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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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ストームライダーごっこ


「こちらキャプテン202(トゥーオートゥ)。

 出発の準備はおーけー?

 おやつのピーナッツは持った?」


私の問いかけにみゆちゃんは頷いて答えた。

ここは今、アパートの一室ではない。

台風の研究、予知、そして破壊をするコントロールセンター。

そこから飛び立つ1隻の飛行船。


「しっかり掴まれよ。」

「うん。」


小鳥に言われて、みゆちゃんは椅子の手すりを強く握る。

椅子に座ったみゆちゃん。

椅子ごと持ち上げる小鳥とフラン。

そしてその前には準備万端のめぐるちゃん。

私は台本を持ってアナウンス役。


「それじゃ、行くよ。

 ストームライダー……発進!!」


小鳥とフランが椅子を揺らし、めぐるちゃんがハンディファンで風を送る。

ストームライダーは無事に発進。

さてさて、これからどんなサプライズを起こそうか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


こうなった経緯。

それはさっきまでの会話に全部詰められていた。


「え、みゆちゃんストームライダー知らないの!?」

「うん。なにそれ?」

「私が一番好きだったアトラクション!」


ディズニーでどこに行きたいかを考えようの会。

その中で衝撃的な事実が発覚した。


「わたしがうまれるまえのアトラクションだね。」


スマホで調べながら、みゆちゃんはそう言った。

そう、みゆちゃんが生まれる前にストームライダーは終了していたのだ。


「私も一回しか乗れてないけどね。

 でもすごく楽しかったんだ。」

「へー。それはよかったね。

 でもなくなっちゃったのざんねん。」

「うん、残念。」


みゆちゃんがぽんぽんと頭を叩く。

慰められちゃった。


「うー……。でもみゆちゃんに乗ってほしかったな。

 面白かったぞーって記憶を渡したい……。」

私の言葉に、めぐるちゃんが恐る恐ると手を挙げた。

「な、なら私たちでしませんか?

 それなら私も乗ったことありますし……。

 なんとなくの台本、私が書きますから……。」

「え、いいの!?やる!やろう!」

めぐるちゃんの提案を、手を握ることで肯定。

というわけでさっそく準備。


朝にこんな会話があって、準備をしつつ夕方。

みゆちゃんが帰ってきたところで、ストームライダー発進の準備はできた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「これから台風に突っ込むよ。

 揺れるからちゃんと掴まってね。」


目を瞑るみゆちゃんが頷いて応えた。


「すりー、とぅー、わん……。」


椅子を持つ2人に合図を送る。

するとガタガタガタガタと大きく揺らした。


「きゃっ。ひゃー。たいへーん。」


きゅっと目を瞑って、さらに椅子を強く握る。

ふふっ。

でも揺れるだけじゃないのだ。


「ひゃっ。つめたい。」


めぐるちゃんが霧吹きで水を、私がハンディファンで風を送る。

風、水、揺れ。

3種揃って、台風っぽさは完成。

揺れる椅子の上でみゆちゃんはきゃっきゃと笑う。


(ふふふ……。笑ってられるのも今のうちだよ。)


風も水も揺れもまだ序の口だ。

ここからどんどんギアをあげていく。

その時、みゆちゃんは今と同じように笑えるかな?


内心にやにやしながら、台本を読み上げる。

さてさて、次は……。


「想像よりも大きい台風……。

 でも安心してね。この飛行機は……」

「……ひゃっ!?」

「まずい、エンジントラブルだ!」


縦に大きく揺れる椅子。

ほんのちょっとの自由落下の感覚。

ちゃんとびっくりしてくれたみたいで良かった。


本家のストームライダーだと、このあと確か台風を破壊する爆弾を発射するんだよね。

それでそれが風に流されて戻ってきて飛行機に刺さっちゃう。

あとちょっとで爆発するー!ってときに、どうにか爆弾を振り落として帰還。


本家のストームライダーには、そりゃもう私たちのは及ばないだろう。

映像があるわけではないし、派手な効果もつけられない。

だけど一個だけ。

私たちの方が勝ってることもある。


「大丈夫、当機は絶対に落ちないよ。

 なぜならこのキャプテン202が……ぎゃっ。」

「キャプテン!応答してください!

