みゆちゃんの嫉妬
ほほに小さな指が触れた。
それがきっかけで私は目を覚ます。
「おはよ、フラン。大好きだよ。」
目を閉じたまま、私はその手をとってぎゅっと握った。
あったかい。
もうちょっとだらだらしたいな……。
でも次の瞬間には眠気は全部飛んだ。
「おねえさん。」
思っていたのと違う声。
あれ……?
恐る恐ると目を開ける。
「わたし、フランちゃんじゃないよ。」
そこに居たのはむすーっとしたみゆちゃんだった。
ま、間違えた!
だって昨日寝るときまではフランと一緒だったから!
(怒ってる……?)
みゆちゃんはむすっとした顔でなにも言わない。
フランと間違えたことを謝ろう。
そう思ったとき、みゆちゃんは急ににまりと口角をあげた。
「フランちゃんとちゅーしたってほんと?」
「えっ。」
怒られると思ったらそうじゃなかった。
みゆちゃんはすごく楽しそうに笑っている。
むすっとしてるように見えたのは勘違い?
「ねえおねえさん。ねえねえ。」
身体がゆさゆさと揺さぶられる。
みゆちゃんはキスに興味津々だ。
「うん、一昨日かな。そこで初めて。」
「ひゃー。」
みゆちゃんは両手で顔を隠してそう言った。
まぁ厳密には初めてじゃないけど……。
酔ったときのはノーカウントだ。
「いいないいな。わたしもフランちゃんとしたいな。」
大興奮しながら、ぱたぱたと布団を叩く。
えへへ。
改めてすごいことしちゃったな。
「ねえねえ。ちゅーってどんなあじ?
あまい?すっぱい?」
「うーん、おいしすぎて分からなかったかな。
すっごく幸せな味だったよ。」
「ひゃー。」
改めて言葉にするとちょっと恥ずかしいな。
多分、今すごくにやけちゃってる。
みゆちゃんも同じくにやにや笑顔。
お布団をぱんぱんともう一度叩いて、インタビューは続く。
「ちゅーするのはフランちゃんがはじめて?」
「えっと……。それは秘密かな。」
(小鳥とのキスはまだ数に含めたくないし……。)
「む、きになる。」
「秘密ったら秘密。」
「むぅ。」
納得いかないながらも次の質問。
「どっちからしたの?」
「私から……って言いたいけどフランから。
勇気が中々出てくれなくてね。」
「フランちゃんかっこいいね。」
「でしょー。ふふん。」
みゆちゃんは私の惚気話をきらきらとした目で聞いてくれる。
私は聞かれるがままになんでも答えてしまう。
フランとキスしてどんな気持ちだったか。
おやすみのキスもしたんだよ。
一日一回の約束なんだけど、いつまで守れるかな。
すっごくドキドキしてしょうがないんだよって。
「ひゃー。おねえさんおとなだね。」
「えへへ……。でしょー。ふふふ。」
みゆちゃんはよしよしと私の頭を撫でてくれた。
ふふっ。
そうなの。
私たちは大人の階段を一歩登ったのだ。
「ねえねえおねえさん。」
また次の質問。
どんな質問でも答えてしんぜよう。
私はそう思って居住まいを正した。
「わたしともきすしてくれる?」
……。
「みゆちゃん、ちょっと待ってね。」
「うん、まつね。」
みゆちゃんはそう言って目を瞑った。
ほんの少しだけ突き出した唇。
いや、ちょっと待って。
そういう待ってじゃない。
「?」
目を閉じたまま、みゆちゃんは首を傾げた。
まだかなーと言いたげな姿。
(いや、私はみゆちゃんのことも好きだよ!?
だけど、そ、それは早いんじゃないか!?)
好感度でいえば、みゆちゃんも他の皆に負けてない。
みゆちゃんが大人になって、その時にみゆちゃんがまだ私たちを好きなら付き合うこともやぶさかではない。
だけどそう。
早い。早すぎる。
いくらなんでも大学生が小学生にキスするのは事案でしかない。
ああでもそれをどうやって伝える?
「おねえさん。」
いつの間にかみゆちゃんは目を開けていた。
今度こそむすっとした顔。
(正直に伝えるしかないか……。)
今はまだ私からキスはできない。
たとえ傷つけることになったって、それをちゃんと伝えよう。
「ねえみゆちゃん。」
「なぁに、おねえさん?」
ちゃんと目を見て。
真っ直ぐに。
「私はみゆちゃんにまだキスできないの。
みゆちゃんがもっと大人になって。
ちゃんと自分で考えられるまでは待つから……。
ごめんね。だから今はまだだめなの。」
だってみゆちゃんはまだ小さいから。
好きって気持ちがなにか分かってるかも分からない。
そんな子を恋人関係で縛り付けるなんてしちゃ駄目だ。
目が合う。
そして私の真剣な目に応えるように、みゆちゃんはこくりと頷いた。
「わかった。おねえさんはまつんだね。」
「うん、もう少しみゆちゃんがおと
最後まで言い切ることはできなかった。
唇が塞がれた。
長く、長く。
息もできなくなるくらいに長く。
首に回された腕から力が抜けるまで、私はなにも考えられなかった。
顔のすぐ側からみゆちゃんの顔が遠ざかる。
そこで私はようやく言葉を発せられた。
「み、みゆちゃん。」
それだけのひとこと。
だってまだ何が起きたか分からなかったから。
ただ起きたことを咀嚼するのに精一杯だった。
みゆちゃんはただひとこと。
ただひとことだけ応えた。
「わたしはまたない。」
そしてみゆちゃんはフランの元へと駆けていった。
私は待たない。
つまりみゆちゃんは積極的にキスとかしにくると?
私は大人だから耐えなきゃなのに?
(え、耐えられるのこれ?)
赤くなる顔を抑えて布団に倒れ込む。
これから先どうなっちゃうんだろう?




