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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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雛乃のお家のお客さま


にゃんこ小鳥を愛でた日の翌朝。

朝ご飯を食べたあと、私とフランと雛乃はだらだらのんびりお喋りしながら過ごしていた。

あ、小鳥は帰ったよ。

緊急のアルバイトがある!って大慌てで。

それが嘘であることは知っていた。

よっぽど昨日のことが恥ずかしかったらしい。


「うぅ……昨日のことで嫌われたりしてないかしら……。

雛乃はそう頭を抱えた。

余計な心配だろう。

「大丈夫。小鳥はああいうの実はけっこう好きだし。

 ドキドキしすぎちゃって逃げたくなっただけだよ。」

「はい、小鳥お姉様。すごく楽しんでましたよ。」

フランのお墨付きももらえた。

あとで帰ってからからかうのが楽しみだ。


ぶー、ぶー。

スマホの震える音が聞こえた。

雛乃のかな?


「ちょっと出るわね。」

雛乃が電話を手に取る。

するとすぐに元気な声が聞こえてきた。

『雛乃ー!暇ー?

 今からそっち行っていいー?

 はるなと喧嘩しちゃった。』

声でメイド喫茶のいちごうさんだと分かった。

でもはるな?

そっちは分からないや。

「今、こっち新入りが来てるの。

 それでも大丈夫?」

『え!?むしろ会いたい!

 やったー!新入りちゃんだ!

 じゃあすぐ行くね!』

そこで電話は切れた。


「はるなさん?」

「メイド喫茶のにっきよ。

 仁木にき春菜はるな

 だからにっきなの。」

「あー、なるほど。」


電話を掛けてきたのは雛乃と同じメイド喫茶で働くいちごうさん。

黒髪ショートの元気っ娘。

そんでにっきさんはゆるふわブラウンのおっとりした子だ。

同じくメイド喫茶で働いている。


あとは黒髪ミディアムでフラン狂いなサンサンさんって子もいつも一緒だけど……。

今日はどうやら違うみたいだ。



ピンポーン。


「え!早くない!?」

「すぐ近くに住んでるのよ。

 だからよくうちに来るの。」


雛乃に先んじて、フランが扉を開けに行った。


「わ!フランちゃん!久しぶり!

 今日も可愛いね!抱きしめていい??」

「もちろんです!いちごうさんもお久しぶりです!」


玄関からそんな声が聞こえる。

ちょっとの沈黙。

きっといちごうさんがフランを抱きしめているんだろう。

それからすぐにいちごうさんはフランを抱えたまま部屋に入ってきた。


「はるなと喧嘩したー!雛乃ー!新入りー!助けて!」

「はぁ……理由は?」

「ゴミ捨て当番忘れてた……。」

「貴方が悪いわ。ちょっと待って。」


雛乃が電話を掛けた。


「もしもしにっき。ええうん。こっちに来てるわ。」

「わ!雛乃!待って!」


いちごうさんの制止も聞かず、雛乃は電話を切った。


「雛乃ー!なんで言っちゃうの??」

いちごうさんがフランの手をぶんぶんと振って抗議する。

「いちごうお姉様。ちゃんと謝った方がいいですよ?」

ぶんぶんと手を振られながら、フランはそう言った。

すごく困り顔。

フランだっていちごうさんが悪いなーって思ってる。


にしても2人って同棲してたんだ。

ルームシェア?それともお付き合い?

下世話な話だけどちょっと気になる……。


「分かってるんだけど……うーん。うーん。」

「分かってるなら諦めなさい。もう来るわよ。」


だけど私の考えもいちごうさんの迷いも、なにも解決しないままにチャイムは鳴った。

ピンポーン。

にっきさんが到着したらしい。


「私、いってきますね!」

またフランが迎えに行った。


今度は中々来ない。

どうしたのかな?


「普通はエントランスでチャイム鳴らすのよ。

 みんないちごうみたいに勝手に入ったりしないわ。」

「だって他の人が通るところだったからー。」


そういえばオートロック。

小鳥もいちごうさんも玄関に直接来てたから忘れてた。


「いちごう、ほら謝る準備しておきなさい。」

「うー。でもぉ……。」


なんでこんなに渋るんだろう?

なにか謝りたくない理由でもあるのかな。

そう思ってるうちに、がちゃりと玄関の開く音がした。


「おはよ〜。ひなのちゃん。それに新入りも〜。」


のんびりとした声。

喧嘩してるって聞いたけど、とっても穏やかにメイドのにっきさんは現れた。

それに合わせ、いちごうさんが雛乃の背中からひょこっと顔を出す。


「はるな……ゴミごめん。」


それだけ言って、また雛乃の背に引っ込んだ。

それだけのことなのに、とっても顔を赤くしている。


にっきさんがゆっくりと雛乃の後ろに回り込む。

そしていちごうさんの頭を優しく撫でた。


「それくらいで怒らないよ。

 ほら、一緒に帰ろ?」

「うぅ……。」

「もうっ。帰るよー。」


にっきさんがいちごうさんの手を引いて、そのまま背中をぐいぐい押して玄関へと運ぶ。


それにしてもゴミ出し忘れただけで落ち込みすぎじゃない?

にっきさんも気にしてないのに……。


「ねえ実はにっきさんってすごく怖かったりする?」

「そ、そんなことないよ!」


いちごうさんが慌てて否定した。

そしてあっと口を抑えて、そのまま外へと逃げてしまった。


「?」

にっきさんを見ると、微笑ましそうにニコニコしてる。

なんだかちょっと嬉しそうだ。


「いちごうさん、どうしたの?」

「どうしよっかな〜。

 でもフランちゃんに聞かせるお話じゃないし〜。」

「?」


やっぱりよく分からない。

ただフランはよく分からないなりに、空気を読んでくれた。

耳を両手で抑えて、聞かないよってアピール。

にっきさんはそれを見て、私の耳元に口を寄せた。

内緒のお話。


「実はね〜……。

 昨日してるときにね、あの子かっこつけてね……。

 あー、やっぱりこれ以上言えない!

 ごめんね〜。」


……。


昨日してるときに?


「ごめん、昨日してるときにってゲームとか?」

「言わせないで〜。新入りのえっち!」


……。


え、え、え、。

じゃあ、え、2人って……?


雛乃を見ると大きなため息をついていた。


「にっき。すぐに惚気るのやめて。」

「だって新入りちゃんが聞くから〜。

 じゃあまたあとでね〜。」


にっきさんはひらひらと手を振って出ていった。

ぽかんとする私を残して。


「もう大丈夫ですか?

 えへん。ちゃんと聞かないようにしました。

 褒めてください。」

「うん、フランは偉いね。よしよし。」


とりあえずフランを撫でて落ち着こう。

そっか、そっかぁ……。


「あの2人は付き合ってるわよ。」

「まだ噛み締めてるから突きつけないで。」

「しかもすごく進んでる。よく惚気にくるわ。」


ぐへぇ。

なんかちょっと羨ましい……。

そんなしっかりとしたカップルだったなんて……。


「雛乃……。」

「変な冗談言うなら殴るわ。」

「お嬢様。

 そういうのは冗談でいうことではありません。」


まあそれもそうだ。

いつか、いつかでいい。

ていうかやっぱり私たちにはまだ早いと思うし!

よそはよそ!


好きな人がたくさんいる現在。

いつかそういうことを皆とするときも来るのかな……。

もやもやを振り切るように、私は机に突っ伏した。



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