 なにが!なにがあったのですか!?」


私とめぐるちゃんの寸劇。

そう、キャプテン202はここで倒れるのだ。

本家ほどいいパイロットではないからね。


代わりに、ここからが私たちのストームライダーの楽しいところ。


「誰か!誰か操縦できる方はいませんか!?」


めぐるちゃんの声に、みゆちゃんの耳がぴくりと動く。

そう、ここから先は……。


「わたし、そうじゅうする。」


みゆちゃんがそう立候補した。

ここからが私たちのストームライダーの本番だ。

なんと、パイロットになって操縦できるのだ。


めぐるちゃんがこしょこしょとみゆちゃんに耳打ち。

操縦は首の傾きで。

試しにみゆちゃんが首を右に傾けると、椅子は少し斜めに偏った。


「めはあけてもいいの?」

「ううん、メインカメラ壊れてるから。

 気合いで台風の中進んでね。」

「そっかー。がんばる。」


みゆちゃんが手すりを強く握る。

説明パートは完全に終わり。

それでは再開だ。


「一時の方向から飛来物!」


めぐるちゃんの声にみゆちゃんは首を左に傾けた。

1個目は無事に回避。


「あたったらどうなるの?」

みゆちゃんが首をかしげる。

椅子はその方向に少し傾いた。

「えーと……墜落しちゃうよ?」

めぐるちゃんがそう答えると、みゆちゃんはにやりと口角を上げた。

「それはうでのみせどころだ。」

目を瞑ったまま、にやにやと笑う。

ふふっ。楽しんでもらえてなによりだ。


「11時の方向!」

「よゆう」

「えっと…北北西!」

「よゆう」

「あとは……えっと……あ、当たっちゃった……とか?」

「え、ひゃっ。」


めちゃくちゃだ。

まさかの事後報告。

だけどそんなズルにもみゆちゃんはニコニコと笑ってくれた。


これで最後は爆弾を発射するだけ。

それで私たちのストームライダーはおしまいだ。


「キャプテンみゆ。前方に爆弾を発射してください。」

「らじゃ。はっしゃ。」


みゆちゃんの命令に合わせて、椅子が大きく揺れる。


ドカーン。

用意していたSEを鳴らして、みゆちゃんに霧吹きをまた一吹き。


「たいふうたおせた?」

「うん、ばっちり!」

「やったー。」

「でも墜落はします!」

「え、ひゃっ!」


みゆちゃんを乗せた椅子が大きく揺れる。

あわや墜落。

そんな時だった。


「わ」


みゆちゃんが椅子の上からふわりと抱え上げられた。

救助が間に合ったのだ。

いったい誰が助けたというのだろう。


「キャプテン202。復活しました。

 私の代わりを務めてくれて感謝する。」


まあ消去法で私だ。

ふわりと抱えたみゆちゃんを地面に着陸させる。


「みっしょんこんぷりーと?」

「うん、ミッションコンプリート!」


ぱちぱちとみゆちゃんに向かって拍手。

とってもかっこいいキャプテンでした。

拍手を向けると、みゆちゃんはえへへと笑った。


「こちら、勲章です。」


フランがみゆちゃんに勲章を渡す。

フランの手作り勲章。

それを受け取ると、みゆちゃんはぴょんっと跳ねた。


「やった。うれしい。うれしいな。」


勢いのままに、みゆちゃんはフランに抱きついた。

次いで小鳥、めぐるちゃん、そして私。


「ありがとね。たのしかった。」


みんなに抱きついたあと、みゆちゃんは満面の笑みでそう言った。

喜んでもらえたならなにより。

みんなで頑張った甲斐もあったというものだ。


ただ、感謝の言葉を述べてみゆちゃんは少し固まった。

その視線の先にはめぐるちゃん。


「どうしたの?」

「めぐるちゃんものってみて。たのしいよ。」

「え、私?」


ちょっと迷う素振りのめぐるちゃん。

ふふ。

でもそれはすごくいいアイデアだ。


「フラン、椅子は大丈夫そう?」

「はい!ばっちりです!」

「小鳥は疲れてない?」

「ん。余裕だ。」


よし。じゃあ問題ない。


「ほら座って座って!

 次のフライトはじめよう!」

「はじめよう」


めぐるちゃんを座らせて準備はばっちり。

私たちのストームライダーごっこはまだ続くのであった。



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