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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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フランとの豪雨のお月見デート


その日の朝は晴れていた。

なのに夕方から雲行きは怪しくなり、夜には豪雨になった。

くそが。


ザーザーなんて生優しい音を超えて、ゴーという音。

窓から外を見ると真っ暗でなにも見えない。

それに雷もバチバチと光っている。

せっかくのフランとのお月見デートなのに。

世界はなんでこんなにも残酷なんだ。


「フラン、地球がおバカでごめんね……。

 空気読めなくて……。」


夜ご飯も食べて、本当ならこれからお月見デートに行く時間。

なのにこんな雨じゃ……。

あまりの絶望に床に寝転んでぼーっとするしかできない。

お月見、楽しみだったのに。


「お嬢様お嬢様。」

「なーに……?フラン……あ」


青い髪に青い目。

腕輪を外したパーフェクト無敵フランがそこに居た。


「えへへ。この雨ならお空飛んでもバレないです。

 さあ、行きましょう?」

「う、うん。」


フランがゆっくりと私を抱き起こす。

そしてそのままお姫様だっこへと私の姿勢を変えた。



部屋から出て、真っ暗な外へ。

前と同じように、フランの足が空を踏む。

見えない壁が傘になっているように、雨は私たちに当たらない。

空に昇る途中、何度も雷の大きな音が鳴った。

だけどそんなの気にならない。

ここはフランの腕の中。

ここより安全な場所は宇宙のどこにだってないのだから。


雲の中に入ると、まるっきり何も見えなくなった。

それと音も聞こえなくなった。

フランが外からの音も遮断している?

ただフランの鼻歌だけが聞こえる。


「フラン、歌声も綺麗だね。」

「えへへ……。お褒めいただき光栄です。」

「一緒に歌っていい?」

「もちろんです!」


雷雲の中を歌いながら昇っていく。

なんだか人生のトロフィーをひとつ貰った気分だ。

きっとこのトロフィーは私とフランの2人しか持ってないだろう。

それがすごく嬉しい。


「お嬢様!そろそろですよ!」


鼻歌をやめ、フランがそう声を弾ませた。

雲の切れ間から僅かに射し込む月明かり。

それをこじあけるようにフランが進むと……。


「わ……。」


空には月と星。

そして眼下にはどこまでも広がる黒い雲の海。

そんな絶景が広がっていた。


「地球のお空はとっても綺麗ですね。

 お嬢様、一度下ろしますね。」


フランはキョロキョロと辺りを見回した。

手頃な大きさの雲を見つけると、それをぽんぽんと足で踏む。

そして私を地面に……。

いや雲に下ろした。

不思議なことに落ちるようなこともなく、私は椅子に座るかのように雲に腰を下ろした。


「やらかいね。ありがとフラン。」

雲はとっても柔らかい。

これならいくらでも座っていられそうだ。

「お嬢様、手を広げてもらってもいいですか?」

フランに言われるがままに手を広げる。

するとフランは、私と向き合うように膝の上に座ってきた。


「フランもやらかい。」

「お嬢様も柔らかです。」


ぎゅーっとお互いに抱き締めあう。

なんという贅沢。


「ここなら誰にも見られないしね。

 ふふっ。ふたりっきりー。

 あったかやわらか……。」


抱き締めたりほっぺをふにふにしたり。

抱き締められたりほっぺふにふにされたり。

はあ……幸せ……。


「フラン。ほっぺにしてもいい?」


フランは首を縦に振って答えた。

お言葉に甘えてほっぺに口付け。

すぐにフランは強く強く私を抱きしめて、その喜びを表現してくれた。


「お嬢様お嬢様。」

「なに、フラン?」

「えへへ……。」


もじもじとしたフラン。

照れたように笑って、私の胸に顔を埋めた。

ああ可愛い。

かわいすぎる。

もう。


「フランー、言いたいことあるなら言ってよ。」

「……なんでもないです。撫でてください。」


もごもごとした声でおねだりされた。

しょうがないなー。


フランの身体はすごく熱い。

撫でるとさらに熱くなった。

でもその熱さが心地いい。


「お月様、綺麗だね。」


フランの頭を撫でながら、私はそう呟いた。

その時一瞬だけフランの身体がすごく熱くなった。


「フラン?」

「なんでもないです。撫でてください。」


よく分からないけど、そのまま撫でる。

髪、さらさらで可愛いな。

好き。好き。


「フラン。大好き。好き。好き。」

「照れちゃいます……。」


ぐりぐりと頭を押し付けてくるフラン。

欲を言えばその綺麗な青い瞳も見たい。

顔をあげてくれないかな……。


「フラン、お月様も綺麗だよ。一緒にお空見よ?」


こう言えばフランも顔を上げてくれるな。

そう思ってお願いしたら、またフランはぼっと熱くなった。


「なんでもないですー。撫でてくださいー。」

「?う、うん。」


(なんか違和感?

 すごく照れてる気がする。

 でもなんで?)


抱きしめて頭をなでなでし合うなんて、毎日のこと。

それが嬉しくなくなったわけではないけど、そんな熱くなったりするほどでは……。


それでもフランのお望みどおりに30分くらいは撫で撫でし続けた。


ぴぴっぴぴっ。


フランのポケットからアラームの音。

腕の中でぐりぐりと身体を押し付けてきていたフランがスマホを取り出した。


「そろそろちょっとずつ晴れてきちゃいます。

 名残惜しいけど帰りましょうか。」


一度月をちらりと見て、フランはそう言った。

晴れてきちゃったら誰かに見られちゃうかも。

今日はもうこの辺りが潮時。

もっと楽しみたかったけどしょうがない。


「フラン、帰りもお願いしていい?」

「勿論です。お嬢様。」


腕を前に突き出すと、フランが抱き起こしてくれた。

来るときと同じお姫様抱っこ。


まだゴーゴーと降る雨の中、フランに抱えられてゆっくりと空を降りていく。


(月、綺麗だったな。)


初めて雲の上から月を見た。

きっとこの月は絶対に忘れない。





あれ?


そういえばフランがぼっと熱くなった時もそんな話を……。


(あ)


月が綺麗だよ。

その言葉に反応してた。


つまり……。


フランはずっとロマンチックな雰囲気になるのを待ってた?

そしてフランはよく言っていた。

キスはロマンチックな雰囲気の中でしたいと……。


やばい。

私、今日すごく空気読めてなかった。


「ねぇフラン、もうちょっとだけ……。」

「これ以上は駄目です!晴れてきちゃいます!」


ぴしっとフランはそう言った。

挽回のチャンスはないらしい。


それからは無事に誰にも見られることなくアパートに到着。

フランとお風呂に入って、フランを抱いて寝た。


だけど私の心はずっとそわそわ。

どうすればフランとロマンチックな環境でキスできる?

それがぐるぐると回って、すんなり眠ることなんてできやしなかった。

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