お絵かき大会のお知らせ
「こほん。ようこそお集まりくださいました。」
フラン、小鳥、めぐるちゃん、みゆちゃん。
今日みんなをここに集めたのは他でもない。
秋のイベント、そのひとつ。
それを開催するのだ。
「紳士……はいないか。
淑女の皆さま。ごきげんよう。」
「ごきげんよー。」
みゆちゃんが挨拶を返してくれた。
ひらひらと手を振って答える。
「さて、前置きは良いでしょう……。
ではこれよりお絵描き大会を開催します!」
私がそう宣言すると、パチパチと拍手の音。
ちゃんとみんな覚えてくれてたみたいで良かった。
そう、お絵描き大会だ。
めぐるちゃんリクエストの一大イベント。
「ルールは簡単です。
1週間後……来週の月曜日までに1作。
何でもいいので描いてきてください!
テーマは不問!
芸術の秋に相応しい作品お待ちしております。」
「ちなみに審査員は私が行います。
優勝者には景品もあるから頑張ってね!」
◇◇◇◇
「……とまあこんな感じで。
雛乃、絵のモデルになってくれない?」
「相変わらず楽しそうね。
別にいいわよ?」
ベッドに座って、雛乃はふふんっと髪をかきあげた。
ノリノリで助かる。
お絵描きについては、フランとも別行動。
綺麗なものを探してきます、とぴゅーっと昨日の夜からどこかへ行ってしまった。
なので今日は私ひとりで雛乃のお家だ。
「じゃあまず脱ごっか。
芸術と言ったらヌードだからね。っいた。」
ぺちんっとほっぺを叩かれてしまった。
ぐぬぬ。
「芸術だからいやらしくないよ?」
「いや。」
完全に拒絶の姿勢だ。
まったくもう。
しょうがない、このまま描くか。
スケッチブックに鉛筆、それにクレヨン。
それが私の装備。
椅子に座った雛乃をじっくりと見据えて作業開始。
雛乃の特徴……。
ちょっと吊り目。
肌は白くて伊達メガネ。
あとは三つ編みが可愛い。
あ、あと全体的に細い。
可愛い。
「じろじろ見すぎじゃない?」
「いや、可愛いなーって。」
「ふふっ。それはどうも。」
そして何よりドヤ顔混じりの笑顔が可愛い。
描く時は笑顔にしとこ。
しゃっしゃっと鉛筆を走らせる。
似顔絵の描き方は分からない。
ただ見たままを写すのだ。
「どう?描けてる?」
「動かないでー。」
「はーい。」
もう、雛乃ってばせっかちなんだから。
ニコニコとする雛乃を見つめてしばらく。
どうにか下書きができた。
「雛乃ー。もう動いていいよー。」
「どう?どんな感じ?」
そわそわとする雛乃に下書きを見せた。
初めてにしてはけっこうよくできた自信がある。
「……?」
だけど私の絵を見て、雛乃は首を傾げた。
なにゆえ?
「なんか変なとこあった?」
「あ、ううん。違うのよ。」
雛乃はちょっと口ごもった。
なにがおかしかったのか。
その答えはすぐに教えてくれた。
「てっきりめちゃくちゃ下手だと思ってたの……。
思ったより上手ね。よく描けてるわ。」
「そっかー。下手だと思ってたのかー。」
そっかそっか。
へー……。
「失敬。失敬ポイント一億点。」
「ご、ごめんね!新入りが上手だとは思えなくて!」
「追加で一億点。許さぬ。」
まさかそんなことを思われてたなんて!
私のどこに絵が下手な要素があるのだ。
断固抗議する。
睨みつけると、雛乃はぷいっと目を逸らした。
「ひなのー。めぇ逸らすなよー。
あやまれー。」
「わ、やめっふふっ。くすぐんないっふふっ。
あははっ。ちょっまってってばっふふっ。」
スケッチブックを置いて、雛乃くすぐりタイム。
雛乃はくすぐりに弱いのだ。
謝るまでくすぐってやる……!
