幕間 鈴ちゃんのキャンプ準備
「このみー。キャンプの準備手伝ってー。」
金曜日。
僕はそんな言葉と共に起こされた。
頭がぼーっとする……。
眠たい……。
「鈴ちゃん、今何時……?」
「4時!」
「むりぃ……。ねるぅ……。」
僕はこんなに早く起きれないよ。
せめてあと1時間……。
いや2時間は待って欲しい……。
一度は開いた瞼を閉じ直す。
鈴ちゃんが僕の肩を揺するけど、今はそれよりも眠気が勝る。
僕の意識はもう一度まどろみの中に溶けていく……。
「ふわとろスフレパンケーキ焼いた。」
「ふわとろスフレパンケーキ!!!???」
微睡んでる場合じゃない!
そんなの初めて!
ふわとろ!スフレ!パンケーキ!
飛び起きると、鈴ちゃんはぎゅっと僕を抱きしめた。
ふわとろスフレパンケーキの誘惑と、鈴ちゃんの温かいハグ。
それで僕の頭は完全に目が覚めた。
もう眠りなおすことはできない。
鈴ちゃんに手を引かれるがままに食卓。
そこにはすっごく美味しそうなパンケーキ。
僕に食べてもらおうと、いい匂いを漂わせて鎮座していた。
「り、鈴ちゃん。いただきますしていい……?」
「いいよー!召し上がれ!」
「いただきます!」
ということで朝の4時から1日はスタートした。
美味しい美味しい。
鈴ちゃんの料理は世界一美味しいね。
よせやい、照れるぜ。
そんな会話をしてから、ようやく起こされた理由を思い出した。
「そういえばキャンプの準備?
こんな朝早くからなにするの?」
鈴ちゃんは明日から一泊二日でフランちゃんたちとお泊まり。
前から色々張り切ってたけど、それにしても今日のは謎に溢れてる。
朝の4時からする準備ってなんだろう?
「準備の内容は秘密ー!
あ、大学は気にしないでね!
フランちゃんに代返頼んだから!」
代返……。
それはちょっとずるくないかな。
「まぁまぁちゃんと補修も予定してるから!
今日の準備、このみの協力必要なんだよ!」
まぁそこまで言うなら仕方ないかな。
それにしても僕の協力が必要か。
何が必要なのかな。
かけっこの早さとか?
あ、でもそれは小鳥さんの方が速いか。
じゃあ違うな。
あと僕の特技といえば……。
(ストーキング……とか……。)
思い出してずーんと気分が沈んだ。
雛乃ちゃん追いかけるために色々学んだから……。
(いや、それを必要とするわけないじゃん!)
ぶんぶんと首を横に振る。
僕の特技がそれくらいだとしても、鈴ちゃんがそれを使う訳がない。
僕の特技のことは忘れよう……。
「どうしたの?大丈夫?」
急に首を振ったから心配されちゃった。
大丈夫だって応えると、鈴ちゃんはほっとひと息ついた。
そしてゆっくりと僕にして欲しいことを喋りだした。
「いやさ、このみにしかできないことなんだよ。」
「うん。僕にできることなら何でも手伝うよ。」
このとびきり美味しいパンケーキのお礼もあるしね。
えっちなお願い以外ならなんでもする。
鈴ちゃんはひと呼吸置いた。
そしてひとこと。
「抱いていい?」
……。
「だ、駄目だよ!?!?」
「え!なんで!何でもって言ったじゃん!」
「でも、それは二十歳になったら!」
えっちなお願いだった!
そういうのは駄目だって言ってるのに!
全力の拒否。
僕は流されたりしないんだから。
鈴ちゃんはうーと悲しそうに唸った。
う、そんな顔しても駄目だよ。
その悲しそうな顔を見ると、ちょっと罪悪感が芽生えるけどこればっかりは譲れない。
鈴ちゃんのことは大好きだけど、僕たちにはまだそういうのは早いから。
次の言葉を警戒して待つ。
でもその後の言葉は意外な言葉だった。
「2日会えなくなるから抱きしめたいだけなのに……。」
「え」
抱きしめたいだけ?
「そっか、このみは抱っこはもう嫌なんだな。」
鈴ちゃんはそう寂しげにため息をついた。
「え、いや、え、抱きしめたいだけ?」
「うん。」
こくりと頷いて答えられた。
だって抱いていい?なんて直球の誘いの言葉で……。
「ごめんな。今日は大学行っていいよ。
フランちゃんにも伝えとくね。」
とぼとぼとスマホに向かって歩き出した。
ち、違うよ??
僕はそんな意味で言ったんじゃ……。
気づけば僕は鈴ちゃんを後ろから抱きしめていた。
「このみ、どうしたの?」
「ごめん、えっちなことと勘違いしちゃったの。
抱きしめるの大好きだよ?
今日は抱っこして過ごそう?」
抱きしめると温かい。
この温かさが鈴ちゃんにも伝わりますように。
僕はそんなことを思いながら、誠心誠意謝った。
勘違いして冷たいこと言っちゃった。
ごめんね。
「抱いていいの?」
「うん、抱いていいよ。」
鈴ちゃんがひとつ息を大きく吸い込んだ。
そして……。
「やったー!今日はこのみといちゃいちゃデー!」
そう大きな声で叫んだ。
「ほら早く食べて食べて!
今日はずっといちゃいちゃしよ?
えへへ……。楽しみ……。
あ、でも体力つけなきゃだね!
パンケーキお代わりあげる!」
捲し立てる鈴ちゃん。
お皿に積まれるパンケーキ。
僕はただそれを呆然と眺めるしかできない。
「え、えっと鈴ちゃん。」
「えへへ。このみチャージできるの嬉しいな。」
無邪気なニコニコ笑顔。
今さらやっぱり手加減してとは言えない。
ただパンケーキはとびっきりに甘くてふわふわ。
食べ終わる頃には僕も気分がふわふわになった。
もうなるようになれ。
抱きしめ合うだけなら20歳にならなくたって大丈夫。
それから夜の10時まで。
僕らは体勢を何度も変えて、休憩も挟んで、抱きしめあって過ごした。
これが鈴ちゃんのキャンプの準備。
そして鈴ちゃんは心なしかツヤツヤした顔で、キャンプに出発したのであった。




