おまけの帰り道
「お風呂寄りたいかも。」
「かしこまりー!きったねえもんな!」
「きったなくはない……はず……。」
帰り道。
真っ直ぐ帰る予定だったけど、ちょっと変更。
お風呂屋さん行って帰りたい。
鈴のキャンプ場、景色も広さも完璧だった。
でも当然ながら、お風呂なんてものはない。
フランに身体を拭いてもらったけど、やっぱり一度すっきりしたい。
というわけで寄り道だ。
「高速乗る前の方がいいよなー。
フランちゃん、探すのお願いしていいー?」
「かしこまりました!お任せください!」
フランが意気揚々とスマホを取り出す。
そして鼻歌混じりに検索を始めた。
「おんせん♪せんとう♪おっふろやさーん♪
見つかりました!その角を右です!」
フランのナビで車はスイスイ進む。
そしてあっという間に目的地。
個人経営の銭湯へとたどり着いた。
番頭のおばあちゃんにひとり500円ずつのお支払い。
とっても安い。
タオルなどのお風呂セットも合わせてこのお値段。
採算取れてるのかな?
「とうちゃーく!いちばんぶろー!ぶろろー!」
更衣室に入るなり、鈴は猛スピードで服を脱ぎ飛ばして駆け抜けた。
幸いにも他にお客さんは居ない。
散らばった服を私が片付ければ、マナー違反を咎められることもない。
めちゃくちゃむかつくけど。
「お嬢様、私が片付けます!」
「いいよいいよ。これくらい瞬殺だし。」
ぽいっと適当にまとめて、かごに入れた。
さて私も早くシャワーを浴びたい。
身体が全体的にベトベトしてる気がする。
小鳥のお腹をちょっと触って行動開始。
デコピンはされたけど、これくらいならリターンの方が大きい。
「お湯加減はいかがですか?」
「生き返り中……。」
フランに髪を洗ってもらって、ついでにヘッドマッサージ。
体力がみるみる回復していくのを感じる。
さすがフラン……。
気持ちいい……。
「お風呂気持ちぃぞー!早く来いよー!」
「ちょっと待っててー……。」
「なぁフラン、あとであたしにもしてくれない?」
「はい!もちろんです!」
とまあのんびりとした時間。
そんなこんなで私たちは大いに銭湯を楽しんだ。
のだけど……。
「お風呂ありがとうございましたー。」
「でしたー。ってあれ?」
お風呂上がり。
さっきまで受付にいた番頭のおばあちゃんが居ない。
お風呂セット、返したいのだけれど。
「番頭さん、こっちみたいです。」
フランが銭湯の外を指さした。
なんで?まだ私たちお風呂入ってたのに。
「急用とかか?」
「まあなんでもいいじゃん!
俺はここで待ってるからさ。
近いなら声かけてきて!」
鈴がお留守番してくれることになった。
フラン曰く、番頭さんは目と鼻の先。
ちょっと声をかけて帰ろう。
「営業中にどっか行っちゃうなんてね。
これも地域のほがらかさなのかな。」
「かもなー。緩い雰囲気なのは良いことだな。」
「ですねー。」
2分ほど歩いて、目的地に到着。
番頭さんは誰かと話していた。
(あれ?)
遠目から見て、番頭さんはすごく困ってるように見えた。
それに相手の人。
なんかちょっと雰囲気がこわい。
「フラン、どんな話ししてるか分かる?」
「はい、もちろんです。」
フランが番頭さんと相手の男の人の会話の復唱を始めた。
「そんで慰謝料はいつ払うんだよ?
そんなお金はないんです。ごめんなさい。
店、畳みゃいいだろうが。
それはできません。亡くなった夫の……
「フラン、もういいよ。大丈夫。」
そこまで聞いたらだいたい分かる。
番頭さん、なんかやばい人に絡まれてる。
「……ちょっと助けてくるか。」
「いや、待って待って。小鳥、ストップ。」
小鳥が飛び出そうとするのを慌てて抑えた。
正義感は見習いたいけど、相手はカタギじゃなさそうだもん。
小鳥を危ない目には遭わせられない。
「では私の出番ですね!
