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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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みゆちゃんのいたずらハロウィン


日曜日、朝、8時。

それは唐突に私たちの部屋にやってきた。


「とりっくおあとりーと。」


小さな魔女っ子。

おっきな帽子に紫のドレス。

それに素敵な魔法のステッキ。

ちっちゃいけども立派な魔法使い。

そんな可愛い可愛いみゆちゃんがやってきたのだ。


「みゆちゃん、すごく似合ってるね。」

「めぐるちゃんがよういしてくれたの。えへへ。」


スカートをふわりと揺らめかせ、その場で一回転。

ぴたりと止まって、私に杖の先っぽを向けた。


「おねえさん、とりっく。とりっくえらんで?」


トリックオアトリック。

お菓子をあげればいたずらされないのが常だけど、みゆちゃんはいたずらしたいらしい。

杖を私に向けて、いたずら魔法の準備は万端。

私がトリックを選ぶのをそわそわと待っている。


「ふふっ。じゃあトリック選ぶね。

 何されちゃうのかな。」


私がそう答えると、みゆちゃんの顔がぱーっと明るくなった。

そして杖をひと振り。

いったい何が起こるのだろう。


「おねえさんにはねこちゃんのまほう。」

「ねこちゃんの魔法?」


ねこちゃんの魔法?

そんなものを掛けられてしまった。

どんな魔法なんだろう。


「きょうはにゃーしかしゃべれないの。」

「にゃーだけ。」

「だけもだめ。にゃー。」

「にゃー。」


途轍もない魔法だ。

人の言葉を奪われてしまった。


「にゃにゃにゃ、にゃー。」

「かわいい。なでてあげるね。」


とんとん、とみゆちゃんは床をタッチ。

座ってくれと言われてる。

言われるがままに座ると、顎を撫でられ始めた。

中々に上手だ。

でもこれ、どうしたらいいんだろ?


「にゃー。」

「これはね、おうじょさまにちゅーしたらとけるよ?」


私の言葉から、みゆちゃんは真意を読み取ってくれた。

王女様?

いったい誰のことだろう。


「おうじょさまはめぐるちゃんなの。」

「にゃー。」

「フランちゃん、ちょっといってくるね。」

「にゃー。」


ご飯を作ってるフランに2人で手を振って隣の部屋へ。

隣の部屋ではめぐるちゃんがにやにやしながら待っていた。


「お、王子様。えっと、その……。」

魔法を解く条件を聞いてるのか、めぐるちゃんはすごくそわそわしてる。

なにはともあれ、キスで解けるなら。

「にゃー。」

「は、はい!」

目を瞑ってベッドに座るめぐるちゃん。

私はそれに鳴き声をあげながら近づく。

あとちょっと……。


「めぐるちゃん。め、あけて。」

「え、えっと、どうしたの?」

「めぐるちゃんにもまほう。えいっ。」


あとちょっとでちゅーするタイミング。

みゆちゃんがめぐるちゃんに魔法をかけた。

今度はどんな魔法だろう?


「にゃ?」

「おねえさんにいじわるしたくなるまほう。」

「そ、そんな!」

「いじわるしてー。」


めちゃくちゃな無茶振り。

めぐるちゃんがぐぬぬと唸る。

でも観念したように、ひとつため息をついた。


「ちゅーはしません……。」

「にゃー。」

「そ、そんな目をしてもだめです。」


してくれないの?

そう目で訴えてもしてくれなかった。

みゆちゃんの魔法恐るべし。


「にゃにゃ?」

「このまほうはごはんたべたらとけるよ。

 あさごはんたべよー。」


それだけ言って、みゆちゃんはとてとてと走り去っていった。

みゆちゃんはいつもお爺ちゃんと一緒の朝ごはん。


「にゃ?」

「ちゅーはあとでですね……。したかったです……。」

「んにゃ。」


めぐるちゃんにも手を振って、一度フランのもとへ。

そこには小鳥も待っていた。


「にゃ。」


おっす、と手を挙げると小鳥が撫でてくれた。

なんか優しい。


違和感を感じつつも自分の席へ。

今日のご飯はたまごサンドにかぼちゃとハムのサラダ。

それにフランの淹れてくれる美味しい珈琲。

今日のご飯もきっとすごく美味しい。

どれから食べようかな。


「……あーん。」

「え」


思わず素の声が出た。

何故か小鳥が顔を赤くしながら、私にサラダをあーんしてきてる。

どういうこと?

答えは明らかだ。


「にゃ……。」

「はい、みゆ様の魔法です!」


フランがニコニコしながら教えてくれた。

とりあえず差し出されるサラダをひと口。

うん、すごく美味しい。


「お嬢様に優しくなる魔法とのことです。

 ふふっ。ちゅーしたら治るそうですよ?」


小鳥が顔を真っ赤にした。

なんてえげつない魔法だ。

とてもかわいそう。


「にゃっ」

「……はいよ。」


それはそれとして利用できるものは利用させてもらう。

たまごサンドを指差すと、小鳥はそれもあーんしてくれた。

ふへへ、役得役得。

小鳥の魔法はしばらく解かないでおこー。


小鳥に全部あーんしてもらっての朝ごはん。

当然、普通よりも時間はかかる。

ということで食べ終わったみゆちゃんとめぐるちゃんの2人も私たちの部屋にやってきた。


「なかよしさん。」

「だね!みゆちゃんの魔法すごいね!」

「ぐぬぬ……。」


2人は私たちをのんびり観戦中。

見られるのも恥ずかしいのか、小鳥はさっきよりもさらに顔を赤くした。


「ごちそうさまでした。」

「にゃー。」

「おそまつさまでした。」


とりあえずお皿洗って、次に歯を磨いて、その後にめぐるちゃんにちゅーして呪いを解く。

完璧なプランだ。

小鳥のはまだいいや。


「王子様、王子様。」

「にゃ?」


立ち上がると、めぐるちゃんが服の裾を引っ張った。

潤んだ目。

まだ歯、磨いてないけど……。


(そんな目で見るのはずるい……。)


ちょっとひと呼吸。

それにワンアクション。


「もう、めぐるは我慢できないね。」

「えへへ……だって……。」


でもこれでみゆちゃんの魔法は解けたのだ。

好きなように喋れる。


「小鳥も……魔法解いてあげよっか?」


小鳥は逃げ出した。

逃げることないじゃん!

私だって恥ずかしいのに!


とはいえ、みゆちゃんの魔法はこれでおしまい。

小鳥の魔法は……まぁ今日のどっかで解く方法考えよう。


「ちなみにちゅー以外で解ける?」

「とけない」


無慈悲なみゆちゃん。

さあ、どう解こうかな。




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