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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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わちゃわちゃ恋バナ


「おっすー!戻ってきたぜー!」

「ただいま~。」


1時間くらいして、いちごうさんとにっきさんが戻ってきた。

なんとなく目を見るのが気まずい。

で、でもそれくらい20歳超えてたら普通だしね!

あんまり気にしないようにしよ……。


「新入りー!さっきは急にごめんねー!

 遊ぼう!!なにして遊ぶー?」

「ひゃっ!」

「わ!新入り!大丈夫!?」


急に肩を組んできたことに驚いてしまった。

落としたコーヒーカップをフランがキャッチ。

そして後ろにひっくり返りそうになった私を、いちごうさんとにっきさんが2人がかりで支えた。


(はさまれた。わ、わたし、どうすれば。)


普段はこれくらい意識しないのに、今日は駄目だ。

やたらと2人を意識してしまう。

なんか2人がすごく大人に見える……。


(おなじ匂いしてる。

 2人で同じシャンプー……。

 で、でもそれくらい私とフランも同じだし!)


「ふ、2人には負けてないからね!」

「え、え、なにが!?」


おっと混乱しすぎた。

肩を組んだまま、いちごうさんがあわあわしてる。

つん、と指が頬に触れる。


「新入りちゃん。顔赤いよ〜。どうしたの〜?」

「あ、ほんとだ!新入りー!どうしたの!?」


挟まれてツンツンとされる。

ぐへえ。

私はどうすればいいのだ?


「普通にやめさせなさいよ。

 ほら、散って散って。新入り困ってる。」

「はーい!」

「は~い。」


雛乃のひと声で、2人が私の側から離れる。

危ない。

あれ以上挟まれてたら私も大人の仲間入りするところだった。


「お嬢様。どうしましたか?」

フランがちょんと私の袖を引く。

「フランにはちょっと早いお話。

 でもちょっと抱きしめさせてね。」

「いつでもどうぞです!」

フランを抱えて膝の上に載せる。

ふぅ、落ち着く。


(ていうかよく考えたら昨日フランとキスしたし!

 そんなにリードされてるわけじゃないじゃん!)


落ち着いたら大事なことを思い出した。

私だってフランとキスした。

だからそんなに気負う必要はないのだ。

私だって大人のひとりだ。


「新入り、様子がおかしいわよ。」


雛乃が訝しげに私の目を見る。

私はそれに誇らしげな笑みで返した。

雛乃はまだキスもしてないお子様。

私たちの話についてくることは難しいだろう。


「なにその顔。おかしくなったの?」

「雛乃には分からないよ。

 私たちとはレベルが違うからね。」


は?って顔をされた。


「?お嬢様?私はどうですか?」

「フランは私と同じだよ。」


うりうりと撫でる。

フランはニコニコと私に体重を預けた。

私と同じだって言われて上機嫌だ。


とはいえちょっと1人でごちゃごちゃ考え過ぎてしまった。

首を傾げてるいちごうさんとにっきさんに向き合おう。


「ごめんね、ちょっと色々変なこと考えちゃってた。

 もう大丈夫だから気にしないで。」


私が言うと、いちごうさんはぺかーっと笑顔になった。

とっても眩しい可愛い笑顔。

そしてその笑顔のままに、いちごうさんはもう一度私に寄ってきた。


「じゃあいっこ質問していい??」

「いっこと言わずいくつでも。

 先ほどは失礼を働いてしまったからね。」


フランのおかげで今の私はもういつもの調子だ。

いくつでもなんでも質問してくるがよい。

フランの入れてくれたお茶を口に含む。

いつ飲んでも美味しいが、落ち着いた今ならなおさらに味がわかる。

とっても美味しい……。

 

「ねえ新入りと雛乃って付き合ってるんだよね!

 どこまで進んだの??」

「……っごほっぅぇっ」


気管に入って噎せた。

せ、せっかくそういうこと考えないようにしてたのに!