悪い人はくしゃくしゃにしちゃいます!」
「いや!待って待って!くしゃくしゃは駄目!」
そっちも慌てて止めた。
それはいくらなんでも駄目だ。
腕輪を外して、どうする気なの?
「くしゃくしゃにしてぽいっです。
証拠は残さないので安心してください!」
さすがに論外だ。
いくらなんでもやり過ぎだろう。
(ここは私が頑張るしかないか……。)
「2人はちょっと待ってて。
私にいい考えがあるの。」
小鳥のパワーにも、フランの更に強いパワーにも頼らない。
ここは私の演技力の出番だ。
「私はヤクザの組長の娘……。
そう思い込ませて、退散させるわ。」
「おい兄弟。お前が1番バカだ。やめろ。」
「バカとはなによ?私を誰だと思ってるの?」
いつの間にか鈴が戻ってきていた。
お留守番を頼んでたのに悪い子。
パパに言いつけてやる……っいた。
「ちょっと待ってろ。俺が解決してやるよ。」
鈴がスタスタと歩いていく。
番頭さん、鈴、そしてこわい男の人。
3人が話し始めた。
それをまたフランが復唱する。
「あれ?貴方さっきの……」
「お風呂から出たら居なくなってたので!
どうかしましたか?」
「嬢ちゃんはすっこんでろよ。今は取り込み中だ。」
「慰謝料がどうとかって聞こえましたが。」
「だからてめえには関係ねえっつってんだろ!
痛い目見たくねえなら消えろ、クソガキ。」
「今はお兄さんとは話してないです!
静かにしててよ!もう!」
「舐めてんじゃねぇぞ!」
男が鈴の首元を掴んだ。
小鳥が飛び出そうとしたのを、フランが抑える。
「鈴お姉様なら大丈夫ですよ。」
フランはひとことそう言った。
そしてそのすぐ。
ばちんっと大きな音がした。
鈴の方を見ると、拳を振り抜いた男。
そしてその場に立ち尽くす鈴が居た。
「……あーあ。手ぇ出したな。間抜けめ。」
にやりと笑う鈴。
そしてその次の瞬間、背後から警察が現れた。
「は?」
「詐欺とか暴力はダサいからやめろよ?
まあもう遅いけどな。
現行犯だ。連れてって。」
鈴は警察の人にひとことそう命令した。
あっという間にかけられる手錠。
悪いお兄さんが困惑してるなか、鈴は少しだけおばあちゃんと話して私たちのもとへと帰ってきた。
「さて!逃げるぞー!」
そして私たちを通り過ぎて、車へと走っていった。
え、逃げんの?なんで?
「色々めんどい!
あとは現場の兄ちゃんに任せるから!
ほら!早く!早く!ハリー!」
仕方ないから追いかける。
借りてたタオルとかは……。
「それも大丈夫だから!急いで!」
「ああもう!分かった!分かったよ!」
てってっと走って車に飛び込む。
大慌てで車は発進した。
「聞きたいことはたくさんあるけど……。
殴られてたよね……?大丈夫?」
「地球人風情が俺様に傷を負わせられると?
笑止!片腹痛いわ!」
地球人差別……はさておき、大丈夫ではありそう。
車のミラーには傷一つない鈴の顔が写っていた。
「大丈夫大丈夫。さっきの警察官は知り合いだし!
R案件ってことで適当に処理してくれるよ。」
R案件……。
あ、りん案件ってことか。
「ねぇ小鳥。もしかして日本の権力って腐ってる?」
「あたしもそう思ったところだ。」
「警察……信用できないかもですね。ふふっ。」
「みんなひどくない?
俺、権力そんなに濫用してそう?」
鈴の顔がぷくーっと膨らんだ。
だって、ねえ?
鈴に好き勝手させてるようじゃね。
「むー。まあいいもん。番頭さんは無事!
ハッピーエンド!ほら、忘れろ忘れろ!
俺は可愛い鈴ちゃんだからな!」
そう言って鈴はにししと笑った。
いつもと違う、鈴のちょっとかっこいい一面。
それを知れたのも良かったのかも?
その後は特にトラブルもなく、夕方にはアパートについた。
キャンプ編はこれで終わり。
また明日からはなにをしようか。




