ハロウィンパーティーまであと少し
合同ハロウィンパーティーの前日。
今日は仮装の前撮り、ということでウィッグからカラコンまで全部装備してみることになった。
綺麗な黒のドレス、それに金髪のウィッグに赤目のカラコン。
いつもと違う私の出来上がり。
「というわけでどうでしょうか!!」
「……うん、すごく格好いいと思う。
金髪も似合うね。」
「へへ!ありがとうございます!」
さっそく山城さんに自慢しにきた。
そしてほめてもらえた。
すごく嬉しい!
今日の格好は山城さんリスペクト。
髪も目も山城さんと同じ色。
髪の長さだって同じくらい。
肩を優に超える綺麗なロング。
180センチもある山城さんと比べるとちっちゃいけど、妹に見紛うくらいにはコピーできた。
ふへへ……。
「……どうかな?似てる?」
話し方も合わせてみる。
ちょっとのんびり、それでいて少し妖艶に。
「……わ、すごいね。私の真似?上手。」
「……ふふ。嬉しいな。」
山城さんからもお墨付きをもらえた。
これで私の仮装は完全に完璧だ。
フランのドレスアップに私の演技力。
2つ組み合わせれば無敵……!
「……ちょっと待っててね。えっと…確か……。」
山城さんはそう言ってクローゼットへと。
そしてなにかを取り出した。
「……じゃーん。私の余所行きドレス。
一緒に写真撮らない?」
ドレスカバーからちらりと見える赤色のキラキラとしたドレス。
そ、そんなの一緒に撮りたいに決まってる……!
「こ、小鳥呼んできます!」
「……うん、じゃあ着替えて待ってるね。」
フランは自分の仮装をするためにお着替え中。
仮装の内容は秘密にしたいと言ってたから、私の部屋はいま立ち入り禁止。
というわけで小鳥をカメラマンにする!
ドレス姿の山城さんと一緒に写真を撮れるなんて……!
思わぬ収穫だ!
ということで小鳥召喚。
まだ仮装してない小鳥はいつものTシャツ姿。
お着替えが終わったら中に入れてくれるとのことなので、2人で部屋の前で待機。
「へへー。綺麗に撮ってね!」
「……ああ、そうだな。」
小鳥はスマホを弄りながらそう言った。
山城さんのドレス姿が見えるというのに、なぜそんなにテンションが低いんだろう?
上げようぜ!テンション!
「ねぇねぇことりー。
ことことことりー。山城さんのドレス見れんだよー。
テンション上げなよー。へいへーい。」
「……ああ、うん、そうだな。」
つれない。
全然乗ってくれない……。
「ねぇどうしたの?お腹痛いの?」
「いや、そういうわけでもないけどさ。」
やっぱりつれない返事だ。
全然目を合わせてくれない。
目線の方向に回り込んでみる。
するとぷいっと目を背けられた。
むむむ。
(あ、もしかして……)
「緊張してる?」
「は?」
食い気味のは?をもらった。
私の予感は当たったみたいだ。
だってなんかすごくそわそわしてるもん。
緊張を隠そうとしてるのが丸わかりだ。
「別に緊張なんて……。
そ、そうだ。フランの仮装、楽しみだな。」
小鳥はそう言って誤魔化そうとした。
フランの仮装はそりゃ、ジャンプしたくなるほど楽しみだよ。
でもそれは待ってたらすぐに見れるもの。
今は小鳥をからかう方が優先だ。
誤魔化されたりするもんか。
「フランの仮装は楽しみだけどさ。
ねぇ。なんでそんなに緊張してんのー?
教えてよー?ほれほれー。」
手を取って、もう一方の手で脇腹をつつく。
ちょっとくすぐったそう。
でも小鳥は無言を貫いた。
こいつ、中々に強情。
つんつんつんつん。
たくさんつつく。
しつこいくらいにつつく。
するとしびれを切らしたのか、ようやく小鳥は口を開いた。
「ああもうっ。分かったよ!
ドレス似合ってる!これで満足か!?」
私の方を向いてそうひとこと。
そっかそっか、私のドレス似合って……。
「な、なんだよ!?正直に言ったぞ!」
顔を真っ赤にした小鳥に怒られた。
いや、でも、その……。
「てっきり仮装するのに緊張してんのかなって……。
小鳥、そういうの苦手だし……。」
「……え。」
私も小鳥も黙り込んだ。
そっか、私のドレス見て緊張してたのか……。
えへへ……。
「そんなに似合う……?照れちゃうな……。」
「……。」
「あ、もう黙らないでよ。恥ずいじゃん……。」
小鳥は頭に手を当ててやっちまったという顔。
完全に顔が真っ赤。
まぁ急に褒められた私も人のこと言えないが……。
「……ねぇ」
「はいっ!?」
「ひゃっ!?」
急にドアが開き、山城さんが顔を出した。
驚いて体勢を崩しかけた私を小鳥が抱きとめる。
私はまた声を失ってしまった。
「……ぁっとえっと……」
「わ、悪い……。大丈夫か?」
「うん……。」
小鳥が私の身体から手を離す。
深呼吸。
したところでどきどきは止まらないけど……。
「……えっと。ごめんね。お邪魔して。」
山城さんはドアから顔だけ出してそう言った。
「え、えっと……。こちらこそです……。
き、着替えは終わりましたか?」
首を横に振られた。
よく見るとさっき着てたスウェットのまま。
全然着替えてない。
「……着替えよーとは思ったの。
でも2人がいちゃつくから……。」
「い、いちゃついてなんて!」
食い気味に否定。
でも山城さんは微笑ましげに笑うばかり。
「えっとごちそうさま。
それと……ごめんね。やっぱり着替え手伝って?
後ろのファスナー届かないの。」
ぐーっと腕を後ろに伸ばす山城さん。
身体は固いようで、手は後ろに回りきっていない。
小鳥と目を合わせる。
すると小鳥は一度だけ頷いた。
「じゃああたしが手伝いますよ。」
「……ごめん、ありがとね。」
そして小鳥は山城さんのお部屋へと入っていった。
ひとり取り残された私。
さて。
「ぅぁー……。」
いやさ、悶えるしかないよ。
だって、だってさ。
ドレス似合ってるって。
それからたくさん一人で悶えて。
山城さんの着替えが終わっても、私の顔は赤いまま。
一緒に撮った写真にはまだ顔が少し赤い私が写った。
吸血鬼の格好。
かっこいい写真を撮るつもりだったのに。
もう!全部小鳥のせいだ!
急に褒めるから!
だけどこの写真は大事にしよう。
綺麗な赤いドレスの山城さん。
それに小鳥に褒めてもらえた黒いドレスの私。
見返すたびにきっと今日のことを思い出す。
ハロウィンパーティーはまだなのに、思い出がひとつ増えてしまった。




