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余命60年の私と余命8億年の君  作者: とりもち
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鈴の1日執事体験


『ぐっすり寝てたので起こしませんでした。

 今日は唯華お姉様の護衛に行ってきますね。』


今日はフランが側にいない

唯華ちゃんがお泊まりを許された理由は、側にフランが居るから。

つまり、唯華ちゃんがお家に帰るまでの護送もフランの仕事として任されてしまっているのだ。

そんな書き置きを残して、フランはお出かけしてしまった。


じゃあ小鳥と一緒に過ごそー。

そう思ったら、小鳥には断られた。

大学があるからと、そそくさと出ていってしまったのだ。

めぐるちゃんもみゆちゃんも自分の学校。

やばい。

誰も居ない。


(詰んだ。)


部屋で仰向けになりぐでーっとしていると、ガチャリと扉の開く音がした。


そろりそろりと近寄る足音。

闖入者の正体は知っていた。


「へい兄弟!遊びに来たぜ!喰らえ!」

「喰らわぬ。」


鈴は私の足に蹴りを入れようとしてきた。

私は足を畳んでそれを躱す。


「なー。躱すなよー。

 せっかく来てやったんだぜ?

 フランちゃんに頼まれたんだぜー。

 お前のお世話をよー。」


その声に起き上がり、鈴の方を見て驚いた。

その突飛な格好に。


「な、なにその格好は……?」

「良いだろー!フランちゃんの真似!

 それに俺様アレンジ!」


執事服の上に派手な柄シャツを羽織ってる。

そんなめちゃくちゃな格好だった。


「今日は俺をフランちゃんだと思って……

「全然違う。思えない。」

「じゃあ俺を俺として愛してくれるってことか!?」

「違う。愛さない。」

「ちぇー。」


ぶーぶーと言いながら、鈴は台所に向かった。


「ほれ、お茶。」

「……ありがと。」


起き上がって鈴の淹れてくれたお茶を飲む。

めちゃくちゃ美味しい……。


「まあとりあえず今日は俺が執事だから。

 なんでも言ってくれたまえ。」


鈴は胸を張ってそう言った。

悔しいけど、お茶の美味しさが鈴の執事適正の高さを物語っている。

ここは任せてみようか。


「見極めてやろう。お主の執事力。」

「ならば俺も測ってやろう。お主のお嬢様力。」


バチバチと散る火花。

という訳で今日は鈴との執事VSお嬢様バトル。

さぁどちらが先に音を上げるか。


「はい!まずその髪!お嬢様ポイントマイナスいち!

 全然お嬢様っぽくない!」

「はぁ!?じゃあ鈴のシャツ!

 執事はそんな派手な服着ない!

 執事ポイントマイナス2!」

「じゃあお前のジャージはなんだよ!

 お嬢様ポイントマイナス3!」

「家なんだからいいじゃん!

 心にゆとりがない!執事ポイントマイナス4!」


熾烈なポイントの削り合い。

鈴には負けたくない。


30分もしないうちに、お互いのポイントはマイナス100を切った。

鈴め、中々やりおる。


一時休戦。


「そういや高校の時にあげた漫画まだ持ってるー?」

「そっちの棚にあるよー。」

「あざー。」


鈴はのそのそと動いて、漫画を取り出した。

そして私の膝に座って読み出した。


「おい。」

「いいじゃん。減るもんじゃないだろ。」

「いいけどくすぐるからな。」

「残念。無敵モード!」


鈴は腕輪を外し、ぽいっと投げ捨てた。


「これで効きましぇーん。ざまぁみさらせ。」


舌をべろべろと出して、馬鹿にした表情。

死ぬほどムカつく顔。


(……泣かせてやる。)


お腹に手を入れて、容赦なくくすぐる。


「効きませんったら効きません。

 ばーかばーか。まぬけのあほー。

 べろべろべー。」


ずっとべろべろと舌を出してる。

ほんとに全然効いてない……。


「あー。たのし。無敵モードたのし。」


鈴は私の膝の上で調子に乗り切っている。

こんな屈辱は初めてだ。

どうにかやり返したい。


ただ本気を出した鈴は強かった。

膝の上からてこでも動かない。

すごくすごく軽いのに力強い。

まるで膝の上に根を張られたみたいだった。


結局、私は鈴をどかすこともできずに1時間くらいひたすらに文句を言い続ける羽目になった。


「あー!楽しかった!じゃあご飯作るなー!」


鈴は急に立ち上がって、そのまま台所へと向かった。

自由すぎる。


ふと、鈴が投げ捨てた腕輪が目に入った。


「ねえ鈴、これってつけ直さなくていいのー?」

「どうせ二人っきりだしだいじょぶ!

 あ、そうだ。それで遊んでていいよー!」


そうは言われても、もう既に1個持ってる。

今さら遊ぶようなこともない。


「お前のステルスついてない古いやつだろ?

 俺のやつつけて、透明になれーって念じてみ!」


あ、そうだ。

鈴とフランのは特別製だっけ。

言われるがままに、つけて念じてみる。


スーッと自分の身体が世界に溶けていくような。

不思議な感覚がした。


鈴に近づいて、その目の前で手を振ってみる。


「おーい。りーん。へーい。」

「どうだー。楽しんでるかー?」


私の言葉を無視して、鈴は私に問いかける。

もう私のことは認識できてないみたいだ。


「鈴!これどうやって戻すの?」

「じゃあ俺は飯作ってるなー。

 火には触れるなよ!火傷とかはするからな!」

「鈴!これ!どうすれば元に戻るの!?」


私の問いかけが聞こえてない。

え、これどうするの?

私ずっとこのままなの?


「ふんふんふーん♪

 このみ、このみ、このこのみー♪

 ふふんふーん♪」


鈴はもう完全に私を意識から外してる。

お気楽に歌を歌い始めた。


怖い。

え、ちゃんと気づいてもらえるよね?


ひたすら鈴に向かって声をかける。

鬱陶しいって言って無理やり解除してもらえるように。

だけどそんな思いとは裏腹に、鈴はずっと私のことを無視し続けた。


30分くらい経って、豚の生姜焼きができた頃。


「鈴……。ごめん……。ほんとに助けて……。」

「ご飯できたぞー!腕輪外せー!

 飯が冷めるぞー!」


急いで腕輪を外す。

地に足がついたような感覚。


「お前!まじで!ふざけんな!!!!」

「わ、な、なんだよ!なんで泣いてんだよ!」


ぽかぽかと鈴を叩く。

腕輪、あんなに怖いものだったなんて知らなかった。

二度とこの機能は使わない。


「ああもう痛いから叩くなよ。

 ほら、冷める前に食おうぜ?」

「うん……。」


鈴のせいなのに、会話できることが嬉しくてまた涙がこぼれた。


という訳で鈴の執事適正は死ぬほど低いことが分かった。

お嬢様らしくないと馬鹿にされ、椅子代わりにされ、挙句には恐ろしい目に遭った。


ただまぁ……。


フランが帰ってきたあと、フランにひとつ質問された。

今日は楽しかったですか?と。

私はそれに迷いなく楽しかったと答えた。


まあ腐っても親友なのだ。


結局なにがあっても嫌いになんてなれないまま、今に至るのである。



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