ふたりの吸血鬼女王
ちょっと引っ越しの影響でバタバタしてます…。
誠に申し訳ありませんが、ハロウィンの辺りのお話終わったら更新頻度3日に1回にする予定です…。
店長さんはそれはもう美人な人だ。
背は小鳥よりもちょびっと高く、目つきもキリッとしてる出来る大人の理想像。
そんな人がさ。
私と同じ仮装してるんだぜ。
そりゃもうびびるよ。
『……というわけで、今日はみんな楽しんでね。
執事さんもメイドさんも仲良くね。』
店長さんの開会の挨拶も終わり、マイクを手放した。
ひゃー。
めっちゃ心臓に悪い。
どうしよ、この金髪のウィッグだけでも外そうかな。
ああでも、うーん。
せっかくフランがコーディネートしてくれたんだし……。
どうしよ……。
「お嬢様と店長さん、とっても似てますね!
かっこいいです!」
迷っていると、フランが楽しそうにドレスの裾を引っ張った。
でもそうだね。
やっぱりこの格好はこのままにしよう。
ちょっと目立っちゃうかもだけど、私もこの格好好きだし……。
「ねぇ新入りちゃん!」
「ひゃいっ!!?」
胸を張ったところで、渦中の人物。
店長さんに声をかけられた。
店長さんはそりゃもう人気者だ。
メイドカフェの子たちからも、執事喫茶の子たちからもとても慕われている。
そんな人が元気よく声を掛けてきたのだから、すごく注目されてしまった。
ああでもこんな時こそ胸を張らねば。
吸血鬼らしさを教えてくれた山城さんに笑われてしまう。
「店長さん、今日は招待ありがとうございます。」
まずは呼んでくれたことへの感謝。
今の私はメイドでも執事でもない。
だけどフランも合わせて招待してくれたのは、感謝してもしきれない。
だけど私のお礼を聞いて、店長さんはちょっとむっとした顔になった。
「店長ちゃんじゃなくなってるわね……。」
「あ、そうでしたね。
店長ちゃん、今日はありがとうございます。」
「ふふっ。こちらこそ来てくれてありがとね。」
一転してにこやかな表情。
仕事中はキリッとしてて、オフのときは緩やか。
そんなところも店長ちゃんの魅力だ。
ただちょっと気になるのは……。
(なんかめっちゃ見られてる気がする……。)
目線が私からブレない。
横にはフランも小鳥も雛乃もこのみちゃんもいるのに。
ずっと私のこと見てる。
「え、えっと。服、被っちゃいましたね。」
「ええ、そうね。ふふっ。」
ふふって。
服が被ったことに怒ってるわけでも不満があるわけでもなさそう。
ただ私をじっと見てる。
「二人ともすごく似合ってますね。
センスが似てるんですかね。」
小鳥が助け舟を出してくれた。
「う、うん!やっぱり格好いい仮装って吸血鬼よね。
あまりに似てたからびっくりしちゃった!」
そう答えながらも、目線は私のまま。
やっぱりすごく見られてる。
「それで、その……。
えっと、その格好ってモデルとかあるのかしら?」
「えっと、近所の住んでる美人なお姉さんを……。」
「ふ、ふーん。」
一瞬だけ、店長さんの目がきらっと光った気がする。
でも次の瞬間にはケロッとした顔になった。
もう目線も私から外れてる。
「お二人の写真撮ってもいいですか?」
なにも気にしてないようにキラキラと目を輝かせるフランに言われて、店長さんと横に並ぶ。
はい、チーズの声に合わせてがおーっと吸血鬼っぽい?ポーズ。
あとは左目に手を当ててすごくかっこいいポーズ。
店長さんも同じポーズをしてくれた。
「新入りちゃん、かっこいいポーズ知ってるのね。」
「えへへ……。そ、そうでしょうか。」
ふふふ。
褒められちゃった。
かっこいいポーズは色々考えてて、みんながそれを褒めてくれる。
かっこいいポーズ職人の仕事があったら、きっと私は天職だろう。
ぱしゃぱしゃと何枚か撮って、ひとまず満足。
ついでに吸血鬼である私たちと撮りたいという子たちとも何枚か撮った。
ちょっと照れるけど、注目されるのは悪くない。
「それじゃあまたね。パーティー楽しんで。」
写真を撮り終えると、店長さんはそう微笑んだ。
やっぱり器の広い人だ。
服装丸被りになったけど、そこについては本当に気にしてなさそう。
私も安心してこのかっこいいドレスのままハロウィンを楽しめる。
と、ひと息ついた時。
そろそろなにか食べ物食べようかな、なんて思った時だった。
「山城メアリ。」
店長さんはひとことそう呟いた。
「メアリお姉様のことご存知なんですか??」
「やっぱり。メアリの真似だったのね。
私たちは友達よ。そう、近くに居たのね……。」
私たちの反応を見て、店長さんは笑う。
くくく、と堪えるように。
まるで漫画の中の悪い吸血鬼みたいに。
「じゃあ今度こそまたね!楽しんでね!」
店長さんは最後にそう言い残して、弾む足取りで他の子のところへと去っていった。
「まさか店長さんと山城さんが友達だとはね!」
「はい!世間は狭いですね!」
一緒に撮ってもらった写真。
どれもとっても綺麗。
やっぱり金髪に赤目はかっこいい。
それに高身長がつくんだから、山城さんはすごいよなー。
「ねぇ!」
そしてまた店長さんが戻ってきた。
せ、せわしない。
「こ、今度新入りちゃんのお家に遊びに行っていい?」
「え、は、はい!いいですよ!」
「ありがとね!」
今度こそほんとに最後……だよね?
店長さん、だいぶ様子おかしくなってたなー……。
いくらなんでも喜怒哀楽が激しすぎる。
(ちょっと様子が変だったしなー……。)
「ねえ、小鳥。一応山城さんに連絡しとく……?」
「え、なんで?別にいいだろ?」
小鳥はきょとんとそう言った。
駄目だ。
小鳥は店長ちゃんのことすごく尊敬してるから、頼りにならない。
「雛乃は……?」
「店長ちゃんのお友達でしょ?いいんじゃない?」
雛乃も駄目だ。
同じく店長ちゃんのこと信頼しすぎてる。
「フラン。」
「お友達の再会、すごく素敵ですね!」
フランもそうすごく楽しそうに言った。
フランは身内にだだ甘い。
そしてフラン的には店長ちゃんはとっくに身内だ。
警戒という概念がないらしい。
(でもうーん……。)
まあいいのかな?
私の独断で邪魔するのは悪いし……。
まあ店長さんいい人だし?
そう変なことにはならないよね、多分。
というわけで私も店長さんの言うことを聞くことにした。
パーティーに招待してもらった恩もあるしね。
このあとはビンゴ大会。
今のことは一旦忘れて、楽しむことに集中しよう。




