゆちゃんを乗せた椅子が大きく揺れる。
あわや墜落。
そんな時だった。
「わ」
みゆちゃんが椅子の上からふわりと抱え上げられた。
救助が間に合ったのだ。
いったい誰が助けたというのだろう。
「キャプテン202。復活しました。
私の代わりを務めてくれて感謝する。」
まあ消去法で私だ。
ふわりと抱えたみゆちゃんを地面に着陸させる。
「みっしょんこんぷりーと?」
「うん、ミッションコンプリート!」
ぱちぱちとみゆちゃんに向かって拍手。
とってもかっこいいキャプテンでした。
拍手を向けると、みゆちゃんはえへへと笑った。
「こちら、勲章です。」
フランがみゆちゃんに勲章を渡す。
フランの手作り勲章。
それを受け取ると、みゆちゃんはぴょんっと跳ねた。
「やった。うれしい。うれしいな。」
勢いのままに、みゆちゃんはフランに抱きついた。
次いで小鳥、めぐるちゃん、そして私。
「ありがとね。たのしかった。」
みんなに抱きついたあと、みゆちゃんは満面の笑みでそう言った。
喜んでもらえたならなにより。
みんなで頑張った甲斐もあったというものだ。
ただ、感謝の言葉を述べてみゆちゃんは少し固まった。
その視線の先にはめぐるちゃん。
「どうしたの?」
「めぐるちゃんものってみて。たのしいよ。」
「え、私?」
ちょっと迷う素振りのめぐるちゃん。
ふふ。
でもそれはすごくいいアイデアだ。
「フラン、椅子は大丈夫そう?」
「はい!ばっちりです!」
「小鳥は疲れてない?」
「ん。余裕だ。」
よし。じゃあ問題ない。
「ほら座って座って!
次のフライトはじめよう!」
「はじめよう」
めぐるちゃんを座らせて準備はばっちり。
私たちのストームライダーごっこはまだ続くのであった。




