メイドと執事のハロウィンパーティー
今日は10月最後の土曜日。
メイド喫茶を貸し切ってのハロウィンパーティーの開催日。
「お嬢様がた、準備はいいですか?」
フランが車のドアを開け、私と小鳥にそう問いかける。
私と同じ黒いドレスに鋭い牙。
今日のフランは私の眷属。
ただひとつ私と違うのはその青い髪。
そう、フランは腕輪を外してる。
ハロウィンだからね!
腕輪なんてつけなくても、今日は誰も気にしない。
私が頷くと、ぱーっと明るい笑顔で手を引っ張った。
引かれるがままについていく。
車から降りるとすぐに会場である執事喫茶。
扉をくぐるとそこは……。
「わ、すごい!」
「すごい!すごいです!」
「うわ!すごいな!」
私とフラン、それに小鳥の声が重なった。
扉の中はまさに魑魅魍魎の宴。
ゾンビ、猫又、フランケンシュタインにドラキュラ。
鬼太郎だっている。
和洋問わずの妖怪?の群れ。
見てるだけで華やか。
元々メイドさんと執事として働いている、変身願望のある人たち。
手を抜いているものは一人も居ない。
みんながっちがちに仮装していた。
すごいのは仮装だけじゃない。
机の上にはところ狭しと軽食とお菓子。
立食パーティーってこういうののことを言うのかな。
会場を眺めるだけでワクワクしてしまう。
「あ、ドラキュラじゃん!かっこいいね!」
「えへへ……じゃなくて、そう……かな。
君のメイドさんもかわいいね。」
「でしょー!ありがと!」
さっそく見知らぬメイドさんに話しかけられた。
今日メイドの服を着てるってことは普段は執事さんの子かな。
「小鳥さんも超似合うじゃん!」
「ふふっ。ありがとな。メイドも似合うじゃん。」
「へへへ……。ありがと!」
さっそく答え合わせ。
小鳥と知り合いってことは執事喫茶の子で間違いない。
にしても懐かれている。
小鳥が執事喫茶でもうまくやれてるようで嬉しくなる。
「……なににやにやしてんだよ。」
小鳥が訝しげな目で見てきた。
おっと、危ない。
「……なんでもないよ。」
山城さんモードに切り替えて誤魔化す。
今の私は吸血鬼だから。
小鳥に対する慈愛などはないのです。
小鳥の知り合いの子は、ちょっとだけ小鳥と話してツーショットを撮ると足早に他の子のところへと駆けていった。
そういえば今日は雛乃やこのみちゃんも来てるんだよね。
どこにいるのかな。
そう思って周りを見渡したとき、こちらに向かって駆け寄る人影が見えた。
「新入りーー!!おひさー!!」
「わ!!いちごうさん!!久しぶり!!」
チャイナ服を着て頭にお札。
いちごうさんはキョンシー姿だ。
勢いのままに飛び込んできた彼女を受け止める。
そしてよろめいた私をフランがそっと支えてくれた。
「いちごうお姉様……もうっ!危ないです!」
ぷんぷんと怒るフラン。
でもいちごうさんはどこ吹く風。
フランの顔をふにふにとして遊びだした。
「えへへ。フランちゃんもお久しぶり!
今日もすごーく可愛いね!」
「もうっ。わたしはまじめなのにっ。」
そうは言いながらも、フランは満更でもなさそう。
ぷくっと膨らんだ頬はすぐにしぼみ、次第にニコニコとした笑顔に戻った。
「いちごうおねえさま、キョンシーかわいいですね。」
「でしょー!フランちゃんはドラキュラ?
新入りと一緒だね!」
「ふふー。実はそうなのです。お揃いなのです。」
フランは後ろから抱きかかえられて、とても幸せそう。
ゾンビに愛でられるヴァンパイア。
中々に不思議だけど、癒される光景だ。
(あ、ていうかいちごうさんが居るなら……。)
「うん。わたしもいるよ〜。」
「やっぱり!ニッキさんも久しぶり!」
同じくキョンシーのニッキさん。
ぴょんっぴょんっと跳ねて私たちの元へとやってきた。
ニッキさんも来たし、あとはサンサンさんかな。
ただ周りにそれらしい影はない。
まだ来てないのかな。
「あ、さんちゃんなら今日は居ないよ……。」
いちごうさんが私の疑問に答えてくれた。
でも新しい疑問。
なんで来てないの?
「フランちゃんのコスプレ楽しみにしすぎてね……。
眠れなくて風邪引いちゃったの。」
遠い目のにっきさん。
そっかー。
「だからフランちゃん、撮らせてもらっていい〜?」
「お願い!」
「もちろんです!どうぞ!」
ぱしゃぱしゃと色んな角度から。
フランはどの角度から見ても可愛いのだ。
ああ、青い髪のフランも可愛い。
可愛い可愛い。
きっとサンサンさんも喜んでくれるだろう。
「わ、可愛い子。写真撮っていいの?」
「はい!もちろんです!」
いつの間にか他の子たちもフランの周りに集まってきた。
そういえばメイド喫茶で働いてる時もこんな光景を見たっけな。
「新入り。」「先輩!」
ぼんやりしてると見知った声。
今度は雛乃とこのみちゃんが近くまで来ていた。
雛乃は血色の悪いゾンビメイド。
白い肌に血の赤が映えてて、これはこれですごく可愛い。
このみちゃんは首輪をつけた狼男だ。
いつもよりもちょっと無造作な髪に狼のつけ耳。
きっと鈴が仕立て上げたんだろう。
ボーイッシュなこのみちゃんによく似合う。
「……?」
なんか二人とも私のことをじろじろ見てる。
「ドレス、変なとこあった?」
「ううん、そうじゃないわ。でもちょっとね。」
「う、うん!すごく似合ってますよ!」
なんだかちょっと歯切れがわるい。
ていうかいつもの雛乃なら、私よりも小鳥の方にメロメロになるはずだ。
まず私の方を見るなんて、ちょっと違和感。
「ま、まぁ被ることもあるよね。」
「うん……。でもここまで被るのすごいよね。」
二人がぼそぼそとなにかを喋る。
あんまりよく聞こえなかったけど、『被る』って単語は聞こえた。
なにが被るというんだろう。
その答えは、すぐに分かった。
『あー。あー。えっと。こほん。』
マイクの音。
『みんなちょっとだけこっち向いて!
今日は集まってくれてありがとね!』
見るとそこには今日の主催者。
肩まで届く金髪、赤目、鋭い牙。
それにドレスの吸血鬼。
(わ、わ、まじか。)
そう、店長さんと完全に仮装が被っていた。
金髪に赤い目、黒いドレス。
細部まで完全に一致。
そんな偶然ある?
(あ)
店長さんと目が合った。
彼女は少しだけ目を見開いて、気にしなかったように目を逸らした。