押し倒してくすぐること一分くらい、雛乃はぺちぺちとタップしてギブアップした。
ふふふ。私の勝利だ……わっ。
「やりすぎ!仕返ししてやるわ!」
「わっまっひゃっ。やめっあははっだめっ!」
攻守交代。
私もくすぐりに弱いのだ。
すぐに降参した。
なのに……。
「ひなのっ。ひゃっこう、こうさんっ!
まっ、まってひゃぁっ!ごめん!まじでっ!」
「だめよ。ゆるさないわ。ふふっ。」
全然やめてくれなかった。
私は1分くらいでやめたんだよ?
なのに3分くらいくすぐられた。
ひどすぎる。
「ふぅ。楽しかったわ!」
ぐったりとする私の横で雛乃はそう満足そうにひと息ついた。
「失敬ポイント一億点……。ひゃっ。」
「なんか言ったかしら?」
お腹に手を置かれた。
生殺与奪を握られてる……。
「な、なんでもないよ。」
私はそう誤魔化す。
さすがにこれ以上のくすぐりは勘弁だ。
雛乃の手がお腹から外れる。
ふぅ……あぶな
「……隙あり。」
「ひゃっ。ほんっだめっだめだってひゃっははっ。」
雛乃は容赦なかった。
またくすぐられてしまった。
それから3分くらい。
今度こそ満足したのか、雛乃は鼻歌交じりに席を立った。
「うぅ……。雛乃ひどい……。」
私はもうベッドにコロコロ転がることしかできない。
一生分笑った気がする。
「ごめんね。でも新入りが隙だらけなのが悪いのよ?」
「失敬ポイント十倍。ウルトラ失敬に認定。」
雛乃が2人分の珈琲を持って帰って来た。
そしてすごく楽しそうに、ビスケットをひとつ私に投げて寄越す。
ニコニコとした顔。
私をいじめるのがそんなに楽しいか。
「うぅ……謝るどころかくすぐり返すなんて……。
雛乃のいじわる……。いじわる……。」
私はごろんと転がってそう呟いた。
だけど雛乃は素知らぬ顔だ。
「ごめんね。ほら、グミもあげるから。」
さっきとは別のお菓子。
こんなので懐柔しようだなんてひどい。
雛乃はとっても悪い子だ。
「全然謝ってない……。」
「あら、バレた?」
てへっと舌を出して戯けてみせた。
まったくもう……。
布団から起き上がってビスケットをひと口。
森永のビスケット。
よく慣れたほっとする味。
「もう1個ちょうだい。」
「はい、どうぞ。」
投げてきたのをキャッチ。
上手に取れたけど、ちょっと割れてしまった。
「雛乃ー。割れたー。投げるからだよー。」
「じゃあもう1個あげるわ。」
「きゃっ。」
今度はキャッチできなかった。
手に弾かれたビスケットは袋のまま机に落ちる。
幸い今度は割れなかった。
「そういえば……。」
もぐもぐとビスケットを食べながら、雛乃は首を傾げた。
「さっきの絵、完成したらもらってもいい?
似顔絵、すごく嬉しかったから……。」
もちろん、私はそれに頷いて答えた。
元からそのつもりだからね。
私が頷いたのを見て、雛乃はすごく嬉しそうに顔をほころばせた。
そんな顔をしてもらえるなんて。
ふふふ。
今はまだ下書き。
おやつタイムのあとはクレヨン頑張んなきゃだ。
ビスケットを食べて、おまけにもらったグミも食べてほっと一呼吸。
「あともう1個聞いていい?」
「ん。」
「失敬ポイントってなに?」
「溜まると私が小鳥に失敬を働きます。」
「ごめんなさい。」
速攻で頭を下げられた。
うむ。分かればよろしい。
ということで、わだかまりも解けてお絵描き再開。
私はこれでお絵描き大会優勝を目指すのだ。