「だ、大丈夫!?」

「うん、大丈夫……。」


いや、気持ち的にはどうしよう!?ってなってるけどね。

ていうか雛乃。

私たちの関係、広めてたりしないよね?


じーっと雛乃を見つめる。

雛乃はわざとらしく目を逸らした。


「雛乃ちゃんは悪くないよ〜。」

「うん、私たちで尋問したからね!」

「我慢してたのは褒めてあげてね〜。」


いつの間にかにっきさんも私の真横についている。

逃げられない。


「おっと発言に気をつけなよ!

 雛乃は私たちの娘だからね!

 生半可な覚悟なら……潰すよ!」

「娘じゃないわ。」

「雛乃は黙ってて!」


雛乃は口にチャックをした。

そしてフランを手招きして無言で撫で始めた。

もうこっちに関わる気はないらしい。


「ほれほれ〜。新入りちゃ~ん。

 雛乃のこと、大事にしてるよね〜?」

「キスはした!?

 雛乃、そういうの全然教えてくれなくてさー!」


酔っ払ってるのかな?

そう思うくらいのダル絡み。


「いや、私と雛乃はそういう関係じゃないから。」

「えー!雛乃、あんなに魅力的なのに!

 私が彼女ならチューしまくりだよ!」


そうは言われても、雛乃とは偽装カップルだし!

お互いに恋人的な好きじゃないんだからそんなこと言われても……。


「へ〜い。もしかしてキスとか嫌い?」

「お嬢様はキス大好きですよ?

 昨日は幸せすぎてぐったりしてました。」

「ふ、フラン!?」


撫でられてご満悦なフランが口を滑らせた。

横のいちごうさんとにっきさんの目。

それは一層キラキラと輝いて……。


「やっぱりキスしてんの!?」

「しかもぐったり!そんな激しいの!?」

「ち、違う!雛乃とはしてないよ!」


言ってから気づいた。

墓穴を掘ったと。


「浮気?」

「浮気?」


2人の声が揃う。

いちごうさんの快活さもにっきさんの穏やかさも、そんなもの最初から無かったかのような真っ黒な目。


「だ、大丈夫。フランと、フランとだから。」


あれ、これ言い訳になるかな?

恐る恐ると2人の顔を見る。

まだ目は真っ黒い。

つ、潰される……!


「いてっ!」

「いたっ!」


2人はそう言って、私を解放した。

2人の後ろには拳骨を構える雛乃。

助かった…のかな?


「雛乃ー!楽しいところだったのに!」

「もう、雛乃ちゃんったら。」


いちごうさんとにっきさんは頬を膨らませた。

もう怖い目をしていない。

してない……よね?


私があわあわと2人の様子を伺っていると、いちごうさんはにやりと笑った。


「大丈夫。本当は全部分かってるよ!

 雛乃が好きなの小鳥さんだもんね!」

「ち、違うわ!そうじゃないけど!」

「雛乃ちゃん。そんなに誤魔化さないで。よしよし。」

「ち、違うったら!」


とりあえず2人は私たちが本当に付き合ってるわけではないことはちゃんと知っているらしい。

でも念の為。


「えっとじゃあ私たちの関係ってひとことで言うと?」

「雛乃の照れ隠し!」

「雛乃ちゃんの照れ隠しだよね~。」


完全に的を得ている。

良かった……。

潰されずに済んだ……。


「いじわるしてごめんね!

 むしろ雛乃のお世話してくれてありがと!」

「これからも雛乃をよろしくね〜。」


改めてシェイクハンド。

朗らかな雰囲気で尋問は終わった。

ああでも2人は恋の先輩なんだもんな。

なにかあったら頼らせてもらおう。


そんなことを考えながら、私はほっと一息をついた。



「ところで!フランちゃんとキスしたの!?」

「そっち聞かせて欲しいな〜。」


尋問再開。

結局、私はほっと一息なんてつけずに根掘り葉掘りと今のみんなとの関係について吐かされたのであった。

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