キャンプファイヤーと小さな舞踏会
「できたー!」
みんなの目の前、そこには石で組まれた焚き火台。
石を集めて円にして、中に『井』の形に組んだ薪。
そしてその中に新聞紙で作られた紙薪を入れて出来上がり。
夕方ごろから資材を集めて、ついに今完成したのだ。
焚き火台の周りに椅子を並べれば最高にクールだ。
夜の始まり、お互いの顔も薄暗い。
だけどもうこれで大丈夫。
「火ぃつけるぞ。」
「うん!」
小鳥がマッチを擦って、焚き付け用の新聞紙に火を点けた。
小さな火種を焚き火台に入れ、フランが手で風を送った。
すると炎は綺麗な形になって、私たちの顔に明かりを灯す。
「綺麗……。」
ゆらゆらと揺れる炎。
薄暗い夜の世界だと、それは神秘的に見えた。
みんなでぼんやりと火を囲む。
ゆったり、ゆったりとした時間。
山を登って、フリスビーで遊んで、そして焚き火台作り。
さっきまでの忙しない時間が遠い過去のようだ。
(……すっごく幸せだな)
火を囲んでるだけ。
他になにかをしてるわけじゃない。
だけど何故だか自然や皆と一体になってるような充足感。
ああそうだ。
きっと目で見る必要もない。
目を閉じて、世界に意識を預ける。
木々の音、ぱちぱちという炎の音。
全部がここちい
「寝るなーっ!!!」
「っ!?!?」
耳元で叫ばれた。
鈴。まじで。こいつ。
「風情がない……。」
「だなー……。」
「ですね。」
鈴以外の気持ちがひとつになった。
暗くて見えにくいけど、小鳥もフランもジト目に違いない。
「だってこれ以上暗くなったらご飯大変だぜ?
俺とフランは見えるけどさー。
ほれほれ、準備手伝えよ!」
ぴゅーっと鈴が走り去っていく。
むう……。
風情はないけど正論だ。
手伝わねば。
ということで焼きそば作りの準備。
ちゃかちゃかテキパキ。
みんなで準備するとあっという間。
鉄板、麺、お肉、お野菜、ソース。
必要なものはすぐに用意できた。
ただ問題は鉄板をどうやって温めるか。
焚き火に鉄板は普通に考えて無茶だろう。
「フランちゃん任せた!」
「はい、任されました!」
鈴は鉄板を地面に直接どーんと置いた。
そこにドヤ顔のフランが手を翳してむむむーと力を送る。
すると鉄板が熱を帯び始めた。
さすが本気モードのフラン。
鉄板を熱くするなんて赤子の手をひねるようなものだ。
それで作った焼きそばも、もちろん絶品だった。
すぐに食べ尽くして、また火を囲む。
さっきよりもずっと暗くなった。
空を見上げると、きらきらと星が瞬いている。
「まんぷくー。」
「だな。美味しかった。」
「へへー。」
「えへん。」
もう今日のやり残しはない。
寝る間際まで星を眺める。
ただそれだけ。
「地元より綺麗。」
アパートの近くだって、相当に星は綺麗に見える。
だけどこっちの方がくっきりしてる。
お月さまだってぴかぴかだ。
「このみも連れてきたかったなー。」
ぼそりと鈴が呟いた。
このみちゃん、キャンプとか好きそうなのにね。
「なんで来なかったんだっけ?」
「虫。このみ超々虫苦手。
キャンプは絶対無理だってよー。」
パタパタと足をぶらつかせ、不満げな鈴。
虫くらいいいじゃん、と言いたげだ。
「なんかさー。昔、家族キャンプでさ。
朝起きたらムカデを口に咥えてたんだって。
それがトラウマなんだとよー。」
「えー……。」
「うわ……。」
それはキャンプトラウマになるよ。
当然の帰結というやつだ。
「咥えてたのは足の方ですか?頭の方ですか?」
「足の方……じゃないかな?
このみ、首ねっこ上手に摘まんでたらしいし。」
「じゃあ大丈夫ですね!毒があるの頭ですし!」
フランはほっとひと息ついた。
毒が無くたって嫌すぎるけどね。
そこはちょっと感覚が違うらしい。
ちょっとの沈黙。
風も炎も心地よくて、会話も途切れ途切れ。
みんなその場その場で思い浮かんだ言葉をポツポツと口に出す。
お星様のこと。フリスビーの良い投げ方。
フランの抱き心地にこのみちゃんの抱き心地。
鈴のお仕事のことは……守秘義務があるから秘密。
いつの間にかお月様も雲の陰に消えた。
炎が無ければ、なにも見えなくなる。
火を最初に焚べてから、もう随分と立った。
炎も段々と弱くなってきている。
だから、キャンプももうすぐ終わり。
すっごく楽しかったな。
たくさん遊んで、もう身体はとっても疲れてる。
あとはおやすみなさいだけ。
このまま終わってもきっと満足。
ああでも。
このままキャンプが終わるのは、なんか勿体ない気がする!
「フラン!小鳥!鈴!踊りたい!」
私はひとことそう言って立ち上がる。
最後に1個、忘れられない思い出がほしい。
ゆっくり消えていく火に寂しさを感じたとか、そういうのじゃなくて。
「ふふっ。なんだよそれ。」
最初に立ち上がったのは小鳥だった。
私はその手を引いて、少し広いところへ。
「ふふ。こんな暗い中じゃ危ないんじゃないか?」
確かに正論。
だけど、小鳥の声は弾んでる。
えへへ。同じ気持ちみたいで嬉しい。
たとえ正論だろうと、今の私たちは止められない。
手を取ってワン、ツー。
ペアのダンスは演劇部の頃に王子様役で経験済み。
思い出すと手も足も勝手に動く。
「ダンス、上手だな。」
「小鳥こそ。」
小鳥もダンスしたことあるのかな。
リードすると、その通りに動いてくれる。
つっかかったりしないし、とっても上手。
「……♪」
鈴が口笛を吹いて、フランが木の枝でリズムを刻む。
そして、ついに火が消えた。
もう足元もお互いの顔も見えない。
ああだけど、それが心地いい。
四人で闇の中に溶けているような、そんな一体感。
小鳥は今、どんな顔をしてるんだろう。
フランは?鈴は?そして私は?
ふふっ。きっとにやけちゃってる。
ワン、ツー、ワン、ツー。
ステップしてターン。
ぴしっとストップして決めポーズ。
「えへへ。」
「ふふ。」
うん、これで本当の大満足。
小鳥の顔は見れないけど、きっと小鳥も同じ顔。
楽しくて満足した、幸せな表情。
私はそれを想像して、小さく笑うのであった。
その時。
世界に光が戻った。
「危ないから、光つけるな。
もう寝る準備するぞー!」
鈴の光る指。
おかげで小鳥の顔もよく見える。
「……顔、真っ赤じゃん。」
「なんだよ、小鳥だってそうじゃん。」
てっきり口角が上がってるくらいだと思ってたのに。
なんだよ、照れまくりじゃん。
「ふふっ。」
「笑うなよ。お前だってだろ?ふふっ。」
2人でそう笑い合う。
だってさ、ダンスすごく上手だったんだもん!
照れてニヤけた顔でしてるとは思わないじゃん!
「あー、もうかっこいいなーって思ったのに。」
「うっせえ、ほらもう寝るぞ。」
小鳥が優しく手を引っ張る。
火の始末、歯磨き、そしておやすみなさい。
寝袋に包まると、意識は一瞬で落ちた。
これで私たちのキャンプは終わり。
きっとこれも、一生の思い出。




