せっかくなので小鳥もナース
フランとめぐるちゃんとお医者さんごっこをした翌日。
その日の夜は小鳥も普通に夜ご飯をうちで食べた。
そう、逃げなかったのだ。
そうなるとなにが起きるかは自明の理。
小鳥にもナース服を着てもらうことにした。
作戦は簡単。
小鳥がお風呂に入ります。
着替えをすり替えます。
ナースの完成です。
というわけで始まり始まりー。
「おい、これはなんだよ……?」
ナース服に身を包んだ小鳥はそう声に怒りをはらませた。
今日のはちゃんとしたナース服。
露出は少ないし、かっこよさ重視だ。
これもめぐるちゃんが買ってきてた。
「いやさ、絶対に似合うと思ったからすり替えた。」
「小鳥ちゃん、すごく似合ってるよ!」
「うん、おにあい。」
「お似合いです!かっこいいです!」
『え、ええ。あの、すごく似合ってますよ……?』
私、めぐるちゃん、みゆちゃん、フラン。
それにビデオ通話の雛乃。
口々にみんなで褒めると、小鳥は怒りと照れで複雑な表情。
「……っ。」
「かわいいよ?」
「ああもうっ!でもこういうのもうやめろよ!」
みゆちゃんの言葉がとどめ。
照れながらもナース服のまま椅子に腰掛けた。
(でも脚組むのはだめじゃない……?
無駄にセクシーになってる……。)
小鳥はなんともない顔をしてるけど、長いスカートから生足が覗いてる。
すらりとした長くて綺麗な足。
なんか気まずい……。
『小鳥さんもハロウィン来るんですよね。
もう格好は決めたんですか?』
「あー……。実はまだなんだよな。
今週末なのに、ピンとこなくて。」
「ことりちゃん、そのかっこにあってるよ。
パーティーもそれでいいとおもうな。」
「ふふっ。ハロウィンにナースはおかしくないか?」
雛乃はスマホ越しの視界だから、セクシーな足元には気づいてない。
それにみゆちゃんも幼いからまだそのセクシーさを感じない。
フランもニコニコ。
ただ私とめぐるちゃんだけ気まずく小鳥から目を逸らす。
「ねぇめぐるちゃん。」
「え、えっと……はい。ですよね……。」
幸いにもめぐるちゃんは私の隣。
こそこそ話をするには適した距離。
「……小鳥にセクシーだよって伝えて。
めぐるちゃんが用意した服でしょ?」
私がそう言うと、めぐるちゃんは小さく首を振った。
「でもちょっとこう……伝えるの恥ずかしいです……。」
「いやそれは分かるけど……。」
小鳥が身動ぎするたびに脚に目が吸い込まれる。
今の状況は精神衛生上、あまりよろしくない。
「なぁお前らはどう思う?」
「へ?」
ゴニョゴニョと話していたら、小鳥にそう聞かれた。
えっと、今そっちは何の話してたっけ?
「いやさ、あたしの服だよ。」
「え、えっと……良いと思うよ?」
「いや、良いとかじゃなくてさ。」
咄嗟に適当に答えたが、求められてた答えとは違ったようだ。
小鳥はちょっと訝しげな目で私を見た。
「め、めぐるちゃんが言いたいことあるって!」
「え!?」
めぐるちゃんにパス。
ごめんね。
でもナース服用意したのはめぐるちゃんだからね。
「え、えっと……。
小鳥ちゃんスタイル良いから……。
ナースさん良いと思うよ?」
めぐるちゃんは少し迷ってそう答えた。
その回答は正解だったらしい。
小鳥はちょっと恥ずかしそうに……それでも少し嬉しそうに顔を赤くした。
(……ごめん、ありがと、助かった。)
(いえいえです……。ふぅ……。)
ぼそっとめぐるちゃんと内緒の会話。
危ない危ない。
小鳥、セクシーだなーって思考に夢中になりすぎてた。
小鳥はかっこいいって褒め言葉は好き。
でもセクシーは……。
多分すごく恥ずかしがる。
なんなら絶対に怒る。
この褒め言葉は私とめぐるちゃんの中で大事にしまって置かないといけない。
「まあでも良かったよ。なんか2人で話してるからさ。
そんなに似合ってねぇのかなって。」
「いやいや、そんなことないよ。
かっこよくて良いと思う。」
「うん、足がスラーっとしててセ……。」
めぐるちゃんがそう言いかけて、口元を押さえた。
セクシーだって言おうとしたのだろう。
でもぎりぎりで踏みとどまった。
ただ踏みとどまるには遅かったのも確かだった。
「せ?」
小鳥はそう首を傾げた。
たったのいち文字。
それを聞き逃してはいなかった。
「あ、あぅ」
めぐるちゃんは言い訳が浮かばないのかあたふたしてる。
さっき助けてくれたお返しになにか助け舟を出したい。
だけどなにも浮かばない。
もうごめんだけどめぐるちゃんのことは諦めよう。
そう思った時だった。
『背筋、よね。ピンと伸びててかっこいいもの。
ふふっ。新入りも見習ったら?』
それは雛乃の声。
「せ」から始まる褒め言葉。
そんな助け舟を出してくれた。
「そ、そう!背筋!背筋が良いと思うな!」
「そ、そうだね!私も見習わないとなー!」
めぐるちゃんも私も全力でその言葉に乗っかった。
危ない。すごく危ない。
でも雛乃のおかげでなんとかなった。
やはり持つべきものはNo.1メイドの彼女だ。
すごく気が利く。
小鳥もその雛乃の言葉に納得してくれた。
良かった。
これで私たちが小鳥を良からぬ目で見たことはバレずに済んだ……。
「あとはすごくセクシーですね!
先ほどからお嬢様たちがそう褒めてました!」
……。
声の方を向くと、フランはニコニコと私とめぐるちゃんを見ていた。
小鳥をセクシーだと言っていたお嬢様たち。
それは紛れもなく私たちだった。
ふぅ……。
「じゃあ今日は解散!ばいばい!」
「え、えっと……はい!また明日です!」
私たちは駆け出した。
きっと今ごろ小鳥は恥ずかしさで顔を赤くしている。
それが怒りに変わるよりも早く逃げるために。
山城さんの家に匿ってもらおう。
部屋の扉を開けて、玄関へ。
そして私たちは玄関を飛び出してすぐに小鳥に捕まった。
「……釈明は?」
「小鳥がセクシーなのが悪い。」
「てめえが着せたんだろうが。」
という訳でとても怒られた。
いやはや。
いいじゃん、セクシーでも。
それも小鳥の魅力なんだからさー。
なんて言えるわけもなく。
結局、小鳥は仮装に吸血鬼の男装を選んだ。
まあそれはそれで吸血鬼コンビだ。
パーティー、すごく楽しみだ。




