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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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ハロウィンの予行練習


「ただいま戻りましたー!」

「ただいまです!」


夕方ごろ。

ほくほくとした顔で大荷物を抱えたフランとめぐるちゃんが帰ってきた。

2人の今日のお買い物は、ハロウィンパーティーの衣装探し。

つまり、これから私は着せ替え人形にされるのだ。

もうこれは避けようがない。


「あれ?小鳥ちゃんはいないんですか?」

「うん、今日はキャプテンさんとラーメン行くって。」


というか逃げられた。

今日の夜はめぐるちゃんが楽しいこと用意してくれるってー。

だから小鳥もさー。

一緒にここでのんびり待とうよー。

ねー。

そんな話をしただけなのに。

あやつめ。

私を置いて逃げるなんて薄情だ。


「じゃあ小鳥ちゃんは明日ですね。」

「はい!小鳥お姉様は明日ですね!」


まあ逃げたところで帰ってくるのはここだ。

先に延ばしたところで、着せ替え人形になる運命は変わらない。


「ではお嬢様、お着替えの時間です。」

「はい!お着替えの時間です!」


今日のフランとめぐるちゃんは息ぴったりだ。

きらっきらの目で私を見つめる。

私は渋々と頷いて答えた。


頷いた途端に、フランが私を隣の部屋へと引っ張った。

さてさて。

最初は何を着せられるかな。


「えへへ……。まずはこれです!」

「かっ、」


言葉に詰まった。

いやさ。だってさ。


「かっこいいーー!!なにこれ!やばい!

 着たい着たい着たい!ひゃーっ!!」


超かっこよかったんだもん。

少しボロい黒のロングコート。

ちょっと草臥れてるのがすごくいい。

古びた洋館に住む吸血鬼が着てそう。

かっこいい……。

好き……。


「えへへ……。気に入ってもらえて嬉しいです。

 さぁ万歳してください!

 中のシャツからお着替えさせて差し上げます!」


言われるがままに万歳。

元々着てたTシャツを脱がして、代わりに白のシャツ。

それにくすんだ赤のベストに、黒のロングコート。

下も黒のズボン。

シンプルにして至高の吸血鬼スタイル。

超嬉しい……。


「めぐるお姉様、できました!」


フランが扉を開けてお披露目。

めぐるちゃんは楽しそうにパチパチと拍手を送ってくれた。


「えへへ……じゃなくて。

 どう?かっこいい?」

「はい、すごく格好いいです!」

「えへへ……。」


シャッター音に合わせて吸血鬼っぽいポーズ。

こんな撮影会なら大歓迎。

後で写真を見せてもらうのも楽しみだ。


何枚か写真を撮ったところで、フランが扉を閉めた。

次の衣装へのお着替えタイムだ。

さてさて、次はどんなかな。

楽しみだな。


次に手渡されたのは……。


「わ、綺麗なドレス。」

「はい、こちらは女吸血鬼イメージです。

 ささっ。コートお預かりしますね。」


またフランが私の服を脱がす。

コートを脱いで、今度は黒と赤を基調としたドレス。

これいったいいくらしたんだろう……。

フランのお金の遣い方に口を出すつもりはないけど、ちょっと気になる……。


「お嬢様、あーんしてください。」


ドレスの着付けが終わると、フランはそう指示した。

言われるがままに口を開けると、歯になにかつけられた。


「おー!かっこいいね!」

「ふふっ。よくお似合いですよ。お嬢……。

 いえ、今は吸血鬼の女王様ですね!」


鏡を見ると、立派な牙が生えた吸血鬼。

ちょっとだけ胸元がスースーするけど、かっこよくていい感じだ。

めぐるちゃんも今回はえっちなの着させたい欲を抑えてくれたらしい。

これくらいなら許容範囲だ。


(あ、いいこと思いついた。)


めぐるちゃんが喜びそうなこと思いついた。

前に山城さんにやられかけたアレ。

せっかく今日は山城さんから吸血鬼を学んだんだし、実践してみるのも悪くない。


お披露目の時間。

フランが扉を開けてくれた。


「わ!王子様!すごく!すごく綺麗です!」


めぐるちゃんはさっきと同じように楽しそうにカメラを構えた。

ふふふ。

そんな顔をしてられるのも今だけだ。


「あれ、王子様?え、えっと、その……。

 ち、近くないですか……?」

「……そんなことないよ。」


山城さんみたいに喋りながら、ゆっくりとめぐるちゃんに近づく。

私が近づくと、めぐるちゃんは一歩後ろに後ずさった。

私はそれを逃さないように、ちょっとずつ壁へと追い詰める。


「……ぁ」


ついにめぐるちゃんを壁際に追い詰めた。

ふっふっふ。

これでもう逃げられない。


「……ねぇ、ちょっとだけいいよね。」

「ひゃっ」


めぐるちゃんの首を甘噛み。

今、私、すごく吸血鬼っぽい。


「お嬢様、めぐるお姉様が目を回してます。」

「……あら、ごめんあそばせ。」


完全に脱力したのを確認して解放。

ふぅ、楽しかった。

山城さんモード解除。


「どう?吸血鬼っぽかった?」

「ぁぅ……。」


壁に寄りかかって動けなくなっためぐるちゃんは、まるで生気を吸われたかのよう。

よしよしと撫でると、そのままこてんと倒れ込んだ。


「うぅ……。王子様……それはずるい……。」

「ほらほら、吸血鬼っぽかったって認めて。」

「うん……。」


やった。

めぐるちゃんからお墨付きをもらえた。

これでハロウィンパーティーは完璧な吸血鬼として出席できる。

山城さんのところでの修行は無駄じゃなかった。


「ではお嬢様、当日はどちらになさいますか?」


フランが黒のコートを手に私に尋ねた。

ハロウィンパーティーに着ていく服装、吸血鬼の王にするか女王にするか。

いつもの私ならかっこよさ重視の黒コートを選ぶだろう。

でも今回はドレス。

こっちの方が山城さんっぽいし!


「かしこまりました。

 めぐるお姉様もドレス推しでしたからね。

 きっと喜んでくれるはずです。」


隅に転がるめぐるちゃんを見て、フランがそう締めた。

でもこんなに素敵なドレス着れるだなんて…。


「あ、そうでした。

 髪はどうなさいますか?

 特に決めてなければ、私にお任せください!」


フランが胸を叩く。

任せるのもいいけど、今回はひとつリクエスト。


「えっとね。金髪のウィッグつけたいかも。

 あと赤目のカラコンも……。」

「かしこまりました!

 ではそれで考えておきますね!」


ふふーんと自信ありげ。

これでハロウィンパーティーの準備はばっちり。

早く週末にならないかな。

すっごく楽しみだ。





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